間質性肺疾患は、肺の間質という場所に傷害や炎症(間質性肺炎)、線維化をきたす病気の総称です。また、一部の患者さんは徐々に肺が硬くなります(肺の線維化、肺線維症)。肺線維症のなかには、治療を行っても線維化が進行し、呼吸機能の低下が起こることで予後に影響する場合があります。
今回は、間質性肺疾患のなかでも近年注目されている “進行性線維化を伴う間質性肺疾患”について、国立病院機構 近畿中央呼吸器センター 臨床研究センター長の井上 義一先生にお話を伺いました。
間質性肺疾患は、肺の間質というところに傷害や炎症(間質性肺炎)、その修復過程でもある線維化(肺線維症)をきたす病気の総称で、200以上の病気を含んでいます。間質性肺疾患は聞き慣れない名前ですが、これまで単に間質性肺炎と呼ばれていた病気は間質性肺疾患の一部です。間質性肺炎はさらに細かく分類され、治療方針も異なります。
間質性肺疾患を理解するためには、まず呼吸の仕組みや肺の構造について知る必要があります。口や鼻から吸い込んだ空気は肺の奥にある肺胞まで運ばれます。そこで空気中の新鮮な酸素を血液に送り込み、老廃物である二酸化炭素を血液中から受け取る(ガス交換をする)という作業が行われているのです。肺胞は袋状になっており、袋の薄い膜の部分とその周辺は間質と呼ばれています。間質性肺疾患は、この間質に何らかの原因で、あるいは明らかな原因なく、異常(傷害、炎症、線維化など)が起きて病的となった状態を指します。
間質性肺疾患の代表的な症状は、長期間にわたる痰を伴わない咳(空咳)や日常動作程度の負荷での息切れです。一部の患者さんでは、手の指が丸く太鼓のバチのようになるばち指が見られることもあります。間質性肺疾患が起こる原因はさまざまで、関節リウマチ、全身性強皮症などの膠原病に伴う自己免疫性間質性肺疾患、過敏性肺炎(過敏性肺臓炎)やじん肺に伴う職業環境性間質性肺疾患、薬剤や放射線治療が原因となる医原性間質性肺疾患、そのほかサルコイドーシスなどが原因となることもあります。しかし、明らかな原因を特定できない場合も少なくなく、その場合には特発性間質性肺炎と呼ばれます。
たとえば、やけどをした際、軽度であれば数日~数週間で肌は元通りの状態になります。しかし、やけどの程度が重い場合や繰り返された場合、やけどのあとが残ってしまうことがあります。また、皮膚の傷害が繰り返された際にも、あとが残ることがあります。これは、皮膚だけでなく肺でも起こり得ることです。肺の間質に傷害や炎症が起こると体の修復作用がはたらき、コラーゲンなどの線維物質が増加して傷を塞ぎます。本来、傷を塞いだ線維物質の部分はだんだんと体内に吸収され、元の状態へと回復します。しかし、長期間にわたって炎症などが続くと、炎症部分にどんどんと線維物質が蓄積され徐々に間質が厚くなっていくのです。線維物質が集まった部分は硬くなり、肺の正常な機能が保たれなくなります。これが肺の線維化、あるいは肺線維症です。
どのような方に線維化が起こりやすいのか(リスク因子)という報告では、高齢者、喫煙者、粉塵などを頻繁に吸い込む環境・職業の方などが挙げられています。また、最近では、いくつかの遺伝子が線維化に関連し線維化の起こりやすい体質があるのではないかと考えられており、遺伝子解析の研究も進められています。
正常な肺は柔らかく、空気を吸い込むことで肺全体が風船やシャボン玉のように膨らみます。しかし、肺の線維化が進行してくると、肺が硬く、膨らみにくくなり、肺活量が低下します。すると、だんだんと呼吸によって体内に取り込める酸素の量が減ってしまうのです。一度線維化してしまった肺は元通りになることがないため、線維化がさらに進むと、呼吸機能は徐々に低下します。
間質性肺疾患の一部の患者さんでは、それぞれの原因における間質性肺疾患の標準的な治療や管理を行っても、肺の線維化が進行し呼吸機能が低下することがあります。近年、その状態を“進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)”と呼ぶことが提唱されました。
ただし、間質性肺疾患の全てが進行性の線維化を伴うわけではありません。進行性の線維化を伴う割合は原因となる病気や、患者さんによってもさまざまです。しかし、原因不明とされる特発性間質性肺炎の中でも、半数以上を占める特発性肺線維症では、多くの方に進行性の線維化が認められます。一方、膠原病や慢性の過敏性肺炎などが原因の間質性肺疾患において進行性の線維化が生じるのは、1~3割程度ではないかと推定されています。
通常、“肺炎”は、細菌やウイルスによって感染したものを指し、治療には抗菌薬などを用います。しかし、間質性肺疾患は多くの場合、抗菌薬が効くものではありません。間質性肺疾患は多数の病気を含んでおり、その原因や症状、治療および治療効果は病気ごとに異なります。
膠原病や過敏性肺炎、薬剤性肺炎、喫煙などによる間質性肺疾患の場合は、その原因疾患の治療を行う、原因を取り除くあるいは避けるということが第一です。
たとえば、特定の物質に対するアレルギー反応によって起こる過敏性肺炎の場合、日常生活においてアレルギーの原因を避けて過ごすことが重要です。また、薬剤が原因の場合には医師の指導の下、原因である可能性が高い薬の使用を中止します。さらに、喫煙が絡む間質性肺疾患の場合には禁煙が求められます。
原因不明の場合、広く特発性間質性肺炎と呼ばれます。特発性間質性肺炎には特発性肺線維症、特発性非特異性間質性肺炎、分類不能型特発性肺炎など、9種類の間質性肺炎が含まれます。それぞれ、予後や治療法、治療の反応性は異なります。
咳が多く出る場合には、症状を緩和させるために(対症療法として)鎮咳薬(咳を抑える薬)を用いることがあります。間質性肺疾患の咳は一般に頑固であるといわれています。
肺の線維化が進行し肺機能が低下すると、酸素を十分に取り込めなくなってしまいます。そのような場合、呼吸リハビリテーションや在宅酸素療法(普段の生活の中で酸素を吸入する治療)を行います。条件が合えば肺移植の対象になる場合があります。
間質性肺疾患は、まず原因となっている病気などを探って適切な診断を行い、それぞれに適した方針で治療、管理を行います。
そして、標準的な治療や管理を行っても線維化が進行する場合、進行性の線維化を伴う間質性肺疾患と判断されます。肺の傷害や炎症を抑える、あるいは肺がだんだんと硬くなり線維化が進行し呼吸機能が低下していくことを抑制するため、さまざまな薬物治療が行われます。
一般的に、どのような病気でも早期発見は重要です。一度線維化をきたした肺は、正常な柔らかい肺の構造が破壊されています。現状、このように低下した肺機能を改善し破壊された肺の構造を元に戻すことはできません。こうしたことから、間質性肺疾患においては肺の機能が著しく低下し息苦しくなってから診断や治療を行うのではなく、早い時期に間質性肺疾患の適切な診断を行って進行性の肺の線維化を見極め、必要に応じて適切に治療を開始することが重要です。
早期発見のためには、健康診断の受診に加え、ご自身の体調の変化に気を配ることも大切です。たとえば、数か月から数年の間に坂道の歩行や階段の使用がつらくなった、同年代の人と比べて歩くペースが遅くなった、あるいは痰を伴わない咳が治まらない場合などは、間質性肺疾患だけでなくほかの病気の可能性もあります。
そのような場合、まずは早めにかかりつけの先生にご相談いただき、精密検査や治療が必要であれば、必要に応じて専門の医療機関を紹介してもらうようにしてください。
間質性肺疾患(間質性肺炎、肺線維症など)は、診断や治療の難しい病気といわれていますが、間質性肺疾患をめぐる診断、治療は近年進歩しています。現在もさまざまな研究開発が進行中です。早期に異常に気付いて診断し、可能であれば原因を避ける、そして適切な治療と管理を行うことで予後の改善が期待されます。
“進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)”という概念は最近登場し注目されている新しい概念です。進行性の線維化は全ての間質性肺疾患で認めるわけではありませんが、原因となる病気の診断に加えて、適切に状態を評価し対策を立てることが重要です。まず、かかりつけの先生と相談し、必要に応じて専門医療機関に足を運んでください。
日本呼吸器学会『特発性肺線維症の治療ガイドライン2017』南江堂,2017
日本呼吸器学会『特発性間質性肺炎診断と治療の手引き(改訂第3版)』南江堂,2018.
吾妻安良太(編),三嶋理晃(編)『間質性肺炎・肺線維症と類縁疾患』(呼吸器疾患 診断治療アプローチ,4)中山書店,2018.
日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同委員会『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020』メディカルレビュー社,2020
公益財団法人 難病医学研究財団 『難病情報センター』(https://www.nanbyou.or.jp)
一般社団法人 日本呼吸器学会
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大阪府結核予防会大阪複十字病院 顧問、国立病院機構近畿中央呼吸器センター臨床研究センター 客員研究員
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