大動脈弁狭窄症や大動脈弁閉鎖不全症に対して行われる「自己心膜を用いた大動脈弁再建術」には、人工弁を使った弁置換術に比べて多くのメリットがあります。しかし、まだまだ新しい治療法であり、技術習得のためのトレーニングも必要であるため、実施できる病院が限られている現状があります。
今回は、浜松医療センター心臓血管外科部長である田中敬三先生に、自己心膜を用いた大動脈弁再建術の難しさや手術を受ける方法についてお話を伺いました。
「自己心膜を用いた大動脈弁再建術」は、患者さん自身から採取した心膜(心臓を取り囲む薄い膜)を使って大動脈弁を作成し、悪くなってしまった大動脈弁と取り替える手術です。
2018年現在、大動脈弁膜症(大動脈弁狭窄症・大動脈弁閉鎖不全症)に対しては、「人工弁を使った弁置換術」が標準的な治療法ですが、人工弁を用いることによるいくつかのデメリットがあります。
そこで、東邦大学医療センター大橋病院の尾崎重之先生が、人工弁を使わない大動脈弁再建術を開発され、近年少しずつ全国的に広まりつつあります。
自己心膜を用いた大動脈弁再建術の詳しい方法やメリットについては、記事2『自己心膜を用いて大動脈弁膜症を治す「大動脈弁再建術」とは?そのメリットについて』をご覧ください。
自己心膜を用いた大動脈弁再建術を実施するために、まずは手術を行う医師が技術習得のためのトレーニングをしっかりと受けることが重要です。
特に、手術においては以下のような難しさがあるため、この点について重点的に修練を積み上げる必要があります。
自己心膜を用いた大動脈弁再建術において、もっとも重要なこととして「大動脈弁を至適なサイズで作成すること」が挙げられます。
自己心膜で作成した大動脈弁が、柔軟性を持ちながらしっかりと開き、なおかつきちんと閉じて血液が逆流しないようにするためには、いかに至適なサイズで大動脈弁を作成するかが重要です。
サイジングの際には、専用の弁尖サイザーを使用して弁の大きさを決定します。このとき、サイザーが少しでもずれて、誤ったサイズを選択してしまうと、術後に大動脈弁の動きが悪くなってしまったり、弁がきちんと合わずに血液が逆流してしまうことがあります。
大動脈弁が術後きちんと機能するためには、本来の大動脈弁の形状のように立体的に再現する必要があります。このためには、特殊な縫合テクニックを用いて大動脈弁を弁輪部(弁の周囲)に縫い付けていく必要があります。
大動脈弁の縫合はこの手術のもっとも難しい点ですので、縫合テクニックを身に付けるために、模型やブタの心臓を使うなどしてトレーニングするだけでなく、実際の手術ではエキスパートの先生に直接指導していただく必要があります。
自己心膜を用いた大動脈弁再建術を保険診療として患者さんに行うためには、手術を行う医師や病院が施設基準*で定められたいくつかの条件をクリアしている必要があります。
自己心膜等による大動脈弁再建術実施ガイドライン(自己心膜等による大動脈弁再建術勉強会)で定められている施設基準では、病院としての手術実績や設備機器、医師の専門性などに関する条件が定められています。
具体的には、大動脈弁置換術または大動脈弁形成術の弁置換術を年間20例以上行っていることや、心臓血管外科の専門医を取得していることなどが記載されています。
施設基準…保険診療の一部について、医療機関の機能や設備、診療体制、安全面やサービス面等を評価するための基準
自己心膜を用いた大動脈弁再建術を実施している病院は、全国に41病院あります(2016年時点)。そのうち、静岡県で実施している病院は当院のみです(小児を除く)。
全国で自己心膜用いた大動脈弁再建術を実施している病院は、こちらをご覧ください。
当院では、大動脈弁膜症の治療の適応と判断された患者さんに対して、「人工弁による弁置換術」と「自己心膜を用いた大動脈弁再建術」のそれぞれの治療法を提示し、メリットとデメリットをお伝えしたうえで、患者さんに治療法を選択していただいています。
他院で大動脈弁膜症を指摘され、治療法について悩んでいる方がいらっしゃいましたら、お話を聞きにきていただくだけでも結構ですので、ぜひお気軽にお越しください。
浜松医療センター 心臓血管外科 部長
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