WPW症候群とは、生まれつき心臓内部に、正常な電線のほかに余分な電線を持つ状態を指します。心臓に余分な電線があることで、脈が速くなる頻脈性不整脈になるケースがあり、なかには重症化する方もいらっしゃいます。では、この重症化を防ぐために治療法はあるのでしょうか。
山形大学医学部附属病院の有本 貴範先生によると、WPW症候群の根治的治療はすでに確立されているそうです。今回は、同病院の有本 貴範先生に、WPW症候群の診断と治療についてお話しいただきました。
WPW症候群の原因や症状に関しては、記事1『WPW症候群の原因や症状とは?』をご覧ください。
WPW症候群の症状には個人差があり、動悸が起こる時間帯や頻度も異なります。たとえば、1日に1回必ず動悸が起こるという方もいれば、1か月に1回しか動悸が起こらない方もいるわけです。
このため、主な症状である動悸の発生頻度に合わせて、以下のような検査を使い分ける必要があるでしょう。
最も基本的な検査であり、多くの医療機関で実施可能な検査です。学校検診や会社の検診で適応されるために、自覚のない方であっても発見される確率が高いでしょう。
1日1回必ず動悸が発生するという方は、ホルター心電図が有効です。ホルター心電図は、胸に電極シールを貼り付け、携帯型の心電図装置に心電図を24時間記録する検査方法です。
頻繁に動悸が認められないような方であると、心電図検査やホルター心電図を受けても異常が見つからないケースがあります。
このようなケースでは、イベントレコーダーや携帯心電計が有効でしょう。イベントレコーダーとは、胸に電極シールを貼り付け、携帯型の心電図装置に心電図を2~4週間記録する検査方法です。携帯心電計は、動悸が発生したときに自分で記録をとる機械になります。
記事1『WPW症候群の原因や症状とは?』で、WPW症候群は大きな症状が現れないケースがあるとお話ししました。このように特に症状が現れていないケースであっても、診断を受け次第、なるべく早期に循環器内科の診察を受けていただきたいと考えています。
WPW症候群の効果的な治療法は、すでに確立されています。なかでも、根治的な治療法がカテーテルアブレーションです。カテーテルアブレーションとは、WPW症候群の原因である余分な電線を焼灼(しょうしゃく:焼きとること)する治療法になります。
この治療法では、患者さんの足の付け根からカテーテルと呼ばれる管を血管に通し、心臓へと進めます。心臓内に電極を配置し、体内から心電図をとる心臓電気生理検査を行います。心臓電気生理検査によって余分な電線の場所を確認することができたら、カテーテルの先端についた電極を用いて、高周波で焼灼します。
このカテーテルアブレーションは、治療が完了した段階で症状が現れなくなる根治的な治療法になります。余分な電線を焼灼することができれば、その後、薬など内科的治療を継続する必要はほぼありません。
カテーテルアブレーションのリスクとしては、数%の合併症があります。たとえば、心臓についた傷から心臓周囲に血液がもれて溜まる心タンポナーデが生じる可能性があるでしょう。ほかにも、カテーテルに付着した血の塊が流れ、詰まることで脳梗塞になる危険性があります。足の血管がもろい状態であると、手術後にカテーテル挿入部の出血が起きるケースもあるでしょう。
また、カテーテルアブレーションの際に正常電線を傷つけてしまうと、房室ブロックと呼ばれる脈が遅くなる状態になるケースがあります。
カテーテルアブレーションは、高い技術を必要とする治療法です。治療の進歩とともに実施施設は増えてきていますが、カテーテルアブレーションの実績を有する医療機関を選ぶことをおすすめします。
WPW症候群の場合、薬剤治療は、カテーテルアブレーションの実施前の一時的な治療として適応されることが多いでしょう。たとえば、頻脈発作が起こった患者さんは、予定外で外来を緊急受診されますが、この場合は、薬物で正常に戻すことができます。
薬剤治療に用いられる薬は、主にアデノシン三リン酸二ナトリウム水和物とベラパミル塩酸塩(カルシウム拮抗薬)と呼ばれる薬です。これらは即効性がある点が特徴です。薬を使うとすぐに心臓の異常な動きが治ります。
これらの薬剤を内服することで、発作を予防することもできます。そのため、ある程度長期間にわたる治療として適応されるケースもあるでしょう。
他の対処法として、迷走神経刺激法や電気的除細動があります。
迷走神経刺激法とは、息をこらえたり冷たい水を飲んだりすることによって自律神経に影響を与え、頻拍を止める治療法です。
一方、電気的除細動は、主に薬の効果がみられない患者さんへ適応される治療法です。心臓に電気刺激を与えることで、異常な電気興奮を正し、正常な電気興奮に戻すことができます。
WPW症候群は、カテーテルアブレーションによる根治的な治療は数日の入院で行います。予後も良好であり、根治できれば定期的に治療や検査を受けていただく必要もありません。
一方で、薬物治療など根治的治療でない場合であれば、定期的な通院が必要になるでしょう。
WPW症候群の患者さんには、大きな頻脈発作が起こらないために病院を受診することなく過ごす方もいらっしゃいます。なかには、治療せずに40〜50代で初めて発作を起こす方もいます。
重症化を防ぐためには、診断をうけたら不整脈専門、もしくは循環器内科の医師に相談することをおすすめします。お話ししたように、WPW症候群は、カテーテルアブレーションという根治的治療が確立されています。近年、このカテーテルアブレーションは進歩しており、より安定した手術ができるようになってきています。
根治的治療を受けさえすれば、予後も良好です。そのため、診断を受けたとしても深刻になりすぎずに、主治医とともに治療に取り組んでほしいと思っています。
山形大学 医学部 第一内科 助教
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