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大動脈弁膜症(大動脈弁狭窄症・大動脈弁閉鎖不全症)とは?症状や治療法

大動脈弁膜症(大動脈弁狭窄症・大動脈弁閉鎖不全症)とは?症状や治療法
田中 敬三 先生

浜松医療センター 心臓血管外科 部長

田中 敬三 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年11月30日です。

大動脈弁が閉じなくなったり、開かなくなったりする「大動脈弁膜症大動脈弁狭窄症大動脈弁閉鎖不全症)」は、自覚症状が出た場合、早急に手術治療を行う必要がある病気です。

今回は、浜松医療センター心臓血管外科部長である田中敬三先生に、大動脈弁膜症の症状や治療法について解説いただきました。

心臓模試気図

心臓には、「右心房・左心房・右心室・左心室」という4つの部屋があり、それぞれの出口には血液の逆流を防ぐための「弁」がついています。弁は、心臓が収縮する動きに合わせて開いたり閉じたりすることで、血液が一方通行でスムーズに流れるようにサポートしています。

これらのうち、左心室から大動脈へ流れる血液の逆流を防いでいるのが「大動脈弁」です。

この大動脈弁が、何らかの原因でうまく開かなくなることを「大動脈弁狭窄症」、反対にうまく閉じなくなることを「大動脈弁閉鎖不全症」といいます。そして、これらを総称して「大動脈弁膜症」と呼びます。

大動脈弁狭窄症では、加齢による動脈硬化などによって大動脈弁がだんだんと硬くなって動きが悪くなります。すると、全身へ血液を送り出しにくくなってしまい、正常な状態と比べて心臓に大きな負荷がかかってしまいます。

一方、大動脈弁閉鎖不全症では、大動脈弁が変性して壊れてしまうことで、弁がきちんと閉じず、大動脈から心臓へ血液が逆流してきてしまいます。そして、逆流した血液によって心臓に負荷がかかってしまいます。

大動脈弁狭窄症を発症していてもしばらくは無症状の時期が続きます。それは、心臓には十分な代償機能(低下している心臓の機能を補うはたらき)が備わっているためです。

しかし、代償機能がはたらかなくなった途端、いきなり自覚症状が現れます。主な症状としては、突然の失神、意識消失、労作時の胸痛発作、呼吸困難などが挙げられます。

大動脈弁狭窄症の恐ろしいところは、症状が発現しているにもかかわらず治療を受けなかった場合、平均余命がおよそ2〜5年しかないということです。

そのため、大動脈弁狭窄症を発症した場合には、早急に治療を行う必要があります。

大動脈弁閉鎖不全症では、大動脈から逆流してきた血液によって心臓がだんだんと拡大していきます。早期では自覚症状を感じることはほとんどありませんが、進行してくると息苦しさや呼吸困難などの心不全症状が現れます。

大動脈弁膜症の治療法は、大きく「薬物治療・手術治療」に分かれます。

薬物治療は、無症状もしくは軽度の大動脈弁膜症の患者さんに行います。使用する薬剤は、心臓が収縮する力を強くする「強心剤」や、心臓の負担を減らして心不全症状を改善させる「利尿剤」などです。

ただし、薬物治療はあくまでも症状を抑制するための治療法であり、悪くなってしまった弁を治すことはできません。そのため、進行して症状が重くなってきた場合には、薬物治療に加えて、悪くなった弁を人工の弁に取り替える手術治療を行います。

大動脈弁膜症の手術治療としては、主に以下のような治療法が挙げられます。

  • 人工弁(機械弁または生体弁)を用いた弁置換術
  • 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI
  • 自己心膜を用いた大動脈弁再建術

これらのうち、従来から多くの病院で広く行われているのが、人工弁を用いた弁置換術です(治療法については後述で詳しく解説します)。

また、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)も近年多くの病院で行われて始めています。これは、カテーテル(医療用の細い管)を血管内に挿入して、大動脈弁部に人工弁を留置する治療法です。弁置換術のように胸を大きく切開する必要がないため、外科手術に耐えることができないと予想される高齢の方に行うことが一般的です。

さらに近年は、自己心膜を用いた大動脈弁再建術という治療法も登場してきています。弁置換術に比べて多くのメリットがあるため、当院でも積極的に実施しています(詳しい治療法については、記事2『自己心膜を用いて大動脈弁膜症を治す「大動脈弁再建術」とは?そのメリットについて』で解説します)。

それでは、大動脈弁膜症に対して、現在(2018年)の標準的な治療法である弁置換術について詳しくお話しします。

弁置換術とは、悪くなっている弁を切除して人工弁に入れ替える手術です。

使用する人工弁はカーボン(炭素繊維)などから作られる金属製の「機械弁」、またはウシの心膜やブタの心臓弁で作られた「生体弁」です。

機械弁のメリット・デメリット

機械弁の大きなメリットは、生体弁に比べて耐用性に優れている点です。ただし、機械弁には血栓ができやすいというリスクがあるため、血栓ができにくくするための抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)を生涯にわたって服用する必要があるというデメリットがあります。

これらの理由から、機械弁は若年の患者さんに選択されることが多いです。

生体弁のメリット・デメリット

生体弁には、抗凝固薬の服用が術後数か月程度でよいというメリットがあります。しかしながら、生体弁は機械弁に比べて耐久性に劣るというデメリットがあります。

一般的には、約10〜15年後には、弁の動きが悪くなったり、弁の一部が裂けたりして狭窄や逆流が生じる可能性があります。また、心臓の活動量が高い若年者の場合にはさらに早期に弁が壊れてしまうことがあります。弁が壊れた場合には、壊れた生体弁を新しいものに取り替える再手術を行います。

このような理由から、生体弁は高齢の患者さんに用いることが多いです。

田中敬三先生

先ほども少しお話ししましたが、近年、大動脈弁膜症に対する新しい治療法である「自己心膜を用いた大動脈弁再建術」という手術が登場してきています。

この手術は、尾崎重之先生(東邦大学医療センター大橋病院)が開発、2007年4月から開始されている治療法です。

自己心膜を用いた大動脈弁再建術は、患者さん自身の心膜(心臓を取り囲む膜)を採取して特殊な溶液に浸し強度をあげたあと、大動脈弁を作成して、それを弁輪部(弁の周囲)に縫い付ける治療法です。

これまでの人工弁を用いた弁置換術と比べて、抗凝固薬を服用する必要がなかったり、心臓への負荷がかかりにくかったりするメリットがあります。

つづく記事2『自己心膜を用いて大動脈弁膜症を治す「大動脈弁再建術」とは?そのメリットについて』では、自己心膜を用いた大動脈弁再建術の方法やメリットについてお話しします。

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    田中 敬三 先生

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