院長インタビュー

医療・介護・福祉をつなぐ組織体制の改善に取り組む佐渡総合病院

医療・介護・福祉をつなぐ組織体制の改善に取り組む佐渡総合病院
佐藤 賢治 先生

JA新潟厚生連佐渡総合病院 病院長

佐藤 賢治 先生

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この記事の最終更新は2018年12月05日です。

JA新潟厚生連 佐渡総合病院(以下、佐渡総合病院)は、入院医療を中心として手術や救急などに対応し、新潟県の佐渡島における医療の中核を担っています。

今回は、佐渡島の医療の現状から取り組みまで、佐渡総合病院の病院長である佐藤賢治先生にお話しいただきました。

新潟県佐渡市 佐渡総合病院外観

国立社会保障・人口問題研究所のデータによれば、佐渡島の生産年齢人口と年少人口は急速に減少してきています。若い世代が減って相対的に老年人口が増える、少子高齢化の状態です。

少子高齢化の一途をたどる佐渡ですが、後期高齢者の医療需要は向こう6~7年は横ばいで推移すると予測されています。少子高齢化は住民だけではなく、医療をはじめとする社会保障従事者にも等しく訪れます。佐渡の中核病院である佐渡総合病院ですら55歳以上の職員は2割近くを占め、4割に達する病院や、過半数の看護師が55歳以上である病院が存在します。定年退職を考慮すると複数の病院が3~5年で運営できない職員数に陥ります。すなわち、医療需要の減少より先に病院が破綻することになり、病院が破綻すると他の医療機関はおろか、介護・福祉サービスも継続できなくなります。なんらかの対策を早急に講じなければ社会保障体制そのものの倒壊は必至です。こうした状況を回避すべく、佐渡で実際に進めている取り組みをお話しいたします。

平成30年賀詞交歓会にて「書初め」を開催(佐渡総合病院よりご提供)

佐渡では全国平均をかなり下回る医療機関・介護施設・福祉施設で社会保障を担っています。各施設の機能や対応範囲を一元的に把握し、患者さんの状態に応じて対応できる施設を調整する体制があれば、少ない資源を有効に活用できます。こうした体制では、対応施設を動的に変更していくことになり、複数施設で患者さんの情報を共有する必要があります。患者情報の共有には2013年に稼働した地域医療連携システム「さどひまわりネット」を利用できます。「さどひまわりネット」については後半で述べます。

医学部の定員増や新設により、以前よりかなり多くの医師が毎年誕生しています。しかし、地方では医師不足が解消されるどころかむしろ悪化しています。いくつもの理由があると思いますが、専門性の高度化が大きな要因と考えています。医療の進歩は著しく、医療の細分化、高度専門化は避けられませんが、医療が患者さんを診る行為である限り、専門性が高くなるほど領域外との連携が重要になるはずです。現実は、専門領域に篭もってしまい、他とのコミュニケーションが希薄になっていると強く感じます。高齢社会では、専門性を発揮する疾患管理とともに患者さんへの生活支援が求められ、多職種・多施設との協働作業が重要です。

病院では、一人の患者さんに関わる複数の診療科、複数の職種が協同で診療にあたります。専門特化が進む中で複数の職種をつないでいるのは看護師です。看護師はケアのプロであると同時に「つなぐ」プロでもあります。地域でも、医療機関や介護施設などをつなぐ役割があると多職種・多施設連携が円滑となり、協働作業の効果が飛躍的に高まるでしょう。ICTによる連携システムはつなぐ役割を助けることはできても役割自体を担うことはできません。こうした「つなぐ」仕事に対する認知度はまだまだ低く、地域包括ケアシステムの根底にある課題ではないかと考えています。

少子高齢化への対応、資源管理・調整、つなぐ体制は、病院や介護施設などが個別に対応できることではありません。地域包括ケアシステムが目指す姿の通り、様々な立場が集まり、協議し、地域全体で進めていかなければ実現できません。

2018年3月、佐渡市、佐渡振興局(保健所)、病院、佐渡の医師会・歯科医師会・薬剤師会・看護協会、介護事業所、福祉事業所が集まって「佐渡地域医療・介護・福祉提供体制協議会」が設立されました。現場に即した部会として病院部会・在宅医療部会・介護サービス部会・障害福祉サービス部会、各施設の連携方法と患者情報の共有を検討する医療介護福祉連携部会、資源の一元的管理と調整を検討する資源管理部会、後述する社会保障従事者の研修環境を整備する学習研修部会、様々な取り組みを佐渡内外に広報する広報部会、計8つの作業部会を設置し、持続できる社会保障体制について多くの職種で協議が進められています。

院内外連携の中枢となる「総合サポートセンター」のスタッフ(佐渡総合病院よりご提供)

住民の少子高齢化は社会保障従事者にも等しく訪れます。新たな従事者を招き入れない限り、社会保障提供体制は継続できません。人を集めるためには「魅力の発信が重要」とよく言われます。多くの社会保障従事者、とくに若手にとっての「魅力」は、「学ぶ」ことができて自らの成長を実感できる環境と考えています。学べる環境は明確な意志がないと構築できません。

医療では、看護師は「つなぐ」役割を持つキー職種です。佐渡総合病院では日本看護協会が提示している「看護師のクリニカルラダー」をもとにした看護師研修プログラムを導入しています。このクリニカルラダーは段階的な到達目標を定めた研修ツールですが、その記載は総論に徹しています。総論を病院と院内各部署がそれぞれ各論に落とし込んで実際の研修プログラムを策定していくことになります。このプロセスを佐渡島内の病院ごとに実践できれば、病院個別の事情・機能を組み込みつつ、佐渡で勤務する看護師の知識・技術を高いレベルで均てん化できます。

佐渡総合病院の看護師研修プログラムでは、複数部署を回って研鑽するローテーション研修も組み込んでいます。これにより、他部署の業務の理解が得られ、自他共に得意・不得意な分野や適性を見つけられる確率が高まります。研修プログラムを標準化し、病院以外の組織にも導入すると、組織をまたがった人事交流を経て同等な効果を期待できます。同時に、相互の刺激から改善を図ったり、異動・転勤時も研修を継続したりすることが可能です。

佐渡地域医療・介護・福祉提供体制協議会では、看護師に限らず、他の職種でも同様な研修プログラムを佐渡標準として策定すべく、協議を進めています。

当院には新潟県や関東などから多くの研修医が訪れています。離島でありながら、5万人以上の人口があり、複数の病院や診療所が存在します1)。当院には2.5次程度の医療を実践できる設備と体制があります。研修医にとって「地域医療」を体験しやすい環境と言えますが、看護師など医師以外の医療従事者にとっても同様だと思います。

地元の病院の職員は患者さんの生活背景を知っていることが少なくありません。患者さんをよく知っていれば、退院に向けて準備しておくことや退院後に必要な支援を、退院前に実際に即して検討することができます。これは地元病院の最大の利点で、地域住民にとって単なる「近くの便利な病院」ではありません。当院で重症期治療を行い、その後は地元病院で治療を継続して退院するなど、機能と利点をうまく活用できれば、限られた資源を有効に活用しながらの機能的な連携となります。さらに介護・福祉サービスもつながると本来の地域包括ケアシステムが実現します。これには上述したように、複数の医療機関で患者さんの情報を共有できる仕組みが必要で、「さどひまわりネット」が活躍します。

患者情報共有基盤がある機能的連携は、佐渡だから構築しやすい社会保障体制です。「佐渡だからこそ学べる地域医療」は佐渡で勤務する魅力になります。

佐渡総合病院 正面玄関ホール

さどひまわりネットは、電子カルテを前提とせず、参加施設が持つ情報を双方向で共有する佐渡の地域医療連携システムです。レセプト(診療報酬明細)を共有情報の核に据えており、レセプトを発行する医療機関、すなわち病院・診療所・歯科診療所であれば情報を提供する施設として参加できます。レセプト情報の収集により、病名、手術を含む処置名、注射内容、院内処方の処方内容を相互に参照可能です。

レセプト以外には、病院検査システムや外注検査企業から検体検査データ、X線機器・内視鏡機器・画像管理システム(PACS)などから画像データ、保険薬局システムから院外処方内容を収集し、共有しています。電子カルテ導入病院からは、入院サマリ、診断レポート、各種指導内容も収集されます。

このように、さどひまわりネットには「情報提供施設」「情報参照施設」の区別がなく、参加施設すべてが情報提供を行い、参照するコンセプトで構築されています。

参加医療機関には収集端末が設置され、情報源となる機器から自動で情報を収集します。現場職員による入力作業は、意図的に入力したい場合や一部の機器を除き、原則発生しません。情報入力を手動にすると、現場負担が増し、結局続けられないシステムとなってしまいます。また、自動収集機能は入力の間違いや恣意的なデータ変更を防ぐ効果もあります。

さどひまわりネットの大きな特徴のひとつに、医師や看護師だけでなく、薬剤師や介護職員など、参加施設の職員で患者さんに関わる職種であれば、必要な情報を参照できる点があります。職種によって参照できる情報や利用できる機能に一定の制限は設けていますが、患者さんに責任ある立場の職員は必要な情報を十分に参照すべき、とのポリシーです。個人情報保護の基本は法令に定められている「守秘義務」です。システム自体のセキュリティ対策は、当然ながら厚生労働省、総務省、経済産業省のガイドラインに準拠しています。

さどひまわりネットは、佐渡島内の病院、診療所、歯科診療所、保険薬局、介護施設の間で情報を共有し、協働作業を行うためのツールです。しかし、所詮ツールであり、協働していくためには人と人とのコミュニケーションがなにより重要です。さどひまわりネットの存在を機に、多くの社会保障従事者がつながり、負担を軽減しながらもよりよいサービスを提供できることを強く願っています。

さどひまわりネットは、地域の協働に欠かせないツールと位置づけるだけでなく、新潟県の病院など他地域との連携にも役立つものとして進めていくつもりです。

1) 総務省統計局. 平成27年国勢調査 都道府県・市区町村別主要統計表(平成27年). 総務省. 2017.

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