山と海に囲まれ自然豊かな静岡県 西伊豆。その港町のひとつ「田子」はかつて遠洋漁業の基地として栄えながら、長く医療事情に恵まれず、常勤医師不在の地となっていました。
そうした西伊豆町田子地区の医療を支えるべく1999年に開設されたのが西伊豆町田子診療所です。ここでは暖かみのある医療を届けたいと想う医師・コメディカルスタッフが、立場の区切りなく診療にあたりながら地域の患者さんを支え続けています。そうしたきめ細かい心遣いに満ちた診療により、西伊豆町田子診療所は多くの地域住民の方々の心のよりどころとなり、患者さんにとってなくてはならない存在となっています。
そして2015年、西伊豆町田子診療所は同地区内への新築移転と同時にさらに医療機器を充実させより質の高い医療が提供できる体制が整いました。移転から2年、地域に親しまれる西伊豆町田子診療所の魅力や取り組みについて、2008年より西伊豆町田子診療所で医師として働く笹井平(ひとし)先生にお伺いしました。
西伊豆町田子診療所は日本の地域医療の確保を目的に設立された公益社団法人 地域医療振興協会によって運営される、無床診療所です。西伊豆町田子地区の現在の人口は約2,300人です。この地域には人口の少ないことから以前は常勤医師不在の地となっていました。そうした医療過疎をなくすために設立されたのが当診療所であり、今年(2017年)で設立から18年が経ちました。
西伊豆町田子診療所には日々患者さんが集まります。いつも雑談交じりに患者さんが症状を相談されるので、お話をしながらそのまま診療が進んでいきます。そうした患者さんが気軽に立ち寄れて親しんでくれる、「ご近所さん」を超えてまるで「家族」のような距離感があるというところは、当診療所の最大の魅力かもしれません。
こうした地域の診療所では、やはり医療従事者の不足が課題になります。そうした課題をカバーできるよう当診療所では医師、看護師、ケアマネージャー、臨床検査技師などがそれぞれの役職に縛られることなく、それぞれが必要なケアを積極的に行います。たとえば看護師であっても介護の仕事までを担い、ケアマネージャーの方も患者さんの病態を医師と的確に相談できるように看護師と近しい知識を持っています。こうしてそれぞれ立場の区切りなく患者さんの診療にあたってチームで医療を進め、地域の患者さんを診療所一丸となって支えています。
また、当診療所は2015年の新築移転にともない最新鋭の機器を整備しました。X線装置、電子内視鏡、カラー超音波診断装置など、最新の医療機器を揃え、日常診療領域を幅広くカバーしています。地域を支える診療所として質の高い医療を提供できるよう、環境を整えています。
地域の患者さんを一手に担う診療所であるため、「足が痛い」「視野が悪い」「腹痛がある」「骨折した」など、非常に幅広い疾患に対する診療をすべて受け入れています。特にご高齢の方が多いこの地域では複数の疾患を併せ持つ患者さんも少なくありません。患者さんがいつでも受診でき、どういったことでも気軽に相談できる総合的な能力・知識をもった医療を提供できるようにしています。
ご高齢の方にとっては必ずしも標準的な治療ばかりが最善ではなく、ときには標準的な治療でなくても、患者さんがより負担を感じることなく納得できる治療を選んだほうがよいケースもあります。それぞれの患者さんにとって最もよい治療ができるよう、患者さんに寄り添い、患者さんの意思を尊重しながら一緒に最善の治療を考えていくことも、とても大切なことです。
ご高齢の方が多い地域でもあることから、診療所での外来診療の時間以外には在宅訪問診療も行っています。月曜、木曜、金曜日に患者さんのご自宅を訪問していますが、緊急の場合は24時間365日、夜中でも患者のご自宅に駆け付けて診療にあたります。現在では約30名の患者さんの訪問診療を行っています。
また在宅でのお看取りをお引き受けしています。この地域で亡くなられてしまった方のうち、たくさんのお看取りを当診療所がお手伝いしてきました。
当診療所では地域の患者さんにより健康や疾患に対する関心を持ってもらえるように様々な取り組みを行っています。
診療所の待合室は親しみやすく過ごしやすい環境にできるように整えています。そしてこの待合室では、定期的に医療や健康に関する教室を開いています。
たとえば最近では「転倒予防教室」を開催しました。体操をする際の注意点や、運動不足によるリスク、転倒予防で重要となる平衡感覚のトレーニング方法など、地域の皆さんの生活に直結するような身近な話題を取り上げるようにしています。
教室では地域の方々に医療情報をお伝えできるだけではなく、患者さんからのフィードバックもたくさんいただけます。教室で平衡予防のトレーニングご紹介した後では、皆さんの声に耳を傾けてみると「手も足も軽くなる」「歩く距離が伸びた」「歩き方がよくなったと言われた」「お通じが良くなった」「体がすっきりする」といったうれしい意見を多く聞くことができました。こうした取り組みによって、地域の方々とコミュニケーションをとりながらより健康な地域づくりを目指しています。
田子診療所便り 2017年2月発行
また当診療所では定期的に「田子診療所便り」というリーフレットを発行しています。
このリーフレットでは先ほどの健康教室の開催情報や、医療コラム、俳句コーナー、診療所スタッフの投稿などを掲載しています。
こうした情報をインターネットなどではなく、紙で配って発信していくというところが地域の方々にとても好評で「次の便りはまだ?」と患者さんにおっしゃっていただくこともあります。こうした取り組みを心待ちにしていただけるということはとてもうれしいことです。こうした形で健康や医療のこと、そして当診療所のことを知っていただける機会があるのはとてもよいことだと感じています。
私は大学の医学部を卒業後、5年ほど臨床を経験したあとは、民間企業で医薬品などの研究を行ってきました。そして50歳を過ぎ人生を振り返ったときに、学生時代には「へき地のような医者のいない所へ行きたい」という志を持っていたことを思い出し、医師の再研修を行う地域医療振興協会のプログラムに参加しました。そうした行動が、いまこの西伊豆町田子診療所にいるということにつながっています。私はこの第二の人生で、田子の皆さんの医療を支え続けていきたいと思っています。
この西伊豆町田子地区はとてもいい環境です。皆さんが診療に対して「ありがとう」と優しく感謝の言葉をかけてくれます。そうした優しい地域の方々に、暖かみのある医療を提供していくことで、田子地区のすみずみまで“安心”をお届けしていきたいと思っています。
西伊豆町田子診療所 診療所長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。