
人生のうち一度は経験すると言われている腰痛。なかでも、ぎっくり腰と呼ばれる急性腰痛症は、何の前兆もなく腰に強烈な痛みが生じることから、海外では「魔女の一撃」という別称がつけられています。
記事1『腰痛とは-原因・考えられる病気・検査・治療方法・診療科など』に引き続き、大谷晃司先生にぎっくり腰について教えていただきました。
ぎっくり腰とは正式には急性腰痛症といい、突然腰が痛くなることの総称として使われることが多いです。重いものを持ち上げるなどしたときに急に生じたものから、4週間ほど継続するものを急性腰痛症として扱います。
※本記事内では、表記をぎっくり腰に統一します。
ぎっくり腰を起こすと、体を動かしたときに腰を中心に痛みが突然生じます。ぎっくり腰を起こしたときの痛みの程度はかなり幅がありますが、ひどい方では痛くて動けなくなることもあるほどです。そのためドイツ語圏では、ぎっくり腰のことを「魔女の一撃」という俗称で呼ぶこともあります。
なお、ぎっくり腰では腰に痛みがあるかどうかが重視されており、脚の症状の有無は問われません。
腰痛は運動習慣がない方が起こしやすく、また比較的重症化しやすいことが知られています。ぎっくり腰ではこれ以外にも、重い物を持ち上げるときの姿勢や生活習慣などが深く関係しています。
例えば、膝を曲げず立ったままの状態で重いものを持ち上げようとすると腰に必要以上の負荷がかかってしまい、ぎっくり腰を起こしやすくなります。
特に膝が悪い方は膝をかばって立ったまま動作することが多いため、ぎっくり腰を起こしやすいです。
また生活習慣では、運送業に従事している方など日常的に腰に負担をかけている方はリスクが高いとされています。
ぎっくり腰の詳しい原因は、実はよくわかっていないことも多いです。
一般的には椎間板、椎間関節、仙腸関節といった背骨や骨盤の一部に生じた炎症などの異常によるものと考えられています。しかし、レントゲン写真やCT,MRIといった通常の検査方法では、その異常を捉えることはできません。
ぎっくり腰は中高年者が繰り返し発症しているイメージを持つ方が多いですが、これらの原因としては、椎間板の変性が考えられています。加齢や長年の酷使などにより椎間板が変性すると、機械的な刺激によって椎間板が傷つき、ぎっくり腰を起こしている可能性があるとされています。こうしたぎっくり腰は自然に治ることが多いため、それほど心配する必要はありません。しかし骨折がぎっくり腰の原因となっている場合、どうして骨折したのか調べるため、ステロイド使用歴やがん治療歴などを確認することがあります。
腰痛研究では1980年後半ごろから、ストレスなど心理的・社会的要因にも目を向けるようになりました。
かねてより欧米諸国では腰痛防止を目的として、労働環境改善や人間工学といったバイオメカニクス(生体力学)中心の研究・実践が進められてきました。
しかし、こうした取り組みを導入しても腰痛を完全に予防できなかったため、研究者達は従来の腰痛説(機械的な損傷による腰痛の発生)を疑い、やがて心理的・社会的要因が腰痛の発生や難治化に関係しているのではないかと考えるようになったのです。
心理的・社会的要因とは、例えば職場の人間関係や家庭の不和などからくるストレスがあります。また、ぎっくり腰を繰り返す・慢性的な腰痛を抱えている方の場合、痛みそのものや痛みによる行動制限、あるいは、「また痛くなるのではないか?」という不安などがストレスとなっていることも考えられます。
ぎっくり腰を起こしても、症状が比較的軽くなんとか動けるのであれば、すぐに医療機関を受診する必要はありません。特に、周囲のサポートが見込める場合には無理して医療機関を受診するのではなく、痛みに応じて体をうごかしながら、症状がよくなるのを待つのもひとつです。
しかし、痛みが強くて全く動けず日常生活に支障が生じたり、痛みがどんどん強くなってきたり、排尿・排便しにくい、脚に神経症状(ピリピリ・ジンジンなどの異常感覚や麻痺)などを伴っている場合には、すみやかに整形外科を受診してください。
ぎっくり腰の原因を特定する特異的な検査はないため、まず身体所見で腰のどの辺が痛いかや神経障害を伴っているか、次に画像検査で主にレントゲン撮影を実施して骨折など骨に異常がないか確認します。
神経症状を伴っているようであればMRIなどによる精密検査、また服薬歴や治療歴などを確認することもあります。
こうした検査を実施して骨折などほかの病気の可能性を除外した後、ぎっくり腰かどうか最終的に診断します。
ぎっくり腰の治療は痛みに応じた活動と、鎮静剤による痛みの緩和が基本となります。
特に痛みが強い方に対しては、硬膜外ブロックのような神経ブロックなどを実施することもあります。また患部の安静をはかるため、コルセットを装着することもあります。
ぎっくり腰の原因の一つとしては、椎間板ヘルニアやその前段階を起こしている状態が考えられるため、痛みに応じて体を少しずつ動かす、腰を楽なほうへ曲げたり伸ばしたりして、痛い方へは曲げたり伸ばしたりしないようにします。
ぎっくり腰は痛みに応じた無理のない程度の活動をしていれば、自然によくなることが多いとされています。しかし痛みが4週間程度続く場合、骨の変形や病気などが考えられるため医療機関を受診してください。
腰みがき体操とは、福島県立医科大学会津医療センター整形外科・脊椎外科学講座教授の白土修先生が提唱された腰痛予防を目的とした体操です。
毎日歯を磨いて虫歯を予防するように、腰も毎日鍛えて手入れを習慣化して腰痛予防・治療に役立てようという願いを込めて名付けられました。
当院ではこうした予防法をとおして、ぎっくり腰をおこしにくい状態へと導けるよう、腰磨き体操の具体的な指導をおこなうようにしています。
ぎっくり腰になったとき、特にこれをしてはいけないという制限事項はありません。
もちろん腰が痛いときに無理して動く必要はありません。しかし腰が痛いからといって、じっとしすぎているのもかえってよくありません。
自分の腰が大丈夫そうなら可能な範囲で体を動かし、活動性を維持するようにしましょう。
腰痛治療の目的は多少の痛みがあっても日常生活を送れる状態にすることであり、また治療の観点からも比較的体を動かしている方のほうが予後もよいことがわかっています。
そのためぎっくり腰をはじめとする腰痛に悩む方に対しては、無理のない範囲での運動や生活、あるいは就業をするようにお願いしています。
しかし患者さんと接していると、痛みがあっても早く復帰したい患者さんと、完全に腰が治ってから復帰してほしいという会社に意識のギャップを感じることが多いです。
また患者さんによっては、腰痛が原因で仕事を自主退職させられた、反対に腰痛を完全に治すため診断書を取り付けて退職してしまうなど、腰痛によって仕事が左右されてしまうケースもあります。
本当の意味での腰痛対策を実施・浸透させるためには、腰痛や治療に対する企業や職場の理解のほか、時短勤務の積極的な導入や配置換えなど腰痛持ちの方でも無理なく働ける環境の整備など重要になると考えています。
福島県立医科大学 医療人育成・支援センター センター長 教授
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