概要
TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation:経カテーテル大動脈弁置換術)とは、大動脈弁狭窄症に対して行われる治療です。足の付け根などからカテーテルという管を挿入して心臓まで到達させ、心臓を止めることなく人工弁を傷んだ大動脈弁の中に植え込みます。
大動脈弁狭窄症は心臓の左心室と大動脈の間にある大動脈弁が何らかの原因で開きにくくなり、左心室から大動脈への血流が悪くなる病気です。左心室にかかる負担が大きくなり、進行すると心不全をきたし突然死に至ることもあります。根本治療のためには機能が低下した大動脈弁を人工弁に置き換える外科治療(外科的大動脈弁置換術)かTAVIを行う必要があります。外科手術は、胸部を切開し人工心肺装置を使って心臓を止めた状態で手術を行う必要があり、高齢者や体力・臓器の機能が低下している人には体にかかる負担が大きくなります。
TAVIは従来の外科治療とは異なり、開胸せず人工心肺を使わずに心臓を動かしたまま行える治療であり、高齢の人や外科手術のリスクが高い人に適した治療として注目されています。一方で、弁や血管の性状・サイズによってはTAVI自体が不向きであること、TAVIの10年以上の長期成績が不明であること、体が小さいと2回目のTAVIができない場合が多いことから、TAVIの向き不向きを短期だけではなく長期的な視点で考えることが重要です。
目的・効果
TAVIは大動脈弁狭窄症に対して行われる治療です。狭くなった大動脈弁を広げることで心臓の負担を減らし、全身への血流を増やすことで息切れや胸痛などの症状を改善する効果が期待できます。
種類
TAVIは人工弁を取り付けたカテーテルを心臓内部まで到達させ、傷んだ大動脈弁の内側に人工弁を留置します。カテーテルを心臓内まで送り届ける経路によって、いくつかの方法に分けられます。
経大腿動脈アプローチ
脚の付け根にある大腿動脈と呼ばれる血管からカテーテルを挿入し、心臓まで到達させます。切開部位が小さく、また全身麻酔なしでも行えるため、TAVIの中でももっとも体の負担が少なく、もっともよく選択される方法です。
経鎖骨下アプローチ
鎖骨の下に数cmの切開を置き、同部にある腋窩動脈からカテーテルを挿入する方法です。鎖骨の上からアプローチすることもあります。多くの場合は全身麻酔で行いますが、全身麻酔なしで行うことも可能です。大腿動脈からの経路が細くて狭い、あるいは経路の途中に血栓や動脈瘤があるような場合に選択されます。
そのほかの方法
経心尖アプローチや経大動脈アプローチなど、胸部を切開して心臓や大動脈に直接カテーテルを挿入する方法もあります。脚の付け根や鎖骨の血管の全てが細くて狭い場合に行われます。全身麻酔が必要です。
リスク
合併症
TAVIは患者の負担が少ない治療方法ですが、起こり得る合併症として血管損傷、心筋梗塞や脳梗塞、ペースメーカーを要する不整脈、造影剤による腎機能障害、人工弁の脱落、心臓からの出血、人工弁周囲からの逆流などがあります。また、まれに手術中の合併症によって緊急開胸手術が必要になることもあります。
合併症の頻度はそれぞれ1%未満~20%程度と幅がありますが、カテーテル人工弁の改良や手技の向上に伴って、治療成績は年々よくなっています。
適応
息切れ症状があったり、心臓の動きが低下したりしている重度の大動脈弁狭窄症は手術治療が必要です。そのうち、高齢者や外科手術のリスクが高い人にTAVIが行われます。高齢であっても大動脈弁の形やサイズが合わない場合や、ほかに外科手術が必要な心臓疾患がある場合には、外科手術のほうが適している場合もあります。
TAVIか外科的大動脈弁置換術のどちらを行うかは年齢や併存疾患、弁や血管の解剖などを考慮して、心臓に関わるさまざまな専門家のチームであるハートチームで総合的に判断され、患者本人と相談のうえ最終的に決定されます。TAVIで使用される生体弁(人工弁の1つ)は10~15年程度で劣化するため、特に若い患者に対して治療選択をする際は人工弁が劣化した際の次の治療についても考慮する必要があります。
治療の経過
一般的な入院期間
手術方法や医療機関によって異なりますが、一般的な入院期間は1週間程度です。術前の状態が悪い人は入院が長くなります。
治療~退院までの流れ
手術を受ける前に心エコーやCTなどの術前検査を行います。カテーテルで冠動脈造影検査を行うこともあります。これらの検査のうえ、TAVIが適切な治療であるかを最終的に判断し、使用する人工弁の種類やサイズ、カテーテルのアプローチ部位、麻酔方法などを決定します。
手術は全身麻酔または局所麻酔(鎮静剤を併用)で行われ30分~2時間程度で終了します。術後はリハビリを行い、特に合併症がなければ数日~1週間ほどで退院します。合併症のある人や術前から状態の悪い人は入院期間が長くなります。
治療後の経過
治療(退院)後の経過
術後の経過が良好であれば、退院後はすぐに元の生活を送ることができます。医師との相談が必要になりますが、大動脈弁機能が改善することで、これまでより活動的な生活ができるようになる人もいます。一方で、体力が弱っている人はリハビリテーションを行うために転院が必要になることもあります。
治療(退院)後に気を付けること
人工弁を留置すると、血栓という小さな血の塊ができやすい状態となるため、術後は抗血小板薬(アスピリンなど)を服用します。心房細動がある人は、抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用します。これらの薬によって出血や胃の痛みなどの副作用が現れることもあるため、不調を感じた際は主治医に相談しましょう。なお、出血や消化管トラブルのリスクが高い人はこれらの薬を服用しないこともあります。
そのほか、退院後に合併症が起こる場合がまれにあります。リスクは患者によって異なるため、退院時に生活の注意点や起こり得る合併症などについて主治医から説明を受けましょう。術後の経過がよくても、定期的な診察や検査は必ず受けることが大切です。
日常生活での注意点
治療後はこれまでどおりの生活を送ることができますが、心臓の負担を軽減するためにも、バランスのよい食事と適度な運動を続けることが大切です。どのような食事内容、運動内容がよいかは、主治医と相談して決めるとよいでしょう。
人工弁を使用すると、感染症にかかった際に人工弁に感染が及ぶことがあります。定期的な口腔ケアを受け、また歯科治療や外科治療を受ける場合には、医師に人工弁が留置されていることを必ず伝えましょう。
費用の目安
TAVIの費用は入院期間や治療内容によって異なりますが、高額療養費制度が適用されるため、自己負担は5~20万円程度とされています。負担額は年齢や所得によって変わります。入院が長引くとさらに高額になる可能性があります。
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