歯肉膿瘍とは外傷や感染をきっかけとして歯肉に膿の塊ができる病気です。その多くは虫歯や歯周病に引き続いて発症します。歯肉膿瘍の治療は、膿瘍を切開する外科治療と抗菌薬による薬物治療を組み合わせて行います。このような治療は医師が患者の状態に合わせた適切な治療を行いますが、患者本人も治療について十分に理解することが大切です。
そこで本記事は、歯肉膿瘍で行われる具体的な治療法について詳しく解説します。
歯肉膿瘍とは歯肉に感染が起こり、白血球や感染した菌の残骸、壊死した組織などが歯肉の組織内に貯留している状態です。したがって、まずは膿を排出するために外科的な切開を行う必要があり、そのうえで感染による炎症を和らげるために抗菌薬によって感染菌を抑える治療を行います。さらに、歯肉膿瘍が虫歯や歯周病などの歯の病気が原因で発症している場合は、原因となった歯の治療も行われることもあります。
歯肉膿瘍を切開して病巣部にたまった膿を排出します。歯肉切開の方法は症状によっても異なりますが、以下のような手順があります。
膿瘍部分を消毒したうえで麻酔を行います。通常麻酔は局所麻酔で行いますが、膿瘍部位の炎症が強い場合は麻酔が効きにくい場合があるため、その際は静脈内に点滴をして麻酔を行うこともあります。
切開を行う前に歯肉膿瘍に針を刺し、膿瘍腔(膿がたまっている空間)の位置や深さを確認します。また、膿の一部が採取できれば感染菌を特定するための細菌検査を行うこともあります。
メスを用いて歯肉膿瘍を切開し、排膿路(膿を排出するための通り道)をつくります。切開部位は1~2cm程度であることが一般的です。口の中には神経や血管などが集まっているため機能を損なわないように切開位置を決定し、切開後は膿瘍腔の中の膿や老廃物を十分に洗浄することが重要です。
膿を完全に排出するためにドレーンと呼ばれる管を切開部位に留置し、排膿路を確保します。ドレーンは膿が排出されたタイミングで除去します。
歯肉膿瘍の切開を行った後は炎症を抑えるために抗菌薬を使った薬物治療を行います。抗菌薬は飲み薬が一般的ですが、炎症が強く、口を開けたり物を飲み込んだりすることが困難な場合は注射や点滴による投与を行うこともあります。
なお、抗菌薬にはさまざまなものがあり、種類によって効果を示す感染菌が異なります。感染菌の特定には時間がかかるため、特定しないまま薬物治療を開始することも少なくありません。3日程度抗菌薬を使用しても効果が見られなかった場合はほかの薬剤への変更を検討します。
歯肉膿瘍の原因が歯の病気によって発症している場合は、歯肉膿瘍の治療と並行して歯の治療を行います。歯肉膿瘍の原因となりやすい歯の病気には、虫歯と歯周病があります。
虫歯を取り除いて詰め物やかぶせ物をする処置を行います。歯肉膿瘍が起こっている場合は虫歯が神経や歯根にまで到達している場合が多いため、神経を除去する根管治療が行われることもあります。虫歯が重度で歯の多くが失われている場合は抜歯が必要になることもあります。
歯と歯茎の間にたまった歯垢や歯石を除去する治療を行います。重度の歯周病では歯周組織の奥深くまで歯垢や歯石がたまっているため、歯茎を切開しながらの治療が必要になることもあります。歯垢や歯石が除去できた後はブラッシングや歯科医院のクリーニングによるプラークコントロールを継続します。
歯肉膿瘍の切開や抗菌薬の治療を行っても症状が改善しない場合、“蜂窩織炎”と呼ばれる症状を引き起こしている場合があります。
蜂窩織炎とは、感染が顎の骨から顎、首回りまで広がり、化膿性の炎症症状を起こした状態です。重症化すると命に関わる状態になることもあるため、蜂窩織炎が疑われる場合は抗菌薬の点滴や血液検査などが必要になることがあります。
歯肉膿瘍の治療は外科的な切開が中心となるため不安に思う方もいます。しかし病院ではなるべく患者に負担のない治療が選択され、医師が丁寧に説明をします。そのため、気になることがあれば気軽に医師に相談し、自身の治療について十分に理解したうえで納得した治療を受けるようにしましょう。
また、歯肉膿瘍の治療を受けた後も症状がなかなか改善しない場合は、蜂窩織炎を引き起こしている可能性があります。治療後は医師の指示に従って診察を受け、最後までしっかりと治療を続けるようにしましょう。
明海大学歯学部 病態診断治療学講座 口腔顎顔面外科学第2分野/明海大学歯学部付属病院 歯科口腔外科 教授
明海大学歯学部 病態診断治療学講座 口腔顎顔面外科学第2分野/明海大学歯学部付属病院 歯科口腔外科 教授
日本口腔外科学会 理事・指導医日本小児口腔外科学会 常任理事・指導医日本有病者歯科医療学会 常任理事・指導医日本口腔科学会 評議員・指導医日本口腔ケア学会 評議員・口腔ケア指導者日本口腔顎顔面外傷学会 理事日本口蓋裂学会 評議員日本口腔内科学会 代議員日本歯科医史学会 理事
歯学部在学中、診断を間違えることのないように、との思いで口腔外科学専攻を決める。在学中から各種の手術見学や多くの口頭試問を受けるなど多様な教育を受ける中で、"口腔にはこんなに多くの病気が生じ、また困っている患者さんも多い。口腔外科の手術はすごいものだ"と強く思うようになる。現在は超高齢社会に対応して、低侵襲手術と歯科治療の1種である顎補綴(がくほてつ)の組み合わせによる治療を積極的に推進。"顎義歯なくして顎外科なし"という先人の名言を心に留め、口腔外科と顎補綴は補完し合うものと考えながら日々の診療に従事する。
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