石川県金沢市にある石川県立中央病院は、県内で鏡視下手術をいち早く始め、低侵襲(肉体的な負担の少ない)な治療で幅広い患者さんのニーズに応えています。2018年1月には、高度な医療体制や快適な療養環境を備え、新病院として移転・新設しました。新病院開設までの道のりや、再建にかける思いについて、名誉院長の山田哲司(やまだ てつじ)先生にお話を伺いました。
1975年に金沢大学を卒業してからの私の経歴は、ほぼ金沢大学病院と石川県立中央病院のみで構成されます。1986年まで金沢大学附属病院で講師を務めたあと、初めて石川県立中央病院に赴任しました。
2005年、石川県立中央病院の院長に着任しました。それから13年余りを振り返り、もっとも苦しかったことといえば、着任当時、当病院が累積100億円の赤字と2億円の不良債務を抱えていたことでしょうか。
それから、職員とともに懸命に病院経営を立て直しました。結果的には、2012年頃にすべての負債を返済できる目処がつき、ようやく病院再建の話が進み出したのです。
金沢市には、金沢大学附属病院、金沢医科大学病院、国立病院機構金沢医療センター、当院(石川県立中央病院)という4つの大規模病院が存在します。そのような激しい競争のなかで生き残るには、病院の特色を打ち出していかねばならないと思いました。そこで、あらゆる診療科で鏡視下手術を取り入れ、患者さんの肉体的・精神的負担の少ない治療を精力的に行いました。
長年の努力が功を奏し、現在、当院ではすべての外科系診療科で鏡視下手術を実施しており、年間に数多くの鏡視下手術を手がけています。
また、2013年には、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を導入しました。鏡視下手術とともに、低侵襲な手術の一環としてダヴィンチを用いた手術も積極的に行なっています。
「鏡視下手術が得意である」という特色は、患者さんだけでなく、若手医師の教育にもよい影響をもたらしました。つまり、当院が鏡視下手術の業績を積むことで、鏡視下手術を学ぶために若手医師が数多く訪れるようになったのです。
私たちは積極的に若手医師を採用し、病院に新しい風を取り入れることを意識しました。若手医師が医療の中心となって活躍できる環境を整えることで、現在では、遠く北海道など全国各地から、何人もの医師が当院に集まっています。
当院は公立病院としては珍しく、病院単体の経営企画室を有します。経営企画室の役割は、院内の情報管理、あるいはシステム運用を実施することで、院長の経営判断を的確に補佐することです。
多くの場合、公立病院の院長というのは、その立場に至るまで臨床(患者さんを実際に診察・治療すること)に専念しているため、「経営のイロハ」を知り得ません。そのため、経営企画室が必要な情報やシステムを管理することで、病院経営をうまく補佐していくことが必要であると考えます。
院長に着任してから現在までの道のりは決して平坦ではありませんでしたが、職員が一丸となり頑張ってくれたおかげで、今があると感じます。
病院経営では、まず適任者をみつけて任せること、そしていかに職員を鼓舞するかが大切なポイントになります。たとえば医師なら、医師としての能力、患者さんへの接し方を含めて評価に値する適任者を採用すること、また、ときに適切な人員配置に抜擢することです。その積み重ねが、若手がそれぞれの領域で活躍できる環境を形成し、ひいては良質な医療の提供につながると考えます。
私自身には留学の経験がありません。実は、大学病院にいた頃、それまでの研究や論文の実績をもとにオーストリアの癌研究所から留学のオファーがあったのですが、諸々の事情により、諦めざるを得ませんでした。「チャンスがあったのに掴めなかった」この経験は、これまでの人生で唯一の心残りです。
このような私自身の経験から、若手にどんどん活躍して欲しいと考え、彼らがチャンスを掴み活躍できるよう、全力で支援しています。
2018年3月に、私は石川県立中央病院の院長を退官しました。これまでお話ししたような理念が、今後の病院経営に少しでも役立てば本望です。
石川県立中央病院 名誉院長
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現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。