
せん妄とは、身体疾患や薬の影響で、一時的に意識障害や認知機能の低下が起こることを指します。周囲の状況がわからなくなる、幻覚、妄想などの症状をきたします。今回は、せん妄の症状について国立精神・神経医療研究センターの横井優磨先生に詳しくお話を伺いました。
せん妄とは、原疾患(もともとある病気)や薬の影響など、何らかの理由で、一時的に意識障害や認知機能の低下が起こる状態です。せん妄は、「注意の障害」と「意識の障害」の両方が起こります。
話を集中して聞くことができなくなるなど、物事に持続して注意をすることができなくなる症状が出ます。
見当識の低下で日時や自分のいる場所がわからなくなり、妄想や幻覚がおきます。
よくわからないことをいう点は、認知症と似ています。しかし、病状がだんだん進行していく認知症とは異なり、せん妄は急激な発症(時間、日の単位)で、1日のなかで症状に変動があることが特徴です。せん妄になっても、若い方、認知症ではない方などで原疾患が完治する場合は、あまり予後の心配はいりません。
せん妄は、何かしらの原疾患が脳に影響した際に起こります。具体的に脳のどの部分がどのように悪くなるのか、まだわかっていません。
すべての全身疾患がせん妄の引き金となりえ、原疾患に加えて多くの環境要因や身体要因が組み合わさって症状が出ます。
たとえば、入院や手術、薬、低血糖、脱水、栄養失調、外傷など、体や心に強いストレスがかかるとせん妄を発症しやすくなります。そのため、せん妄のような症状が出たら、医師に相談し原疾患の特定をしてもらいましょう。

せん妄は、若い方にも高齢者にも、年齢に関係なく生じます。しかし高齢者は体にストレスがかかりやすいため、せん妄になりやすい傾向にあります。
実際に救急外来を受診した高齢者の5〜10%、内科病棟に入院した高齢者の15〜21%の方が、せん妄の症状を起こしています。また、手術を受けた高齢者でせん妄を起こす割合は50%を超え、ICUで治療を受けた高齢者の場合、70%〜80%の方がせん妄になるというデータもあります(注)。
これは、高齢者は体に負荷がかかればかかるほど、せん妄が起きやすいことを示しています。
(注)カプラン臨床精神医学テキスト : DSM-5診断基準の臨床への展開. ベンジャミン J.サドック, バージニア A.サドック, ペドロ ルイース 編著,井上令一 監修,四宮滋子, 田宮聡 監訳. p.785 2016
せん妄が起きやすくなる薬はたくさんあり、例えば以下のような薬が挙げられます。
痛みがある場合は、主治医の先生と相談してリスクの少ない薬を使いましょう。
せん妄は、症状が1日のなかで変動する点が特徴です。
数時間で人格・性格がころころと変わることもあり、症状が安定しません。以下で詳しく説明しますが、せん妄は一時的な症状で、原疾患(もともとある病気)を含めた適切な治療で改善します。
次に、せん妄の症状について説明します。
興奮や過活動が主な症状となるせん妄です。
(例)暴れる、幻覚、妄想、点滴を自分で抜いてしまうなど
無気力になり、活動が低下することが主な症状となるせん妄です。
(例)反応が乏しくなる、日づけを忘れる、自分がどこで何をしているかわからなくなる、目の前にいる人が誰かわからなくなるなど
過活動型と低活動型の両方の症状が現れるせん妄です。
・術後せん妄…手術後に起こるせん妄
・夜間せん妄…睡眠と覚醒のリズムが崩れ、夜にせん妄の症状がでること
・熱せん妄…発熱により起こるせん妄
・震戦せん妄…アルコール中毒の離脱の際などに震えが起きるせん妄
アルコールが原因のせん妄の場合、バタバタと羽ばたくように手が動く「羽ばたき振戦」といわれる症状をきたし、酷くなるとけいれんを起こすこともあります。
若い健康な人の場合はリスクが少ないですが、高齢者や認知症の方がせん妄を起こすと、死亡率が上がるというデータがあります。
たとえば、入院中にせん妄を起こすと自宅退院でなく施設退院になる率が上がり、死亡率が高まるといわれています(注)。
直接せん妄が命にかかわるとは限りませんが、高齢者の場合、せん妄を機に一気に認知機能が悪くなり、結果的に死を早めることもあります。またはせん妄を起こす身体疾患そのものは命にかかわることも多いため、認知症の方にはせん妄を起こさないためにあらゆる身体疾患に気をつけるよう伝えています。
(注)カプラン臨床精神医学テキスト : DSM-5診断基準の臨床への展開. ベンジャミン J.サドック, バージニア A.サドック, ペドロ ルイース 編著,井上令一 監修,四宮滋子, 田宮聡 監訳. p.786 2016
せん妄の症状は、認知症と似ていますが異なる病気です。また、せん妄があるから認知症というわけではありません。ただし併存は多いです。
認知症は一度発症すると、基本的には認知機能が戻らず進行していきます。一方でせん妄は、一時的かつ元に戻るもので、せん妄に対する治療や原疾患が治ることで認知機能が回復します。(ただし認知症が合併している場合、完全に認知機能が病前に戻らないこともよくあります。)
せん妄の治療は、せん妄の発症のもととなる疾患をまず治療してから行います。たとえば、肺炎がきっかけでせん妄になったとすると、まず肺炎の治療をしてから、せん妄の薬物治療を開始します。
国立精神・神経医療研究センターでは、せん妄の治療を開始してから、1週間程度で改善してくることを目安にしています。しかしその時点では、検査をすると細かな計算ができないなど、一見分かりにくい日々の生活に差し支えない程度の認知機能の低下はまだ残っている可能性があります。
完全に元の状態に戻るには、2週間〜1か月程度を要します。原疾患の重症度により、さらに時間がかかる可能性もあります。比較的若い方の場合は、原疾患がよくなると、せん妄も治ることが多いです。

まずは、原疾患にかからないようにし、リスクのある薬物を使用しないことがよいと考えられます。です。そのほかに、以下の予防法をおすすめしています。
国立精神・神経医療研究センター病院 第一精神診療部
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。
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