概要
房室ブロックとは、心房と心室の間の電気の流れ(伝導)が障害される状態であり、心臓の正常な機能に影響を与える病気です。
心臓には血液を全身や肺に送り出すポンプの役割があり、弱い電気を流すことで動く仕組みになっています。電気は、“洞房結節”という場所から発生し、まず右心房と左心房に電気を流し、それぞれの心房の壁を収縮させます。それにより血液が心房から心室に流れ込みます。次に、電気が“房室結節”という場所を経由し、心室に流れることにより心室が収縮します。この電気の流れがうまくいかず、伝導が遅れたり途絶えたりする状態を房室ブロックといいます。
房室ブロックの原因には、加齢や、薬剤、電解質異常、心筋梗塞、心筋症などがあげられます。
無症状の場合は通常、経過観察のみが行われます。治療が必要と判断された場合には、ペースメーカの使用が検討されます。無症状ではあるものの重症度が高い場合には、ペースメーカの植え込み手術が必要とされています。

イラスト:PIXTA
種類
房室ブロックは心電図の波形から、1度から3度にタイプが分けられます。これらは房室ブロックという病気の進行度を示すものであり、1度から3度になるにしたがって重症度が高くなり、必要な治療や対応も異なります。
1度房室ブロック
心房から心室への電気の流れが正常よりも遅くなっているものの、心室へ電気は伝わっている状態です。一般的に症状がない場合は経過観察のみで十分ですが、自覚症状がある場合や極端に伝導が遅い場合などは、より詳しい検査や治療の検討が必要となることがあります。
2度房室ブロック
心房からの電気が心室に伝わったり伝わらなかったりする状態です。伝導時間が徐々に遅くなり一時的に伝わらなくなるタイプは一般的に予後良好とされますが、突然心室に電気が流れなくなり心室の収縮が止まるタイプは、より詳細な精密検査と適切な治療が必要です。
3度房室ブロック(完全房室ブロック)
心房から心室への伝導が完全に途絶えているもっとも重症な状態です。めまいや失神、心不全さらには命に関わる危険な状態であり、多くの場合、緊急でペースメーカ植え込みなどの治療が必要となります。
原因
房室ブロックを引き起こす主な原因として、加齢や心筋梗塞に伴う心筋の虚血(組織に十分な血液が供給されない状態)などが挙げられます。また、心臓弁膜症、先天性心疾患によっても発症することがあります。さらに、特定の薬剤の使用による影響や、リウマチ性心疾患、サルコイドーシスやアミロイドーシスなどの心筋症に関連して房室ブロックが引き起こされることもあります。
症状
房室ブロックの症状は、その重症度によって異なります。1度房室ブロックでは、多くの場合で自覚症状がなく、特に運動習慣のある方や若年者では健康な状態でも認められることがあります。ただし、めまいや息切れなどの症状が出現した場合には、より詳しい検査が必要となることがあります。
より重症な2度房室ブロックになると、心拍数の低下により、全身への血流が不足することで息切れやめまいといった症状を自覚する可能性があります。さらに3度房室ブロックでは、失神を引き起こし、心停止に至る可能性もあります。
検査・診断
房室ブロックの診断の基本的な検査は心電図検査です。心電図波形から、心房から心室への電気の伝わり方を確認します。通常の心電図検査で発見が難しい場合には、ホルター心電図や体外式ループレコーダーなどを用いて、長時間の心電図記録を行い、日常生活での変化を観察します。房室ブロックが確認された場合は、薬剤の影響や基礎疾患の有無を評価し、必要に応じて心エコー図検査、MRI、CTなどの画像検査を実施します。さらに詳細な評価が必要な場合には、カテーテル(医療用の細い管)を用いた心臓電気生理学的検査を行い、房室ブロックの発生部位を特定することもあります。
治療
房室ブロックの治療方針は、重症度によって異なり、自覚症状の有無、心電図所見、ブロックの発生部位などを総合的に評価して決定されます。無症状の場合は通常、治療をせずに経過観察が選択されますが、3度房室ブロックなどの重症例では、症状の有無にかかわらずペースメーカの植え込みが必要とされます。
ペースメーカの植え込み手術
房室ブロックの治療が必要な場合、第一選択となるのはペースメーカの植え込み手術です。ペースメーカは、心臓に人工的な弱い電気刺激を送り、心拍の調整を行う医療機器で、遅い脈を回復させる目的で使用されます。手術では皮膚を切開し、ペースメーカを体内に植え込みます。
ペースメーカは、パルス発生器と電池を含む“ジェネレーター”と、電気刺激を心臓に伝える“リード”で構成されています。ジェネレーターの電池寿命は通常5~10年であり、電池寿命に応じて交換が必要です。
また、近年では“リードレスペースメーカ”という新しいタイプのデバイスも登場しています。このタイプはリードがないため、感染リスクが低下するメリットがありますが、電池寿命に達した際は抜去せず追加留置が必要であることや、機能が限定的である点に注意が必要です。
薬物療法
薬物治療は限定的な使用にとどまり、主にペースメーカの植え込み手術までの一時的な対応として、アトロピン、イソプロテレノールやドパミンの静脈内投与が行われます。
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