概要
アルコール中毒とは、お酒などに含まれるアルコール(エタノール)を過剰摂取することで体にさまざまな異常をきたした状態を指します。一般的にアルコール中毒という言葉が示すものには、急性アルコール中毒とアルコール使用障害(慢性のアルコール中毒)*の2種類があります。
急性アルコール中毒は、いわゆる“一気飲み”のように短時間で多量のアルコールを飲むことで発症し、呼吸停止など命に関わる可能性があります。対してアルコール使用障害は、長い期間にわたって多量のアルコールを飲み続けることが原因です。肝臓障害や栄養不足など体に影響が出るほか、日常生活において飲酒を何よりも最優先するなどの精神依存に陥ることがあります。アルコール中毒は性別や年代問わずにみられ、肝硬変や認知症などのリスクとなります。
*アルコール使用障害:急性アルコール中毒と慢性のアルコール中毒を明確に区別するため、1975年以降、世界保健機構(WHO)は慢性のアルコール中毒をアルコール依存症と表現されていたが、2013年に精神障害の診断と統計マニュアルが改訂され(DSM-5)、アルコール依存症はアルコール使用障害という言葉を使うのが一般的になった。依存症という言葉に含まれる偏見やレッテルを避け、個人の問題ではなく病気・障害であるということを明らかにし、さまざまな程度のアルコールに関連する障害に早期から介入することが目的となっている。
原因
アルコール中毒の原因は、アルコールの過剰摂取です。アルコールは、洋菓子などの食べ物にも含まれていることがありますが、一般的に食べ物だけではアルコールの過剰摂取にはならず、多量に摂取する機会のほとんどは飲酒によるものです。厚生労働省は、1回の飲酒で純アルコール*を60g以上摂取すると、急性アルコール中毒を引き起こす可能性や外傷を招くリスクを高めるとしています。
アルコールには神経細胞の活動を鎮静させるはたらきがあるため、過剰摂取することで呼吸をつかさどる延髄の中枢が鎮静され、呼吸停止に陥ることがあります。また、アルコールは肝臓内で分解され、アセトアルデヒドなどの有害物質になります。これらの有害物質は肝臓を障害するほか、脂肪の代謝に影響を与えるなどさまざまなメカニズムで肝臓を傷つけてアルコール性肝障害や肝硬変を引き起こします。
*純アルコール(量):お酒に含まれるアルコールの量を表す単位。「お酒の量(mL)×アルコール度数/100×0.8」で計算することができる。
症状
アルコール中毒には、多量のお酒を短時間で飲んだ直後に現れる急性中毒症状と、アルコール使用障害に伴い体のさまざまな臓器に障害が現れる慢性中毒症状の2つがあります。
急性中毒症状(急性アルコール中毒)
急性アルコール中毒の症状は血中アルコール濃度によって異なります。症状は個人差も関係しますが、血中アルコール濃度が高くなるとろれつが回らない、記憶があやふやになるなどの状態がみられます。
重症例では意識レベルの低下や呼吸状態が悪くなるなど危険な状態に陥り、最悪の場合、命に関わる可能性もあります。また、吐物を喉に詰まらせて窒息する例もあります。
慢性中毒症状(アルコール使用障害)
アルコール使用障害では、通常の日常生活に支障をきたすほど飲酒願望が強くなる“精神依存”と、アルコールが切れると手指の震えなどが現れる“身体依存”の大きく2つがみられます。精神依存や身体依存になっていなくても、日常生活に支障をきたすような多量の飲酒をする場合にはアルコール使用障害に分類されます。また、長期にわたる多量の飲酒によって肝臓が障害され、アルコール性肝炎やアルコール性肝繊維症、肝硬変という病気になることがあります。
アルコール使用障害の方は、食事を十分にとらない傾向があるため栄養不足に陥りやすいうえに、アルコールによってビタミンB1の吸収機能が低下するため、ビタミンB1が不足しやすいことが分かっています。慢性的なビタミンB1欠乏症がみられる場合はウェルニッケ脳症を発症することがあります。ウェルニッケ脳症になると、意識障害や運動失調(歩行時にふらつくなど)、眼球運動障害(眼球が揺れるなど)がみられます。
検査・診断
急性アルコール中毒は、問診と身体所見で診断されます。その他の原因も考えられる場合には血液検査、尿検査、頭部CT検査などが行われることもあります。
アルコール使用障害では、肝臓やほかの臓器の損傷の程度を確認するために血液検査を行うほか、症状が非常に重い場合には脳の損傷の有無などを調べる目的でCTやMRIなどの頭部の画像検査を行うことがあります。
治療
アルコール中毒の治療は、急性と慢性どちらの状態かで異なります。
急性アルコール中毒
呼吸停止や吐物による窒息を防ぐために、気道の確保と場合によっては気管挿管や人工呼吸による管理が必要です。意識障害があると吐物による窒息の危険があるため、仰向けにはせず、回復体位といって横向けに寝かせることがあります。
また、嘔吐を繰り返すなどして脱水を起こしている場合には、点滴で水分・糖分・ミネラルなどの補充を行うことがあります。なお、点滴をすることによってアルコールの代謝を促進したり、アルコール中毒の症状が早く良くなったりするわけではありません。
アルコール使用障害(慢性のアルコール中毒)
アルコール依存症に対しては、ビタミンB1やグルコースなどの投与や栄養療法を行い、臓器に障害がみられる場合にはそれぞれの臓器に対する治療を行います。アルコールを連日多量に飲酒している方が急にアルコールを摂取するのを辞めると、離脱症状がみられ、手足の震えやけいれん発作のほか、重症の場合はアルコール離脱せん妄といって意識が低下することがあります。重症のアルコール離脱症状は命に関わることもあるため非常に危険な状態です。飲酒をやめると手足が震えるなどの症状がある場合には自己判断でやめるのではなく、医師と相談しながらアルコールをやめる必要があります。
離脱症状がみられなかったとしても、自分の意志だけでアルコールを断つのが難しい場合は、精神科医と連携した精神療法や薬物療法、断酒のためのリハビリテーションなどの治療やサポートが受けられるため、専門機関に相談することも検討しましょう。
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