首に腫れや痛みの症状が現れた場合、何科を受診しようか迷う方も多いかもしれません。実は頸部(首のこと)の病気は耳鼻咽喉科の領域であり、耳鼻咽喉科を受診することが治療への早道です。頸部は、体の健康を維持するために重要な役割を果たしています。たとえば、頸部には、唾液を出すはたらきを持つ耳下腺や顎下腺、代謝に有効な役割を担う甲状腺があります。さらに、リンパ節が多数集まっており、免疫を守るためにはたらいています。このように重要な部位である頸部に、腫れやしこり、痛みなどの症状が現れた場合、その原因は何なのでしょうか。今回は、横須賀市立うわまち病院の耳鼻咽喉科にインタビューさせていただきました。
一般的に首と呼ばれる頸部は、主に以下の図のように、耳下部、顎下部、頣部、前頸部、側頸部に分かれています。これらの部位のうち、耳下部には耳下腺、顎下部には顎下腺、前頸部には甲状腺と呼ばれる腺組織があります。この腺組織には主に分泌物をだすはたらきがあり、耳下腺や顎下腺は唾液を分泌するはたらき、甲状腺は体の代謝に必要なホルモンを分泌するはたらきを持っています。これら腺組織以外にも、頸部には免疫器官であるリンパ節が数十個集まっており、体の免疫を守るために重要な役割を果たしています。
このように重要な役割を果たす頸部に生じる病気は、主に、症状と発生した場所により病気が異なります。後ほどそれぞれの病気についてお話ししますが、頚部の腫瘍では、甲状腺腫瘍が特に多いと考えられます。また、大きなリンパ節が耳下部周辺にあることに加え、腫瘍の中では甲状腺腫瘍の次に耳下腺腫瘍が多いため、耳下部が腫れる方も比較的いらっしゃいます。
唾液腺腫瘍と呼ばれるものには、耳下腺腫瘍と顎下腺腫瘍があります。耳の下に症状が現れる場合は耳下腺腫瘍、顎の下に現れる場合は顎下腺腫瘍の可能性があります。腫瘍が良性である場合は腫れやしこりが主な症状で、悪性腫瘍の場合は顔面神経の麻痺や痛みを伴うことがあります。
首の前頸部に位置する甲状腺に由来する腫瘍を甲状腺腫瘍と呼びます。甲状腺腫瘍にも良性腫瘍と悪性腫瘍があり、どちらも腫れやしこりが主な症状です。腫瘍が小さいうちは自覚症状がほぼないため自ら発見することが難しいといわれていますが、たとえばしこりが2cm以上になると、隆起物として容易に確認することができるでしょう。
リンパ節が炎症や腫瘍などにより腫れあがることをリンパ節腫脹といいます。特に、大きなリンパ節が耳下部にあるため、耳下部が腫れる方が多いといわれています。炎症にはウイルスや細菌の感染による急性リンパ節炎、慢性リンパ節炎などがあります。これら炎症性のものは痛みを伴うことがある点が特徴です。また、腫瘍には良性のものと悪性リンパ腫があり、特に悪性リンパ腫は治療が長期に及ぶため注意が必要です。
嚢胞とは、内部に液体成分を有する袋状の病的な構造物のことを指します。いくつか種類がありますが、代表的なものに、首の前頸部にできる正中頸嚢胞、首の側頸部に発生する側頸嚢胞があります。主な症状は、頸部の腫れのみですが、炎症や痛みを伴う場合があります。
お話ししたように、頸部の病気に羅患すると腫れやしこりの症状が現れます。特に初期の場合は症状が非常に小さいために、自覚症状はほぼないといってよいでしょう。それでも、個人差はありますが、首の腫れやしこりが2〜3cmほどになると違和感を覚える方が多いと思います。1cm以下であるとなかなか気づかないかもしれませんが、しこりがかなり表面にある場合は、1cmであっても触れば分かる場合もあります。さらに、2、3cmまで大きくなったしこりは、少し深部にあったとしてもしこりとして感じる場合もあるでしょう。
また、リンパ節腫脹などで炎症を伴う場合には、痛みを感じる方もいます。さらに、患部が赤くなる、熱を持つということもあるでしょう。また、悪性腫瘍の場合は、神経の麻痺がでることがあり、主に顔面など頸部周辺に麻痺を感じることがあれば、早めの受診が重要でしょう。これらの症状は自覚症状として気づく方も多いと思います。
咽喉頭の悪性腫瘍の場合は、喫煙や飲酒が病気にかかるリスクを高めるといわれています。そのため咽喉頭の悪性腫瘍に伴う頸部リンパ節転移の場合は、喫煙や飲酒がリスクになります。一方、良性の頸部腫瘍に関しては、原因はいまだに解明されていません。そのため、注意をして防げるような病気ではないといえるでしょう。しかし、腫瘍の多くは中高年の患者さんが多いことが分かっており、加齢とともに注意すべき病気であると思います。また、嚢胞は先天的なものであるので、こちらも予防は難しいでしょう。ですから、少しでも頸部に違和感を覚えることがあれば、なるべく早く受診をしていただくことで重症化を防ぐことができるのではないでしょうか。
このような頸部病気の治療は、耳鼻咽喉科の領域であるにもかかわらず、頸部の病気が耳鼻咽喉科の領域であることを知らない方も少なくありません。そのため、首が腫れても内科を受診する方が多くいらっしゃいます。実際に、私たちの病院の耳鼻咽喉科にも、内科からの紹介で受診される方が数多くいらっしゃいます。しかしながら、頸部に腫れやしこりなど何らかの異常が見られる場合には、耳鼻咽喉科を受診することが早期治療につながります。
現在、病院により多少の違いはあるかもしれませんが、頸部の病気における診断の流れは、ほぼ同じであると思います。ここでは、私たち横須賀市立うわまち病院の耳鼻咽喉科における診断の流れをお話しします。
・診察で病気の目安をつける
私たちの病院では、まず診察室にある機器を用いて視察をします。次に問診で患者さんから症状を聞き、腫れやしこりを確かめながら病気の発生場所を確認します。ここでだいたいの病気の目安をつけます。このとき、鼻や口の中も重点的に確認します。最後に、内視鏡のひとつであるファイバースコープで咽頭や喉頭は不要部まで見て、腫瘍がないか確認します。それは、悪性腫瘍の場合、がんの発生元である原発巣が鼻や口や咽喉頭にあることが多いからです。
・細胞診など病気の特定のために検査を行う
触診によって確認したしこりの硬さや発生場所にもよって、必要であれば造影CTの撮影や、エコー検査を行い、病気を特定します。
腫瘍が悪性か良性かは腫瘍の細胞を調べる必要があるため、細胞を診断する細胞診を行います。そのほかにも、悪性腫瘍の可能性が高ければ腫瘍マーカーなどの採血をします。これら病気の特定のためには、検査の前段階である最初の診察でだいたいの病気の目安をつけることが非常に重要です。そのため検査はもちろんのこと、診察は特に注意深く行うようにしています。
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