近年、食べこぼしやかめない食品が増えるといった軽度の口腔機能の低下は、食欲低下や偏った食事につながり、さまざまな病気や体の衰えにつながるサインであることが分かってきました。そのため、現在ではこのような状態のことを“オーラルフレイル(口腔機能の虚弱)”と定義して、医療や介護の現場などでは軽度の口腔機能の低下を見逃さないことが重要であると提唱されています。
本記事では、オーラルフレイルの概念、症状、対策などについて詳しく解説します。
オーラルフレイルとは、口腔機能の虚弱(口の機能の衰え)のことで、健康な状態と障害のある状態の中間的な口腔機能の状態を指します。具体的には滑舌が悪くなる、食事の際に食べこぼしやわずかなむせが見られる、かめない食品が増えるといった口腔機能の低下が見られます。このような加齢に伴う口腔機能の低下は、歯の数が減り、口腔機能の速度や動きが悪くなり、かむ力が弱くなり、飲み込む力が低下するというように段階的に進行していきます。これは、骨格筋量や筋力の低下とも関連するとされています。
この状態を体の衰えのサインとして、2014年に“オーラルフレイル”という概念が提唱されました。日本歯科医師会でもそれまで行ってきた”8020運動(80歳になっても自分の歯を20本残そう、という運動)”に加え、オーラルフレイルの予防という考え方が広がってきており、早めの対応の重要性が唱えられています。
オーラルフレイルの概念(症状)は4段階に分けられ、進行するにつれて口腔や全身の機能が低下し、それに伴う症状が見られます。結果、その人が抱える病気の数や薬の種類が増えることにつながるとされているほか、それぞれの段階では口腔機能の低下と関連して、心身機能の低下についても触れられています。段階ごとの具体的な症状は以下のとおりです。
オーラルフレイルの第一段階は“社会性/心のフレイル期”と位置付けられています。最終的な症状は歯の喪失ですが、そこに至るまでには心身機能の低下も大きく関係するとされています。
まず、生活範囲が狭まり、活動量が低下します。すると意欲低下などの精神面が不安定となり、口腔リテラシー(口腔機能管理に対する関心度)が低下して、結果的に虫歯や歯周病、歯の喪失につながると考えられています。
第二段階は“栄養面のフレイル期”と位置付けられ、滑舌の低下、食べこぼしや若干のむせが見られる、かめない食品が増えるといったささいな口腔機能の低下が起きます。これらの症状によって食欲が減退し、食品の種類が偏ってしまうともいわれています。
ただし、機能は回復することもあるため対策次第で第一段階に戻る場合もあります。一方で、何もしなければ第三段階に進んでしまうこともあります。
第三段階は“身体面のフレイル期”と位置付けられ、かむ力や舌を動かす力が低下し、食べる量も減るなど、口腔機能の低下が顕在化する時期です。これらの症状によって骨格筋量や筋力の低下(サルコペニア)、移動機能の低下(ロコモティブシンドローム)、栄養の低下につながるとされています。
この場合も第二段階と同様、機能は回復することも進行することもあります。
第四段階は“重度フレイル期”と位置付けられ、食べたり飲み込んだりすることが困難になったり、かめなくなったりする時期です。運動や栄養にも障害が生じ、要介護につながることもあるとされています。
第四段階では機能が回復することは少ないとされています。
オーラルフレイルになると食事が満足に取れなくなり、食事の偏り、低栄養状態などにつながっていきます。一般的に運動機能、栄養状態の低下などは、要介護リスクが高まるとされるほか、病気や薬の種類が増える可能性も高まります。
しかし、これらの機能の低下は自覚が難しく、自覚した段階ではすでに回復が困難になっているとされるため、歯の喪失や滑舌低下、食べこぼし、かめない食品が増えるなど、軽度の口腔機能の低下に気付いた時点で放置せずに対策を講じる必要があります。
オーラルフレイルの対策は基本的に“歯の問題の解決”と“口腔機能を衰えさせない生活習慣の実施”の2つを行うとよいとされています。
虫歯や歯周病から始まることもあるため、口腔内に痛みや違和感がある場合は歯科受診を検討しましょう。歯科健診で定期的に口腔内のチェックをすることはオーラルフレイル予防に有効とされています。また、栄養バランスが整った食事をする、かみごたえのある食品を取ることも大切だと考えられています。オーラルフレイルの対策について気になる方は、歯科やかかりつけ医、もしくは利用している介護サービスの担当者などに相談するとよいでしょう。
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