線維筋痛症とは、明らかな異常がみられないにもかかわらず、全身や体の一部に強い痛みが生じる病気です。痛みが慢性的に続くことから、日常生活に支障をきたすことがあります。線維筋痛症の症状や治療を中心に、聖マリアンナ医科大学 准教授 の長田 賢一先生にお話をうかがいました。
線維筋痛症とは、全身や体の一部に強い痛みが生じる、慢性の病気です。
線維筋痛症そのものが命にかかわることはないものの、痛みが続くことから生活に支障が出ることがあります。
線維筋痛症の詳細な原因や発症のメカニズムは、2018年2月時点では明らかではありません。痛みを訴える部位を調べても明らかな異常がみられず、原因不明の痛みとして診断されることもあります。
2018年2月現在、線維筋痛症の発症原因の仮説として脳の中枢神経系の機能障害が考えられています。また、線維筋痛症の発症や痛みの感じやすさには、遺伝的な要因が関与しているのではないかとの仮説 もあります。
発症のきっかけには、心身のストレスが考えられています。なんらかの感染症や手術、外傷(けが)といった身体的なストレスから、不安や抑うつなどの精神的なストレスまで、発症のきっかけとなるストレスの原因はさまざまであることが報告されています。
2011年に発表された調査結果によると、線維筋痛症の有病率は2.1%と推計されています1)。
男女比は女性のほうが多いといわれており、先の2011年発表の調査結果では、男女比1:1.6、2007年の職域集団調査2)では男女比1:4、2003年の厚生労働省研究班の全国疫学調査3)では男女比1:4.8と、いずれも女性のほうが多い結果となっています。
1) Nakamura I, Nishioka K, Usui C, Osada K, Ichibayashi H, Ishida M, Turk DC,
Matsumoto Y, Nishioka K: An epidemiologic internet survey of fibromyalgia and
chronic pain in Japan. Arthritis Care Res (Hoboken). 2014; 66(7):1093-1101.
2) Toda K: The prevalence of fibromyalgia in Japanese workers. Scand J
Rheumatol. 2007; 36: 140-144.
3)松本美富士, 前田伸治, 玉腰暁子, 他:本邦線維筋痛症の臨床疫学像(全国疫学調査の結果から). 臨床リウマチ 2006;18(1):87-92.
線維筋痛症の主な症状は体の痛みと筋肉や関節のこわばりです。そのほかに、疲労感、睡眠障害、うつ状態などを伴うことがあります。
全身の広い範囲、または一部に強い痛みが生じます。痛みが起こる箇所は肩、背中、腰、おしり、足、首、あご、腕などです。前日までとは違う場所が痛み、痛みが転々と移るように感じることもあります。
痛みの感じ方も患者さんによりそれぞれです。「血管のなかをガラスが流れるような痛み」「電気が通るような痛み」というように激しい痛みを感じる方が多いようです。一方、鈍痛を訴える方もいます。
痛みが毎日続く方もいればそうでない方もいますし、季節や天候によって痛みの度合いが変化する方もいます。
このように、痛む場所が時期によって異なったり、痛みが断続的に生じたりすることから、患者さん自身も周囲の方もこの病気を理解しにくいことがあります。
筋肉や関節がこわばり、体を動かしにくく感じることがあります。こわばりの症状は関節リウマチと似ていますが、関節リウマチと違って関節の腫れや変形はみられません。
線維筋痛症の主な症状である体の痛みとこわばりに伴って、疲労感や睡眠障害、うつ状態などがみられることがあります。
痛みに伴って疲労感が生じると、日常生活に支障をきたすことがあります。そのほか、痛みや痛みによる不安から睡眠障害に陥ったり、うつ状態となったりする場合があります。
線維筋痛症の初期症状は、体の痛みです。前触れなく痛みが生じることがあり、最初は特定の部位だけ痛かったものが、少しずつ痛みの部位が広がっていきます。
線維筋痛症は検査で明らかな異常がみられず、後述する線維筋痛症と似た病気があることなどから、医師でも診断が難しい病気です。そのため、2018年2月時点でセルフチェックができるような指標はありません。
体の痛みが長く続くようであれば、病院で医師の診察を受けてください。
線維筋痛症に似た症状が現れる病気として、主に以下の病気が挙げられます。
SAPHO症候群…皮膚と関節の症状が現れる病気。胸や関節などの痛みとともに、吹き出物、手のひらや足裏の膿疱(のうほう・膿の溜まった水ぶくれのようなもの)などの皮膚症状が生じる。
線維筋痛症は、近年、医師への認知度が上がりつつあります。体の痛みが長期間続いたら、まずは内科や心療内科、精神科などを受診してください。これらの診療科のほかには、リウマチ科、神経内科、整形外科、ペインクリニックにも線維筋痛症をみているところがあります。
アメリカリウマチ学会で定められている予備的な診断基準はあるものの、それだけで線維1筋痛症と診断可能な検査はありません(2018年2月現在)。
予備的な診断基準だけでは線維筋痛症に似た病気を除外することが難しいと考えられます。そのため、甲状腺の病気や関節リウマチなどの病気でないことを明らかにするために、血液検査を行います。脊柱管狭窄症でないことを確かめるために脊椎(せきつい)のMRI検査を実施する場合もあります。
2018年2月現在、線維筋痛症を根本から治す治療法はありません。そのため、これから紹介する治療法は症状を和らげる治療法です。
線維筋痛症の主な治療法は、大きく薬物療法と非薬物療法にわけられます。非薬物療法には、主に以下の3種類があります。
薬物療法では、線維筋痛症に適応のある一部の抗うつ薬や同じく適応のある一部の抗てんかん薬が用いられます。これらの抗うつ薬や抗てんかん薬を併用して治療を行うこともあります。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、普段は痛み止めとしてよく処方される薬ですが、線維筋痛症の痛みには効果がみられないとされています。
線維筋痛症の詳細な原因は不明ですが、痛みや抑うつ症状などに対して認知行動療法が有効との結果が示されています。認知行動療法を行うことで、患者さんが自信や線維筋痛症の症状に対処する力を身につけるために有効といわれています。
線維筋痛症には、理学療法も一定の効果があるといわれています。理学療法のひとつとして行われることのある温熱療法は、体を温めることで痛みを和らげる治療法です。湯船にゆっくりと浸かる、痛みのある場所を湯たんぽなどで温めるなどして、体を温めます。
痛みが強い状態で行うと痛みを悪化させる可能性があることから、ある程度痛みの状態が安定してから行うとよいでしょう。
線維筋痛症は、運動療法が効果的との結果が示されています。ヨーロッパのリウマチ学会ガイドライン(2016)では、ヨガ、気功、太極拳などの瞑想運動が推奨されていますが、運動の種類や方法についての一定の見解はいまだ得られていません(2018年2月現在)。
線維筋痛症は、根本的に病気を治すための治療がまだ確立されていないことから、痛みが消え、薬が不要になるほどの「完治」は難しいと考えられます(2018年2月現在)。しかし、今回紹介した治療を行うことにより、痛みがあっても生活にそれほど支障をきたさないレベルまで回復が可能なこともあります。
線維筋痛症は、治療できない病気ではありません。そのつらい痛みを和らげることのできる治療はいくつかあります。ですから、慢性的な痛みを感じている方は、ぜひ病院で診察を受けてください。
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