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鼠径ヘルニアはなぜ起こる? 発症メカニズムとリスクファクター

鼠径ヘルニアはなぜ起こる? 発症メカニズムとリスクファクター
隅 健次 先生

ひらまつ病院 副院長

隅 健次 先生

目次
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鼠経ヘルニアは、本来はおなかの中にある腹膜や腸が、鼠径部(太ももの付け根あたり)の腹壁の弱い部分から皮膚の下に飛び出した状態のことをいいます。一般に『脱腸』といわれている病気です。

鼠径ヘルニア患者さんの80%以上は男性で、一生のうち男性の27%、女性の3%に鼠径ヘルニアが生じます。小児の病気と思われがちですが、成人になってからも多い病気です。

鼠径ヘルニアの原因は、成人と小児で異なります。小児の場合は先天的な原因で、成人の場合は加齢による組織の脆弱化が主な原因です。初期には、立ったときやお腹に力を入れたときに、鼠径部が膨らみます。次第に膨らみが大きくなると不快感や痛みを伴うようになります。

腸が皮膚の下に脱出し戻らなくなることがあり、これをヘルニアの「嵌頓(かんとん)」といいます。嵌頓()を引き起こすと非常に危険で命にかかわることもあります。鼠径部の膨らみや疼痛などの症状が出現した場合には、早めに外科や消化器外科を受診したほうがよいでしょう。

本記事では、鼠径ヘルニアの日帰り手術も行われているひらまつ病院副院長の隅健次先生に、鼠径ヘルニアの起こるメカニズムとリスクファクターについてお話しいただきます。

ヘルニア(hernia)とは、体の臓器や組織などが、本来あるべき部位から脱出した状態を指します。

ヘルニアは鼠径部、背骨、腹壁、横隔膜などさまざまな場所に発生する可能性があります。ヘルニアの中でも代表的なのは、椎間板ヘルニアと、鼠径部にできる鼠径ヘルニアです。

本記事では、鼠径ヘルニアについて詳しく解説します。

鼠径ヘルニアは、腹壁の脆弱な部分から、腸の一部や大網という腹膜の一部が飛び出した状態です。鼠径ヘルニアはヘルニアの発生した場所によって、外鼠径ヘルニア内鼠径ヘルニアに分類されます。大腿ヘルニアを加えて「鼠径部ヘルニア」と呼ぶことがあります。

鼠径ヘルニアの種類
鼠径ヘルニアの種類

外鼠径ヘルニアは、鼠径部ヘルニアの中でもっとも発生頻度の高い鼠径ヘルニアです。

外鼠径ヘルニアとは、内鼠径輪(ないそけいりん)(睾丸につながる血管や精管の通り道「鼠径管」の入り口となる穴)の隙間を通って、皮下に小腸などの一部が出てくるタイプの鼠径ヘルニアです。

内鼠径ヘルニアとは、もろくなった腹壁の隙間から直接皮下に腸などが飛び出すタイプです。

小児の鼠径ヘルニアは、腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)という袋状の出っ張りの開存(かいぞん)(本来退化消失すべき器官が存在すること)が原因です。

男性の精巣は、胎児のときには体内の腎臓の下付近にあります。出生が近づくと、精巣は徐々に下降していき、やがてお腹の外へ出て、生まれてくるときには陰嚢内に収まっています。この下降の際に腹膜の一部が伸びてできる出っ張りが、腹膜鞘状突起です。精巣が通った穴を内鼠径輪、通り道を鼠径管と呼びます。また、この現象は精巣のない女性にも起こります。

精巣が陰嚢内に下降した後、通常であれば腹膜鞘状突起は自然に閉鎖しますが、先天的に腹膜鞘状突起が閉じないまま生まれてくることがあります。子どもの鼠径ヘルニアは、こうして開存した腹膜鞘状突起を通じて脱腸が起こることで発症すると考えられています。

成人の場合は、加齢による筋膜の脆弱化(もろくなること)が原因のひとつであるといわれています。

鼠径部周辺の腹壁の筋肉・筋膜の強度が保たれているうちは、小腸や腹膜が外に飛び出てくることはありません。しかし、加齢に伴って鼠径部周辺の腹壁の筋肉・筋膜が衰えてもろくなると、内鼠径輪に緩みが生じます。緩み始めた内鼠径輪は徐々に拡大していきます。すると、大きくなった内鼠径輪の隙間や近傍から、腸を包み込んでいる腹膜が脱出してヘルニア嚢(ザック)をつくります。このヘルニア嚢の中に小腸などが飛び出してきた状態が、鼠径ヘルニアです。

このように、発生学的な要因で起こる子どもの鼠径ヘルニアと、筋組織の脆弱化によって起こる成人の鼠径ヘルニアの発症のメカニズムは異なります。成人の鼠径ヘルニアの場合は、鼠径部を閉鎖するだけでなく、弱くなった筋肉を補強しなければ、いずれ再発してしまう恐れがあります。

鼠径部の膨隆(ぼうりゅう)(膨らんだ状態)や腫れが主な症状です。鼠径部に不快感や違和感、痛みを覚える方もいます。起立時には腸などが飛び出して膨隆や腫れなどの症状が現れ、横になると飛び出た腸がお腹の中に戻ること、脱出・環納を繰り返すことも特徴です。

ヘルニアの断面図
ヘルニアの断面図

嵌頓()とは、飛び出した腸がヘルニア門(内容物が飛び出す出口)にはまりこんで締め付けられ、元に戻らなくなった状態です。嵌頓をきたした場合、激烈な痛みを伴います。姿勢を変えたり、押したりしても鼠径部の膨らみは戻りません。また、腸が強く締め付けられることによって腸の一部が壊死していきます。

通常のヘルニア状態と嵌頓状態の比較図
通常のヘルニア状態と嵌頓状態の比較図

一般的には性別*や加齢のほか、家族歴、既往歴、長時間の立ち仕事、喫煙、慢性咳嗽(がいそう)、前立腺摘出後、慢性的な便秘、妊娠や出産など、お腹に圧のかかる動作や作業も鼠径ヘルニアの発症リスクを高めるといわれています。

*鼠径部の構造上、男性に多いことが知られています。

このように鼠径ヘルニアには複数のリスクファクターがあります。しかしながら、先天的な因子、性別、年齢などのリスクファクターを意識的に予防することはできません。そのため、予防策を講じるよりも、症状が出始めたときの早期診断・早期治療が重要になります。

鼠径ヘルニアが嵌頓に進行してしまうと、やがて腸の壊死や循環障害、腸閉塞に至る可能性があり、危険な状態です。腸の壊死が起きた場合、壊死した部分を切除するなどの緊急手術が必要になりますが、嵌頓による緊急手術は術後の合併症発症率や死亡率が高くなることが明らかにされています。

これまでの研究では、軽症状の場合であれば鼠径ヘルニアが嵌頓する確率は年間1%程度(成人の場合)ですが、発症後3か月以内または50歳以上の方はさらに嵌頓が生じやすいといわれています。いったん飛び出たヘルニアが戻らなくなった場合や、激痛が生じたなどの嵌頓を疑うような症状が現れた場合は、速やかに病院を受診してください。

早期対処するほど、治療後の経過が良好であることが知られています。

鼠径ヘルニアにおける治療は手術が原則です。ヘルニアバンドで一時的に脱腸を押さえる方法もありますが、これは根治のための治療法ではなく、あくまで一時的な対応に過ぎません。根治のためには、手術が必要です。

次の記事2『鼠径ヘルニアの手術−腹腔鏡法で隠れたヘルニアも確実に治療』では、鼠径ヘルニアにおける具体的な手術の方法と流れについて解説します。

 

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