心臓には、自動的に動いて全身に血液を送る働きがあります。この心臓の自動的な働きは、発電所と電線から成り立っており、発電所の電気興奮は、正常電線を通り心臓全体に伝わります。心臓は1日に約10万回興奮し、全身に血液を送るポンプとして機能しています。
WPW症候群とは、この正常な電線のほかに、余分な電線を持つ状態を指します。では、このように余分な電線があることで、どのような症状が引き起こされるのでしょうか。
山形大学医学部附属病院の有本 貴範先生は、WPW症候群の治療に数多く携わっていらっしゃいます。今回は、同病院の有本 貴範先生に、WPW症候群の原因や症状についてお話しいただきました。
心臓は、右の心房と心室、左の心房と心室、というように4つの部屋に分かれています。右心房から右心室へと送られた血液は、次に肺へと送られます。肺へ送られた血液は酸素が少ない状態であるため、肺で十分に酸素を取り込んだ後、左の心房に戻る仕組みになっています。肺静脈から左心房へと戻った血液は、左心室へと送られ、そこから全身に送り届けられます。
この一連の心臓の働きを、循環と呼びます。
心臓には、発電所(洞結節:どうけっせつ)があります。この発電所の電気興奮は、正常電線(心臓内部にある刺激伝導路)を通り心臓全体に伝わります。電気興奮が心臓全体に伝わることで心臓はポンプとして働き、全身に血液を届けるのです。心臓は1日に約10万回、このように活動しています。
WPW症候群とは、心臓に余分な電線を持つ状態を指します。WPW症候群の方は、生まれつき通常の刺激伝導路とは別に、副伝導路と呼ばれる余分な電線を持っています。この余分な電線は、心臓の左側に存在することが最も多いでしょう。
ではなぜ余分な電線があると問題なのでしょうか。心房と心室の間には、関所のような役割を果たす房室結節(ぼうしつけっせつ)と呼ばれる場所があります。この房室結節は、電気の通りをゆっくりにすることによって、心房と心室の興奮に時間差を与える役割を果たしています。
余分な電線があると、発電所の興奮は房室結節を通る正常な電線(刺激伝導路)だけではなく、余分な電線も通ってしまいます。この場合、心房と心室の興奮には時間差が発生せず、心房の興奮の直後に心室の興奮が起こります。このこと自体は、普段の生活に影響を及ぼすことはありません。しかし、後ほど症状の項で詳しくお話ししますが、余分な電線があるために発作性の頻拍(ひんぱく)が起き重症化につながるケースがあるでしょう。
WPW症候群の発生頻度は、全人口の0.1〜0.3%程といわれています。生まれつきであり、年齢とともに増加するようなものではありません。また、男女間の発生に差異は認められておらず、男女比率はほぼ同等であるでしょう。
心電図とは、心臓の電気的な活動の様子を記録したものです。WPW症候群は、心電図検査で診断します。
心電図では、心房の興奮をP波と呼びます。一方、心房の興奮の次に起こる心室の興奮はQRS波といいます。QRS波の次にやってくるT波は、再分極と呼ばれ、心室が次の興奮に備えている状態のときに発生します。
正常な心電図では、以下のように、P波の後に房室結節をゆっくり通り、平らな線になってからQRS波が始まります。
一方、WPW症候群の方の心電図には、P波とQRS波の間に平らな線がありません。WPW症候群では、房室結節以外に余分な電線も通るために、P波(心房の興奮)に引き続いてQRS波(心室の興奮)がすぐに始まります。QRS波の最初にある三角形のなだらかな立ち上がりは、ギリシャ文字の⊿(デルタ)に似ているために「デルタ波」と呼ばれWPW症候群の心電図に特有のものです。
WPW症候群は、先天的に発生します。原因は解明されておらず、生まれながらに誰でも余分な電線をもっている可能性があるといえるでしょう。明らかな遺伝も認められておらず、親がWPW症候群だとしてもお子さんがWPW症候群になるわけではありません。
WPW症候群の典型的な症状は、頻脈発作に伴う動悸でしょう。特に、規則的に速く鼓動をうつ動悸を感じる方が多いでしょう。この症状が現れる年代には個人差があります。
一般的に、WPW症候群の方は、心臓に余分な電線を持っていながらも普段は症状が現れず、通常通り元気に過ごされている方が多いでしょう。
しかし、なかには、以下のような発作を起こす方もいらっしゃいます。
WPW症候群の方のなかには、余分な電線があることで、電気興奮の経路が急に変わってしまうケースがあります。通常の心臓では、心房の興奮後に心室の興奮が生じるというように、上から下に向かって興奮が伝わります。
しかし、発作性上室性頻拍の状態になると、心房から心室へ降りてきた興奮が、また心房に戻るというように電気興奮がくるくると回ってしまう発作的な頻拍に陥る方がいるのです。
規則正しい正常な発電であれば、1分間に脈拍は50〜100程度です。しかし、発作性上室性頻拍になると、1分間に150~200程度など、通常の2〜4倍の心拍数になってしまいます。
この発作性上室性頻拍になると、強い動悸とともに気持ちの悪さを訴える方が多いでしょう。
WPW症候群の方の突然死の可能性は、0.1%程度といわれています。記事2で詳しくお話ししますが、すでに効果的な治療法が確立されているため、突然死するほど重症化する方は少ないでしょう。
突然死する方のなかで最も多いケースは、発作性心房細動との合併です。発作性心房細動では、発電所(洞結節)以外の心房が、無秩序で過剰な興奮を起こす状態を指します。心房細動では、1分間に約300〜700もの過剰な発電が確認されます。
WPW症候群の方が発作性心房細動になると、異常興奮が房室結節(心房と心室の間にあり電気の通りをゆっくりにする場所)以外に余分な電線も通るために心拍数が非常に速くなります。
心房細動は、加齢とともに起こりやすくなることがわかっており、60代以上で発症する方が数多くいます。このため、WPW症候群の診断を受けたのであれば、循環器内科に相談することが重症化を防ぐことにつながるのではないでしょうか。
WPW症候群の診断と治療に関しては、記事2『WPW症候群の根治的治療とは? WPW症候群の診断と治療』をご覧ください。
山形大学 医学部 第一内科 助教
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