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「静岡県で働きたい」と考える医師を増やすには?静岡県の医療情勢

「静岡県で働きたい」と考える医師を増やすには?静岡県の医療情勢
毛利 博 先生

静岡県病院協会 会長、藤枝市立総合病院 事業管理者

毛利 博 先生

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この記事の最終更新は2018年04月24日です。

新専門医制度が始まり、医師の東京一極集中は日本全体の課題となっています。静岡県では制度導入後の研修医数が大きく減り、医師数の確保が急務となっています。静岡県の医療情勢と、「静岡県で働きたい」と志す医師を増やすために必要な取り組みについて、静岡県病院協会会長の毛利博先生にお伺いしました。

日本ではかねてから医師が都市部に集中する傾向があり、静岡県では医師数の確保が課題となっていました。医師の東京一極集中とも呼ばれるこの傾向は、新専門医制度の開始(2018年)により日本全体の問題として顕在化しました。

静岡県では新専門医制度が導入された2018年度、後期研修医が例年の約160人から約100人にまで減少し、地域医療を維持していくうえでの大きな問題となっています。

過去の日本では、大学の医局が大きな役割を果たしていました。私達が若い時分には誰もが医局に入局し、医局員としてその大学や関連病院で経験を積んでいたものです。

こういった大学の役割や他の一般病院との力関係を調整するため、2004年に始まった制度が新医師臨床研修制度です。新医師臨床研修制度により、研修医は希望する臨床研修指定病院で初期研修を行えるようになりました。そのため、研修医は必ずしも大学の医局に所属する必要がなくなり、かつて大きな人事権を持っていた大学医局の立ち位置も様変わりしました。

しかし、2018年の新専門医制度により研修を行うことができる施設基準が変わったことから、大学の担う役割は再び大きなものとなったのです。

研修医

ところが、静岡県内には医学部を持つ大学が浜松医科大学1施設しかありません。本来、静岡県のように約380万人程度の人口を有する地域であれば、大学は2つほど必要です。

研修を行える大学が県内に2つあると仮定した場合、1大学に約100人、県内には合計で約200人の後期研修医が集まることになります。この200人という数字は、人口380万人都市が地域医療を持続させていくために必要な最低ラインの人数であると考えます。

「では、浜松医科大学の研修受け入れ人数を増やすことで、静岡県内の医師不足を解消できるのではないか」と考えることもできるでしょう。しかし、現実にはスペースや予算の不足といった問題が立ちはだかるため、1大学にキャパシティを超える人数の医師を集めることはできないのです。

静岡県

2018年に始まった新専門医制度では基幹施設が限られたために、研修医は基幹施設を軸として、短いスパンでさまざまな病院での勤務を経験するプログラムが一般的になっています。このプログラムは、「横に長く面積も広い」という特徴を持つ静岡県にとっては難しい問題となっています。上述した地形的な特性から、研修医は短期で病院を変わるたびに、静岡県東部エリア・中部エリア・西部エリアと引っ越しをしなければなりません。転居の繰り返しに伴う出費や、研修医の家族への負担など、新専門医制度により生じたマイナス要素を解消しなければ、やがて静岡県で働くことを選択する医師は減ってしまうのではないかと懸念しています。

現在私達は、研修医が自宅から通勤可能な範囲の市中病院を回ることができるよう、議論を重ねています。たとえば、研修医が静岡市内に居を構えた場合、藤枝市や焼津市の病院など、車や電車で通えるエリアの病院を回るとイメージしていただけるとわかりやすいでしょう。

地域の特性に応じた工夫を取り入れ、積極的にアピールしていくことが、静岡県で働きたいと考える医師を増やすために重要であると考えます。

意欲的に頑張っている若い研修医

静岡県全体の医師数を確保するためには、「静岡県医学修学研修資金」(奨学金)制度の改善も視野に入れていかねばなりません。静岡県医学修学研修資金とは、静岡県の地域医療に貢献したいという志を持つ医学部生や専門研修医を支援するための奨学金です。

現在、静岡県は「静岡県内の大学附属病院に勤務した期間が返還免除を受けるための勤務期間として認められるための要件」として、「浜松医科大学医学部附属病院が基幹施設となる専門研修プログラムに所属し、当該プログラム期間中において浜松医科大学医学部附属病院及び東部地域に所在する公的医療機関等に勤務すること」と定めています。

(平成30年度 静岡県医学修学研修資金 募集要項より)

「東部地域に所在する公的医療機関等に勤務すること」と定めている理由は、県内でも医師数の不足が深刻な東部エリアの医療を維持するための施策です。しかしながら、新専門医制度の開始により、静岡県は全域において医師不足の状態にあります。新たに静岡県内で働き始めた後期研修医の数が単純計算で3分の2となり、今静岡県の医療体制は崩壊の危機に瀕しているといえます。

私の意見としては、たとえば、「浜松医科大学の奨学金貸与者は、静岡県内の病院に勤務するのであれば、エリアを問わず返還免除を受けるための勤務期間として認める」など、要件を拡大すべきであると考えます。

どうすれば「静岡で働きたい」と感じる医師を増やせるのか、県も主体となって考えていく必要があります。

このような状況を背景とし、今「ふじのくにバーチャルメディカルカレッジ」に期待が集まっています。ふじのくにバーチャルメディカルカレッジとは、静岡県で働く医師を養成するために創立された仮想大学です。ふじのくにバーチャルメディカルカレッジには、毎年100人を超える医学生が新たに入学し、医学修学研修資金を利用しています。ただし、仮想大学であるためどのように運用するのか課題が山積しています。

人口減少がさらに進み、病院が余るという時代が到来する前に、静岡県では各病院の機能分化や統廃合を実施し、「地域で完結する医療」を目指していかなければなりません。

しかし、静岡県には地域完結型の医療を実現するための概念が根付きにくい背景があります。

静岡県は、もともと自治体病院が非常に多いという特徴を持っています。各市町村に自治体病院が存在することで、住民の方々には「おらがまちのおらが病院」という意識や愛着が根付いており、過去にはこれが静岡県の医療体制の魅力として評価されていました。

しかし、このように地域住民の方々が大切にしている施設を地域医療構想に組み込み、役割や機能を変えることは、運営母体の市町村には困難であるといえます。

したがって、静岡県の医療体制が時代の流れや人口の変化に適応していくためには、総務省も進めている各病院が独立行政法人化すること、もしくは民間譲渡することが必要だと考えます。現在、私たちは市に独立行政法人化について提案しており、今後検討委員会も設置されるのではないかと期待しています。

大都会とそうではない地域

ここまでに述べてきたように、地域医療を維持していくためには、その地域の地形や風土、歴史などを考慮した改革が必要です。静岡の地域医療と関東の地域医療、東北の地域医療は全く異なります。たとえば、私は医療から介護までを一体化させた地域医療の必要性を感じていますが、病院が数存在するなかで介護施設が乏しい東京では、こういった考えは生まれにくいでしょう。

近年では東北の地域医療が進展をみせています。この理由のひとつには、地域の医療従事者や行政、住民の方の持つ強い危機感があります。また、このほかにも大学の持つ役割の違いなど、さまざまな要因があります。

静岡県はどのように病院の機能分担と統廃合を進めるのか、県下唯一の大学である浜松医科大学にどのような役割を期待するのか、より発展的な議論が望まれます。

毛利博先生

私自身の目標としては、高次機能を持った回復期病院を、藤枝市立総合病院の組織外もしくは分院として作ることで、この地域に貢献したいと考えています。

このような構想を抱く理由は、転院先の決定に転院先の病院での判定会議などを経なければならないため、在院日数が長くなる傾向があるためです。

そこで、当院(藤枝市立総合病院)では1週間から10日ほど診療を行い、亜急性期のような早い段階で高次機能を持つ回復期病院に繋ぐことで、在院日数の短縮とスムーズな転院を図りたいと考えています。

現在、多くの急性期病院は経営維持のために在院日数の短縮など、意識改革が行われています。しかし、一部の病院のみが危機感を抱くだけでは、静岡県が直面している問題を乗り越えることは難しいでしょう。今後は、行政や地域住民は言うに及ばず、急性期病院、回復期病院さらに慢性期病院も一丸となり、意識を高く持って改革を図っていくことが必要です。

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    毛利 博 先生

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