1996年に約36万人といわれていたアトピー性皮膚炎の患者さんは2017年には約45万人となり、約11年間で9万人近く増加しています。
年々増加傾向にあるといわれるアトピー性皮膚炎の原因について、藤田医科大学医学部 アレルギー疾患対策医療学講座教授で医師・医学博士の松永佳世子先生にお話を伺いました。
アトピー性皮膚炎とは、かゆみや赤みを伴う皮疹が生じる病気で、赤ちゃんや子どものときに発症して子どものうちに治る方と、よくなったり悪くなったりを繰り返しながら大人になっても症状を継続する方がいます。つまりアトピー性皮膚炎は、「もともと肌のバリア機能が弱い方がアレルゲンや刺激物の影響を受けることで、湿疹が出たり、かゆくなったりしている状態」ともいえます。
アトピー性皮膚炎には、アトピー素因と肌のバリア機能が関係しています。まずアトピー素因について、その方とその方のご家族が今までどのような病気にかかってきたかと、IgE抗体と呼ばれるアレルギーにかかわるタンパク質のつくりやすさがあります。アトピー性皮膚炎の患者さんの多くは、アトピー素因を有していることが分かっています。次に肌のバリア機能ですが、皮膚は外側から複数の層が重なりあってできています。このうち角層と呼ばれる部分は10~20μmの厚さで、十数層の角質細胞と細胞間を埋める細胞間脂質で構成されていて、外界からの異物侵入を防いでいます。
アトピー性皮膚炎とは、角層の下にある顆粒層のタイトジャンクションと呼ばれる構造に到達した異物に対し、体内のへルパーT細胞が異物に反応した結果生じる皮膚の炎症です。アトピー性皮膚炎でよくみられるかゆみは、炎症を起こした部位から出る物質が神経にはたらきかけることで出現します。
アトピー性皮膚炎の方の皮膚を調べると、天然の保湿因子が少ない、細胞間脂質という物質が少ない、タイトジャンクションが弱いなど遺伝的要因があることが分かってきました。
アトピー性皮膚炎の患者数増減について、これまでさまざまな調査が行われてきました。
厚生労働省が3年ごとに発表する患者調査からアトピー性皮膚炎の推定患者数2)をみると、わが国でのアトピー性皮膚炎患者は、
と推移しています。アトピー性皮膚炎の患者数は増加傾向にあるといえるでしょう。
1)2)…厚生労働省 患者調査(推計患者数,年齢階級・性・傷病小分類・施設の種類・入院-外来の種別別)を基に作成
アトピー性皮膚炎の発症と悪化には環境要因もかかわっています。環境要因とは主に、食べ物・ダニ・花粉などアレルゲンがかかわるアレルギー的因子と、衣類のゴワつき・汗・乾燥などがもたらす非アレルギー的因子のことです。
アトピー性皮膚炎が増加している理由のひとつに、ライフスタイルの変化による影響が挙げられています。特に学校や仕事など日常生活での精神的ストレスが引き金となって、症状が悪化することも考えられます。
また、近年では香りを楽しむ方が増えていますが、香料などの添加物が肌への刺激となることもあるため、肌に直接使用する製品では含まれる香料と香料の濃度も気になるところです。
アトピー性皮膚炎を含むアレルギー疾患の診療体制を整えるべく、国はアレルギー疾患対策基本法を2015年に施行しました。これにより、アレルギー疾患対策の総合的な推進を図るための基本指針策定と、医療提供・情報提供と相談体制・研究開発促進のための体制構築が進められました。
また、アレルギーに対する調査や研究が進んだことにより、赤ちゃんの頃から適切な洗浄や保湿で肌のバリア機能を補いながら外界からの刺激を防ぎつつ、口から食べることで免疫系の発達を促すことが分かりつつあります。
アトピー性皮膚炎そのものの治療方法も進化しています。長らくのあいだアトピー性皮膚炎の治療はステロイド外用薬が主流でしたが、現在はタクロリムス軟膏が登場、承認・販売されるなど、薬剤の選択肢が増えています。2019年4月には一定条件を満たした重症患者さんに対する生物学的製剤(抗体医薬)の投与が保険適用となりました。
これまで皮膚科の医師として臨床現場に立ち続けてきましたが、『先生!今年は半袖が着れたよ!』とアトピー性皮膚炎の患者さんに言われてはじめて、抱える悩みの深さに気づかされたことがあります。
肌荒れのせいで周囲の人の視線が気になって、着たい服を着れない、周囲とのコミュニケーションに支障をきたす、外出するのがおっくうになるなど、アトピー性皮膚炎は患者さんの社会性に悪影響が生じる可能性がある病気です。そのためアトピー性皮膚炎では、患者さんご本人だけでなく、患者さんのご家族や周囲の方も病気に対する理解を深めていくことが重要なのです。
藤田医科大学医学部 アレルギー疾患対策医療学講座 教授
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手湿疹ですが、痒みと痛みがともなっています。
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