さほーしょうこうぐん

SAPHO症候群

同義語
PAO,掌蹠膿疱症に伴う骨関節炎,掌蹠膿疱症性骨関節炎
最終更新日:
2021年04月09日
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2021/04/09
更新しました
2021/03/15
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概要

SAPHO症候群とは、皮膚の病気である乾癬関節炎が合併した乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)と同様に、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)(手のひらと足の裏に小さな水ぶくれができるもの)による骨関節炎(pustulotic arthro-osteitis:PAO)を合併したものです。以前より、滑膜炎(Synovitis)、ざ瘡(Acne)、膿疱症(Pustulosis)、骨化過剰症(Hyperostosis)、骨炎(Osteitis)の頭文字を合わせたものは、その頭文字を合わせ“SAPHO症候群”と呼ばれます。SAPHO症候群には、PAOや主に小児に発症する慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)も含まれるとされています。原因はいまだ不明で、治療法は確立されていませんが、生命をおびやかすことはほとんどありません。

関節や骨の症状としては、胸鎖関節(胸骨と鎖骨の間の関節)の炎症と異常骨化、脊椎や仙腸関節(腰にある骨盤の関節)の炎症、膝や鎖骨の関節炎などが見られます。皮膚症状は、掌蹠膿疱症、重症のざ瘡(ざそう)にきび)がよく見られます。症状は脊椎関節炎と共通点もありますが、PAO・SAPHO症候群ではHLA-B27という遺伝子を持つ患者さんが多くないことや骨炎を主体とすることなどから、脊椎関節炎とは区別されています。

まれな病気で、世界では0.04%程度の発症率という報告がありますが、日本におけるデータはまだありません。わが国では欧米に比べ、重症のざ瘡に伴う関節炎(SAPHO症候群)はまれで、PAOが多くみられます。発症年齢の平均は30~50歳ですが全年齢的に見られ、男女差はほぼないとされています。

原因

慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)は1972年、掌蹠膿疱症に伴う骨関節炎(PAO)は1981年、SAPHO症候群は1987年にその概念が提唱された、比較的新しい病気です。発症には、遺伝的素因や細菌感染、アレルギー、自己免疫反応などの関連が指摘されていますが、はっきりとした原因は分かっていません(2020年11月時点)。扁桃炎(へんとうえん)歯周炎などの病巣感染が原因として注目されており、扁桃摘出術や歯周炎治療による骨関節炎の改善例も多く報告されています。

症状

PAO・SAPHO症候群では関節や骨、皮膚の症状が見られ、特に前胸部の痛みや腫れがよく見られます。発症初期には全ての症状がそろわないことも多くあり、骨や関節の症状と皮膚の症状のどちらが先に出るか、あるいは同時に出るかには個人差があります。症状は寛解(症状が落ち着いた状態)と増悪を繰り返すのが特徴で、そのサイクルは数日の場合もあれば数年に及ぶ場合もあります。

骨と関節の症状

もっとも多くみられるのは、前胸部にある胸骨周辺(胸鎖関節、胸骨柄結合部、胸肋関節)の痛みや腫れです。ほかに、脊椎、仙腸関節、手足や指趾の関節、膝関節(しつかんせつ)大腿骨(だいたいこつ)、下顎の骨などに症状が出ることもあります。関節の症状は、炎症による骨の破壊と異常な骨化によって引き起こされると考えられています。

皮膚の症状

ほとんどの患者さんで皮膚の症状が見られると報告されています。代表的な皮膚病変には、掌蹠膿疱症や重症ざ瘡などがあります。もっとも多いものは掌蹠膿疱症ですが、いくつかの症状を合併することもあります。一方、人によっては皮膚の症状がまったく現れない場合もあり、特に小児では皮膚の症状が少ないといわれています。

検査・診断

診断には、PAO・SAPHO症候群に特徴的な臨床症状の確認とX線検査(レントゲン)、CT、MRI、骨シンチグラフィーなどの画像検査が重要となります。ほかの病気の可能性を除外するために骨生検を行う場合もあります。

X線、CT、MRIでは、骨の炎症や、異常な骨化、関節の隙間の変化などが観察されます。骨シンチグラフィーとは、検査前に注射した薬剤(放射性同位体)が骨の病変に集まる性質を利用した画像検査です。PAO・SAPHO症候群では骨シンチグラフィーで、胸の前面中央にある胸骨と、その両側左右にある鎖骨の炎症が牛の頭のように見えることから“bull’s head pattern”として特徴づけられています。ほかに、脊椎や仙腸関節の炎症も見られます。

世界的に用いられる診断基準がいくつか提唱されており、診断の際にはいずれかの基準が利用されます。これらの基準は現時点で完全に確立されたものではないため、今後さらに改訂されていく可能性があります。特徴的な症状がみられれば、皮膚症状がなくてもSAPHO症候群と診断されることもあります。ほかの病気である可能性を慎重に除外する必要があるため、場合によっては複数の診療科の医師が協力して診断を行います。

治療

現在、PAO・SAPHO症候群の治療法として確立されたものはありません(2020年11月現在)。治療は対症療法が基本となり、禁煙などの生活指導、病巣感染のある方では扁桃摘出術や歯周炎などの治療を優先します。また、脊椎関節炎掌蹠膿疱症関節リウマチなどの治療を参考に薬物療法も行われます。ただし、痛みは自然に寛解することがあるため、特に治療を必要としない例もあることには注意が必要です。PAO・SAPHO症候群は予後がよく、症状をうまくコントロールすることで生活の質の改善が期待できます。

一般的に、まず使用されるのは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。NSAIDsは、関節、骨、皮膚のいずれの症状に対しても、ある程度の効果があることが報告されています。痛みが強い場合には、ステロイドや抗リウマチ薬が用いられ、効果が得られることがあります。ビスホスホネート製剤は骨粗しょう症などによく用いられる薬ですが、骨の破壊を抑え骨量を維持する作用があるため、骨や関節の痛みを抑える効果があると報告されています。歯科治療中の患者さんにビスホスホネート製剤を投与するときは、歯科医との連絡調整が必要です。

これらの薬が効きにくい場合には、生物学的製剤(体内で作られるたんぱく質などを応用して作られた薬)である抗TNF製剤が用いられることがありますが、よく効いた例と無効または悪化した例の両方が報告されており、その効果はまだ十分に確認されていません。最近、既存の治療に抵抗性の掌蹠膿疱症に対して、抗IL-23抗体製剤の有効性が認められ、保険適用として承認されました。まだ保険適用ではありませんが、PAOに対しても抗IL-23抗体製剤の有効性が示されています。

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