うぇるにっけのうしょう

ウェルニッケ脳症

脳

目次

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概要

ウェルニッケ脳症とは、チアミンとも呼ばれるビタミンB1が不足することから引き起こされる神経系の急性疾患です。

典型的にはアルコールの大量摂取と関連して発症し、意識障害、眼球運動の異常、運動失調が生じます。ビタミンB1の補充が適切なタイミングで行われないと、続発症としてコルサコフ症候群と呼ばれる慢性疾患を引き起こすことがあります。コルサコフ症候群を発症すると神経学的な障害は不可逆的になるため、いかにウェルニッケ脳症を疑い、対処するかが重要です。

原因

ビタミンB1が欠乏する状況として、慢性的なアルコール中毒や妊娠中のつわりが挙げられます。

ビタミンB1は、身体のエネルギー源のひとつである糖質の代謝を適切に行うために必要不可欠です。特に脳は全身の臓器のなかでも糖質に依存する割合が大きいです。そのため、糖質やビタミンB1の摂取量が減少したり、脳における両者の需要量が増加したりすると、ビタミンB1が容易に欠乏してしまいます。

たとえば、アルコール中毒の患者さんは、そもそも食事(つまり糖分やビタミンB1)をとらずにアルコールばかりを摂取しがちです。そのため栄養失調気味や消化機能の低下・肝機能障害も同時に生じやすいです。肝機能が低下すると体内での糖質の貯蓄量も低下し、より一層容易に糖質やビタミンB1欠乏が引き起こされやすくなります。

このような状態に加えて、遺伝学的に病気を発症しやすい体質を有している場合、ウェルニッケ脳症が引き起こされます。ウェルニッケ脳症では、脳のなかでも第三脳室、第四脳室と呼ばれる構造物周囲に変化が生じます。また、乳頭体と呼ばれる部位に変化が生じることも特徴です。

症状

ウェルニッケ脳症の典型的な症状としては、以下の3つが挙げられます。

  • 意識障害(急性期にはせん妄などの意識障害や自発性低下・無関心といった精神症状が出現します。慢性期になるとコルサコフ症候群と呼ばれ記銘力低下、見当識障害が主体になります。)
  • 眼球運動障害
  • 失調性歩行

歩行失調を認めるようになってから数日後に他の症状が現れることが多いです。

意識障害

意識障害には、

  • 時間、人、場所に対する見当識障害(自分がどこにいるのかわからなくなったり、相手が誰なのかわからなくなったりする)
  • 周囲への無関心

などがあります。

軽度だと、記憶力や学習能力が少し悪くなったという程度ですむ場合もありますが、症状が増悪すると、最終的には意識レベルも低下し、昏睡から死に至ることもあります。

眼球運動障害

眼球運動の障害で特徴的なものは水平方向での眼振運動であり、垂直方向の眼振はやや頻度が落ちます。

失調性歩行

失調性歩行では、ちょうどお酒を飲み過ぎて千鳥足になったときのように、バランスを取って真っすぐ歩くことが難しくなる場合があります。軽度では診察中に注意しないとわからないほどである一方、重症になると歩行が不可能になります。

アルコール中毒患者さんに、これらの症状を認める場合、その診断は容易です。しかし、上記の典型的な症状をすべて認めることは少なく、3つの特徴的な症状のうち1つしか示さないもの、まったく異なる神経症状を呈するもの、さらには死後の解剖からはじめてウェルニッケ脳症を発症していたことが判明するほど軽微な症状しか有していないというケースもあります。

検査・診断

ウェルニッケ脳症は、典型例においては病歴(アルコール中毒者や妊娠中のつわりなどで食事摂取ができていない)、臨床症状(意識障害、眼球運動障害、失調性歩行)から診断が可能です。

また、頭部CTやMRIといった画像検査が行われることがあります。これら画像検査において、ウェルニッケ脳症で病変を生じやすい部位(第三脳室や第四脳室周囲、乳頭体など)において典型的な画像変化がみられることがあります。特に乳頭体の変化はウェルニッケ脳症にとって特徴的な変化のひとつで、その大きさが正常時と比べて顕著に小さくなっていることが確認されることもあります。

治療

ウェルニッケ脳症の原因はビタミンB1の不足であるため、ビタミンB1の投与が治療方法です。ウェルニッケ脳症の診断は容易とはいえず、適切な治療を受けなければ不可逆的な神経変化を来たす可能性が高まります。したがって診断を下されていない場合であっても、治療的な介入が行われることがあります。

ウェルニッケ脳症の急性期においては、静脈経由でビタミンB1を投与することで治療が可能です。しかし、ベースにアルコール中毒や妊娠中のつわりなどが継続して存在していると、再度ビタミンB1が欠乏するリスクが残存します。したがって、こうしたビタミンB1の欠乏を引き起こしうる病態に対しての治療アプローチも必要とされます。その他、ビタミンB1が含まれる食事を意識することも大切です。