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世界医師会会長、外務省医務官、JAMSNET-それぞれの立場からグローバルヘルスへの貢献を考える

世界医師会会長、外務省医務官、JAMSNET-それぞれの立場からグローバルヘルスへの貢献を考える
横倉 義武 先生

世界医師会(World Medical Association:WMA) 名誉会長、公益社団法...

横倉 義武 先生

仲本 光一 先生

外務省診療所 所長

仲本 光一 先生

古閑 比斗志 先生

特定非営利活動法人JAMSNET東京 理事長、ふかやクリニック 院長

古閑 比斗志 先生

JAMSNET東京(ジャムズネット東京)は、海外居住経験を持つ医療、保健、福祉、教育、生活等の...

JAMSNET東京(ジャムズネット東京)

この記事の最終更新は2017年12月15日です。

グローバル化に従い、今多くの日本人が海外を拠点に活躍しています。世界各国の公館に勤務する「外務省医務官」は、このような在外邦人や邦人渡航者が、大規模災害やテロ事件などに巻き込まれてしまった場合、速やかに駆けつけ、ケアを行なうことを重要なミッションのひとつとしています。また、2001年の9.11同時多発テロ事件発生時には、現地の公的機関が閉鎖されるなどの事態を受け、迅速に対応できる官民連携組織の必要性が叫ばれました。この出来事を機に立ち上げられた組織が、邦人医療支援ネットワーク・JAMSNET(ジャムズネット)です。

2017年10月、世界医師会会長の横倉義武先生、外務省診療所所長・ジャムズネット東京理事の仲本光一先生・ジャムズネット東京理事長の古閑比斗志先生がご対談されました。当日は、世界医師会会長の横倉先生へ仲本先生から外務省医務官の職務紹介、古閑先生からジャムズネットの活動紹介が行われ、その後はグローバルヘルスへの貢献をテーマに闊達な議論が行われました。

横倉先生:今から2年ほど前、ロシアの公館にお伺いした際に、外務省医務官の先生とお話ししたことがあります。仲本先生は、2017年現在外務省診療所所長として、多くの在外医務官を取りまとめるお仕事をされているそうですね。まずは、外務省で働く医師である医務官の仕事について教えてください。

仲本先生:現在100名を越える医務官が、アフリカ地域をはじめとする104の大使館・総領事館に勤務しています。(2017年8月時点)

医務官の基本的な職務は、各国公館で働く館員と、そのご家族の日常診療や保健相談です。重症の場合は、緊急移送のアレンジも我々医務官が行います。

もうひとつ、医務官の重要な職務として、現地の医療情報の収集と報告があります。最近ですと、ジカ熱の情報などを流行国に勤務する医務官が集積し、日本へ報告しています。状況によっては、日本人会などで講演会などをセッティングし、現地邦人へ情報発信を行なうこともあります。

ダッカ襲撃
外務省医務官の役割 資料提供:仲本光一先生

横倉先生:世界医師会・日本医師会では、現在アフリカ地域への医療貢献をひとつの目標に掲げています。たとえば、ザンビアではワクチン接種によるHIVのコントロールに成功し、平均寿命が国単位で大きく延長しました。こういったケースを増やせるよう、支援の手を増やしていきたいと考えているところです。

仲本先生:今、アフリカ地域の34か国で外務省医務官が活躍しています。ぜひ、外務省としても現地の医療情報を提供させていただき、オールジャパンで支援活動に取り組んでいきたいですね。

外務省のWEBサイトでは、2017年現在、137か国・150地域の医療情報を詳細にお伝えしています。どの病院に行くのがよいか、また、渡航時にはどのようなワクチンを打ったほうがよいかといった情報を掲載しています。ぜひ、多くの在外邦人・邦人旅行者の方にご覧いただきたいと願っています。

仲本先生

「世界の医療事情」 外務省WEBサイト:http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/

横倉先生:大規模災害やテロ発生時のプライマリ・ケアなども、外務省医務官の方々が行っていると伺いました。ダッカ(バングラデシュ)のテロ事件など、日本人が巻き込まれる痛ましい事件も増えていますね。

仲本先生:ダッカ襲撃テロ事件の折には、私も現地でご遺族のケアなどにあたりました。私は外務省医務官となって約25年になりますが、特に近年に入り、テロや災害発生時に医務官が駆けつけ、プライマリ・ケアや初期治療を行なうことが重要なミッションとなってきています。

2001年の9.11同時多発テロ事件(アメリカ)発生時には、24名もの日本人の方が亡くなられるなど、多くの邦人被害者が出ています。

古閑先生:9.11同時多発テロ事件の際には、日本人が災害弱者となるという事態に直面しました。この出来事を機に、邦人支援対策を行なう官民連携組織の必要性が叫ばれるようになり、JAMSNET(ジャムズネット)が立ち上がりました。JAMSNETの組織概要と活動についても、ここでご紹介させていただきます。

9・11
アメリカ同時多発テロ事件発生時の状況 写真提供:仲本光一先生

仲本先生:邦人医療支援ネットワーク・JAMSNETは、私がニューヨーク日本国総領事館に勤務していた2005年に創設された組織です。9.11同時多発テロ事件の際には、日本語による情報発信があまりにも少なく、「“あのニューヨークでさえ”日本人がマイノリティ(災害弱者)となってしまうのだ」という意識が、在外邦人の間に広まりました。また、事件当時は日本国総領事館ビル入り口が閉鎖となり、公的機関として邦人支援の対応に遅れが生じたことも問題となりました。

横倉先生:緊急時に同じ日本人同士が助け合えるネットワークや、迅速に対応できる組織の必要性に改めて気付かされますね。

仲本先生:2011年の3.11東日本大震災の際には、ニューヨークをはじめとする米国在住邦人の方々から、東北に支援をしたいという声があがりました。9.11の際に米国在住邦人の方が目の当たりにした出来事を受けて作られた組織という背景もあり、アメリカから日本への震災支援のつなぎ役も、JAMSNETが担当しました。

古閑先生:グローバル化が進み、海外で活動・生活される日本人は著しく増えています。日本は災害に見舞われることも少なくはない国ですから、今後は在外邦人の方が、日本で被災された方や地域を支援するという機会も増えるかもしれません。仮に今後国内で何かが起こったとき、これまでの活動により蓄積されたノウハウを活かして、JAMSNETにできることも多々あると考えています。

仲本先生:今、JAMSNET (NY/ニューヨーク)は150名ほどの会員を持つ組織となりました。ニューヨークにつづき、帰国者を中心としたJAMSNET東京、さらにはJAMSNETアジア、カナダなどが立ち上がり、お互いがメールでつながり合っています。医師や看護師、心理士や教育関係者など、多職種の方が会員として連携し、転勤時や事故の発生時などにその土地の医療情報を提供し合っています。また、定期的に講演会や勉強会などの啓蒙活動も行っています。

横倉先生

横倉先生:JAMSNETの関連団体には、米国日本人医師会がありますね。そこの団体の医師の方々と本会の役員がニューヨークで交流し、日本にもおみえになったことがあります。日本医師会は、2012年に卒後10年以内の若手医師を中心とした「日本医師会ジュニアドクターズネットワーク(JMA-JDN:世界医師会JDNの日本のカウンターパート)」を設置しました。今、こうしたグループの若い先生同士が定期的に交流し、国際的な活動を展開しています。

古閑先生

古閑先生:2017年11月24日から3日間、日本熱帯医学会、日本国際保険医療学術大会、日本渡航医学会による三大会合同のグローバルヘルス大会2017が開催されます。この最終日である11月26日(日曜日)に、各地のJAMSNETのコアメンバーが一堂に会し、第3回となるジャムズネットワールドの講演会を行います。

仲本先生:講演会のテーマは、「世界の医療制度 その光と影 邦人の視点から」としました。当日はJAMSNET(NY)やJAMSNET東京、カナダ、タイ、シンガポール、ドイツのコアメンバーが、それぞれの地域の医療制度のよいところと課題点を紹介します。世界各国の医療制度の特徴を知り、ぜひ今後の日本の医療制度改革のヒントにしていただけたらと願っています。

横倉先生:日本の医療制度は、今まさに変革の時期を迎えています。世界の医療制度を知り、オールジャパンで手を携えながら前進していきたいですね。ぜひ、日本医師会としても応援させてください。

JAMSNET
左から日本医師会会長・世界医師会会長の横倉義武先生、外務省診療所所長・ジャムズネット東京理事の仲本光一先生、ジャムズネット東京理事長の古閑比斗志先生、メディカルノート代表・井上祥

グローバルヘルス大会2017ならびに第3回ジャムズネットワールド講演会は、盛況のうちに無事終了致しました。