せん妄とは、身体疾患や薬の影響で、意識障害や認知機能の低下が一時的に起こる症状です。治療には、薬物治療と非薬物治療があり、原疾患(もともとある病気)が治ることで、せん妄が改善していくことがあります。今回は、せん妄の治療について国立精神・神経医療研究センターの横井優磨先生に詳しくお話を伺いました。
2018年現在のガイドライン*に則り第2世代と呼ばれる、副作用が少なめの抗精神病薬が主に使われます。以下がせん妄で使われる主な第2世代抗精神病薬です。
これらは統合失調症の方にも処方される薬ですが、せん妄の場合は少量で効くため、統合失調症と同量は使いません。高齢者の場合は、さらに少量を使います。せん妄になったら絶対に使う薬ではなく、必要な場合に限り使用します。
自身の体質に合う薬を医師と相談のうえ、選んでください。
ガイドライン…その病気の診断方法や治療方法を定めた指針
抗精神病薬により筋肉の反射が弱まるため、誤嚥(ごえん:食物などが気管に入ってしまうこと)や窒息のリスクが高くなります。水や食べ物が肺に入ってしまい肺炎になったり、食べ物が喉に詰まったりして亡くなってしまうこともあります。
せん妄の悪化を防ぐため動ける方には歩いていただきますが、筋肉がこわばり転倒しやすくなるため注意が必要です。
現在は、液剤や口で溶けるタイプの錠剤があり飲みやすくなっているため、薬は服用してもらうことが多いです。点滴は早くて5分ほど、液剤も即効性があり20〜30分ほどで効いてきます。
点滴は、暴れる症状が出ていてすぐに鎮静をかける必要がある場合にのみ使い、基本的には内服薬(錠剤、液剤)を用います。
ストレスを溜めず、快適に原疾患の治療を受けていただくことが、せん妄の予防であり、悪化させない方法と考えています。また治療にあたり、薬物療法だけではなく、以下のような非薬物療法で患者さんをサポートすることもせん妄を悪化させないために重要です。
脱水や血糖値の異常を防ぐため、適切な水分と栄養をとり体の調子を整えます。
原疾患の治療が終わったら、点滴、拘束、尿道カテーテルなど患者さんの動きを制限するものはあまり入れず、昼間に歩くなどして体を動かします。
家族の写真を貼ったり、子どもが作った折り紙など置いたりして安心感を持ってもらいます。家族に面会に来てもらうなど、自宅と異なる環境で混乱しないように孤独を癒す対応はよいといわれています。
目が悪い方は、メガネやコンタクトで視力矯正し、耳が悪い方は、補聴器をして五感を維持できるようにします。
昼夜の区別をつけて規則正しい生活をし、寝られるときはしっかり寝ます。
音楽、ハーブ、アロマなど色々ありますが、医学的に効果が証明されたものありません。
好みや個人差があると思いますので、本人が快適に病院生活を送るうえで役立ちそうなことは試してみるとよいでしょう。
患者さんは、自分が今どこにいるのかわからず不安になり興奮してしまうことがあるため、患者さんの混乱を減らす作業が大切です。本人がわからない時は何回でも今日の日付や今の状況を教え、周囲の状況について情報を刺激として与えます。
入院は特にストレスがかかるため、せん妄の症状が起こりやすくなります。せん妄は一時的な意識障害と認知機能の低下で、徐々に改善するものですから安心してください。しかしどうしても患者さんはせん妄により混乱してしまうため、その際にはご家族が手助けしていただければと思います。
年齢や状況にもよりますが、せん妄をきたす病気がなく薬も飲んでいないにもかかわらず、いきなりせん妄のような症状が起こるような場合、せん妄ではない別の病気の可能性があります。
急激に精神的な変化が起こるときは、必ずしも精神疾患が原因ではありません。むしろ精神疾患によって精神症状が起きるときは、数か月から数年単位で持続してゆっくり起こります。時間単位でめまぐるしく精神状況が変わるときは、心の問題ではないことが多いため、まずは内科などで身体疾患がないか精査するために受診しましょう。
国立精神・神経医療研究センター病院 第一精神診療部
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