東京都・江戸川区に位置する東京臨海病院は、29の診療科を要する総合病院として地域住民の方へ高い技術による医療サービスを提供してきました。なかでも東京都がん診療連携協力病院の1つとして、がんの治療に特に力を入れており、また近年では救急医療にも積極的に取り組んでいます。東京臨海病院の病院長である臼杵 二郎(うすき じろう)先生に、同病院の取り組みや地域の皆さんへの想いをお話しいただきました。
東京臨海病院は、日本の私立学校の教員や家族が加入する共済組合である“私立学校教職員共済組合(私学共済)”の組合立病院として、また主に東京都江戸川区民の皆さんへ医療サービスを提供する病院として、2002年に江戸川区で誕生しました。29の診療科を備え、新しい医療機器と高い技術力を有するスタッフにより、地域の皆さんへ医療サービスを提供しています。また、当院は、東京都がん診療連携協力病院に指定されており、がんの治療に力を入れていることに加え、近年では救急医療にも積極的に取り組んでいます。
当院は、総合病院としてすべての科が高い技術と新しい医療機器を有し、診療にあたっています。その中でもがん治療では、がん治療の3本柱(手術、放射線治療、化学療法)でガイドラインに基づいた治療を低侵襲(からだに負担が少ないこと)性にこだわって行っています。
例えば手術では内視鏡下手術を中心に実施しています。放射線治療では複雑な形の腫瘍にも放射線の集中照射が可能な強度変調放射線治療機(IMRT)を導入し、従来より放射線を当てるべき場所に当て正常組織へはなるべく当てない治療ができるようになっています。近年の進歩が著しい化学療法では、なるべく外来で治療を受けていただくことが可能となっています。当院では3つの治療を組み合わせる集学的治療法を患者さんの状態や病期(ステージ)に応じて行い、都心の病院と同等のがん治療を提供しています。
東京臨海病院は、二次救急指定病院として、緊急の治療を要する方のなかでも、主に入院・手術を必要とする患者さんを“可能な限り断らず受け入れる”ことをポリシーに積極的に受け入れています。
なかでも高齢化の進行とともに増えてきた脳血管疾患、心血管疾患の救急は手厚く、脳血管疾患の救急では日本脳卒中学会から一次脳卒中センターの受けており、一刻を争う脳卒中の患者さんの治療を行っています。
心血管疾患では專門医が24時間ローテーションで当直を行い、緊急な患者さんに外科手術やカテーテルの治療などの対応をしています。また、当院は脳梗塞を引き起こす心房細動(しんぼうさいどう)に対する治療である“クライオアブレーション”を強みとしており、不整脈の原因となる心筋に対して風船(クライオバルーン)を使用し冷凍凝固壊死を心筋に作成することで治療をおこないます。このクライオアブレーションにより手術時間が大幅に短縮し、高い治療効果とともに患者さんの身体への負担が軽減しました。
がん治療や救急のほかにも、当院は2024年から無痛分娩に対応予定の産科や、悪性腫瘍以外の疾患に幅広く対応している整形外科など、各科がみな強みを持っています。そのなかでもとくに呼吸器内科、呼吸器外科は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応で存在感を発揮しました。
そもそも当院は、コロナ禍がはじまった初期の2020年の2月に、ダイヤモンド・プリンセス号の患者さんを受け入れた病院の1つです。その後、感染が広がるなかで患者さんに対して病院が少ない状況が生じる時期があり、当院は全医師がCOVID-19の診察を行えるような体制をとって60床の新型コロナウイルス感染症病床を設置し、多くの患者さんを診させていただきました。その間、江戸川区の医師会や保健所、他の病院とも連携をとり、結果として江戸川区で一番多くの患者さんの治療を行いました。このような動きの中で地域のクリニックの先生方から信頼をいただけたことを大変誇りに思っています。
さらに、当院の大きな特徴は、よいスタッフがそろっていることです。これは、医師のみならず、看護師やコメディカルなども含め働くスタッフ全員に共通しています。皆、保有している技術や志が高い点が特徴でしょう。
また、職種間の連携の垣根が非常に低い点も当院の特徴です。たとえば、がんの病院横断的なカンファレンスを定期的に開いており、そこには多職種が広く参加しています。ほかにも、外科の術前術後および病理カンファレンスにも看護師や放射線技師など多職種が参加し意見を交換しています。このように、多職種が常日頃から連携し意見を交換していることが、よりよい医療の提供につながっていると感じます。
近年ではラビッドレスポンスチームを作りました。ラピッドレスポンスチーム(RRT)は、心臓が停止するような急変を事前に予防したり察知し、必要があれば素早く措置を行うことを目指しています。
そのためには、医師や看護師、コメディカルスタッフなどが急変のサインについて学んだり、初期対応をどのように行うのか知っている必要があります。当院ではRRTのメンバーが中心になって各科横断の院内講習会を実施するなど、病院全体で患者さんの急変に対応できるよう取り組んでいます。
当院を運営している私学共済は、加入者数が60万人を超える全国屈指の健康保険事業運営者であり、当院では全国に散らばる加入者の皆さんに向けた医療サービスも行っています。
たとえば、40歳以上の共済組合加入者が受ける“特定健診”(いわゆるメタボ健診)でメタボリックシンドロームに該当した方で、生活習慣を変える指導(保健指導)を希望した方に対しては当院のスタッフが全国の学校等に赴き“出張保健指導”を行っています。現在はまだ希望者全員に当院のスタッフが指導を行うことはできませんが、今後はより体制を拡充できればと考えています。
東京都から災害拠点病院に指定されている当院は、地域のための医療の一環として普段から水害を想定したシミュレーションを行っているほか、いざというときでも地域の皆さんに医療を提供できるよう建物や電源設備も災害を想定して準備をしています。
また、より質が高い医療を提供するために、病院の全スタッフのコミュニケーション、連携をより高めていく必要があります。そのためにDX化を進め、スタッフ全員で理念や基本方針に基づき、同じ方向を向いて行こうと思っています。
このような動きを通じ、この東京臨海病院を地域の方、地域の先生、当院で働きたい方からより信頼され、選ばれる病院にしたいと思っています。そのためにも、より一層地域に尽くし、これまで以上に質が高い医療を提供することに努めていきます。