記事1『口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)とはどんな病気?主に頬粘膜や歯肉に発生する慢性炎症性疾患』で、口腔扁平苔癬と鑑別が必要になる疾患の一つとして口腔白板症をご紹介しました。口腔扁平苔癬と口腔白板症はよく混同されているウェブサイトの情報もありますが、まったく違うものです。
東京医科歯科大学顎口腔外科学分野の津島文彦先生に、口腔白板症とはどのような疾患なのか、口腔扁平苔癬と口腔白板症との違いや癌へと進行する可能性などについてご紹介していただきました。
口腔癌の中で最も多い口腔扁平上皮癌の15%から60%は口腔白板症に伴っていたとの報告もあり、口腔白板症は口腔内に生じる前癌病変の中で最も代表的な疾患です。WHOの診断基準では『口腔粘膜に生じた摩擦によって除去できない白色の板状(ばんじょう)あるいは斑状の角化性病変で臨床的あるいは病理組織学的に他のいかなる疾患にも分類されないもの』と定義されています。
前癌病変の組織学的分類に上皮性異形成があり、上皮性異形成は程度により軽度、中等度、高度の三段階に分類され、一般的に上皮性異形成の程度が高いものは癌化しやすいといわれています。
口腔白板症の診断には、上皮性異形成の有無については問われないため、病理組織学的に上皮性異形成を伴わない口腔白板症と上皮性異形成を伴う口腔白板症を認めます。
口腔扁平苔癬は、病理組織学的に上皮性異形成を認めるものは口腔扁平苔癬から除外されるため、口腔白板症と口腔扁平苔癬の大きな違いになります。
【白板症の分類方法】
WHO:均一型、不均一型
4分類:白斑型、紅斑混在型、丘型、疣(いぼ)型
現在白板症の分類は、均一型と均一型と非均一型に分類することが一般的です。
口腔白板症は、歯肉や舌縁(舌の側面)に多く、次いで頬粘膜、口蓋、口唇、口底に認めます。上皮が過角化を認め肥厚したことで、粘膜表面に板状や斑状の白色病変を形成します。周囲粘膜との境界は比較的明瞭です。また、病変の一部に紅斑やびらん、潰瘍などを伴うこともあります。
口腔白板症の臨床視診型は、白斑が平坦で均一な均一型と表面が粗造で一部隆起して、紅斑やびらん、潰瘍を伴う非均一型に一般的に分類されますが、紅斑の有無により白斑型と紅斑混在型に、隆起の程度により丘型、疣(いぼ)型に分類する4分類もあります。
口腔白板症が、自発痛や接触痛といった痛みなどの自覚症状を伴うことは少ないです。そのため、むし歯の治療で歯科医院を受診した際や歯科検診や口腔癌検診で指摘されてはじめて気がつく患者さんもいます。
口腔白板症の原因として局所的には喫煙、不適合な義歯や歯の修復物による慢性機械的刺激、全身的にはビタミンAの不足などが言われていますが、はっきりとした原因はわかっていません。
口腔白板症を発症しやすい年代が40歳以降であることは口腔扁平苔癬と共通していますが、女性より男性の方が発症しやすいという点に違いがあります。これは、男性が喫煙習慣を有している方が多いことが要因として考えられます。
口腔白板症は、一般的に経過観察期間が長くなると癌化するリスクも高くなるといわれています。当科における経過観察期間を考慮にいれた累積癌化率は、5年で5.6%、10年で8.7%でした。口腔扁平苔癬と比較すると、癌化するリスクは非常に高いです。
また、部位や臨床視診型によっても癌化率に違いがあり、部位では舌縁にできた口腔白板症が、臨床視診型では非均一型の口腔白板症が癌化するリスクが高いといえます。
口腔白板症は、病態によっては既に一部が癌化していることもあるため生検を行うことをお勧めします。
当科における白板症の治療は、生検を行い上皮性異形成が中等度以上の場合には癌化するリスクが高いため切除を勧めています。切除を行わない場合には、不適合な義歯や歯の修復物による機械的刺激の除去および禁煙を勧めながら、病態に応じて1か月から3か月程度の間隔で経過観察を行います。機械的刺激の除去や禁煙により、病変が消失することもあります。
白板症を外科的切除する場合は、メスを使った切除を第一選択とします。切除する際には、病変および周囲粘膜に対しルゴール染色を行い上皮性異形成の範囲を確認し、上皮性異形成に対し、5mm程度の安全域を設定して切除を行います。切除した白板症は、病理組織検査にて癌化している部分がないか細かく調べます。
以前は口腔白板症の外科的治療でレーザーを使用することもありましたが、レーザーは病変組織を蒸散させるため、術後に病理組織検査ができないこと、また蒸散後の再発率がメスによる切除よりも高いため、現在当科では行っていません。
外科的切除を実施した場合の口腔白板症の再発率ですが、メスで切除をした場合は10%程度、レーザーの場合は20~30%といわれています。よって切除後も定期的な経過観察が重要になります。
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 顎口腔腫瘍外科学分野 講師
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