特発性側弯症の治療法には、装具療法と手術療法があります。藤田医科大学病院における側弯症の治療では、患者さんの症状に応じた治療法を提示しています。手術療法の場合はできるだけ傷あとが残らないような工夫や、治療に対する不安をケアすることを心がけています。
同院整形外科教授である藤田 順之先生に、特発性側弯症の治療方法や、藤田医科大学病院における治療の特徴、留意点などについてお話を伺いました。
特発性側弯症が診断された場合、その後の流れとしては主に3つあり、年齢やコブ角*によってどのように進めるかを判断しています。
*コブ角:背骨上部でもっとも傾きが大きい椎体と、背骨下部でもっとも傾きが大きい椎体から線を引いて形成された角度。
コブ角が20度や25度以内の場合は、基本的には経過観察となります。当院の場合は4~6か月ごとに外来通院していただき、定期的にX線検査と整形外科医による診察を行って、側弯の進行状況をチェックします。また、コブ角が25度以上あっても、骨や体の成長が終わる高校生の年齢であれば、経過観察で対応する場合があります。
経過観察中に側弯が進行した場合は装具療法を始めます。思春期に発症した特発性側弯症の場合は自然に治癒することはほとんどないと考えたほうがよいでしょう。
コブ角が20度くらいから45度くらいの側弯症で、成長期にあたる患者さんの場合は、これ以上の進行を防止するために装具療法を行うことが多くなります。これは体に合わせた矯正装具を作成し、なるべく長い時間装着することで、側弯の進行を予防するという治療法です。側弯自体は改善されませんが、成長期に装具療法を行うことで進行を止めることができます。成長に合わせて装具を再製作することもあります。
骨の成長がある程度落ち着く高校生ぐらいまでの間は装具を装着していただき、成長が終わって側弯の進行もほとんどないことが確認されれば、装着時間を徐々に減らしていって装具療法を終了します。
体を覆う大きなコルセットのようなものをつけることから、着替えが必要な授業の際には外す必要がある、夏場は蒸れて皮膚がかぶれることがあるなど、装具療法を継続するのは大変です。しかし、装着する時間が長ければ長いほど予防効果があり、大体18時間以上装着することが推奨されています。そのため、「友達に見られたくないので学校にはつけて行きたくない」というお子さんは、家にいる間になるべく多くつけていただきたいと思います。
たとえば、学校から17時に帰宅して翌日8時に登校するとすれば、食事や入浴の時間を省いても12時間以上は装着時間を確保できます。最低限、就寝中につけていただくだけでも予防効果がありますので、可能な限り装着することを推奨しています。
コブ角が40度や45度を超える場合は手術療法が適応となることが多くなります。角度が大きい側弯症を正常に近い状態に矯正し、元に戻らないようにするための方法です。手術には主に前方矯正固定術(前方法)と後方矯正固定術(後方法)がありますが、手術で使うインプラントが発達し、現在は主に後方法といって、背中の中央部分の皮膚を縦に切開して、背中側から背骨にアプローチする方法がとられています。
後方法では、内臓や大血管がないため、これらを傷つける危険が低く脊椎に到達できるというメリットがあります。
手術に必要なだけ展開したら、固定が必要な脊椎の左右に医療用のネジやフックなどといったインプラントを設置し、インプラントを本来の脊椎の形に合わせて作成したロッドという器具に連結させます。このロッドにインプラントを引き寄せたり、連結した医療用のネジを頭側やお尻側に移動させたりすることで脊柱の回旋や側弯を矯正していきます。
一般的に後方法は前方法と比べると脊柱の固定範囲が長くなるといわれていますが、矯正力や固定力が強いのが特徴です。
矯正を行った後は、インプラントだけでは術後に緩んできて、矯正した背骨が元に戻ってくることが懸念されますので、手術中にご自身の脊柱から採取される骨や人工骨を用いて骨移植というものを行い、固定した範囲の脊椎を骨癒合させることで安定化させます。
最終的に骨癒合には半年程度かかるといわれています。
手術療法ではメスを入れるため、出血を伴い、どうしても傷あとが残ります。また、日常生活にはあまり影響はありませんが、固定した脊椎の可動域の低下などがあります。さらに、インプラントを挿入したり、矯正したりすることによる神経損傷や血管損傷のリスクは少ないものの、ゼロではありません。
側弯症に対する手術は保険適用されますが、単純に3割負担として計算すると、全てを含めた治療費用は100万円以上にのぼってしまいます。しかしながら、ほとんどの場合で高額療養費制度が適用され、さらに、お住まいの地域の制度や患者さんの年齢などにより、子どもの医療費助成制度の適用にもなりますので実際の負担額は大幅に軽減されます。手術を考えられている患者さんのご家族は、一度かかられている病院や主治医の先生にご相談ください。
特発性側弯症は思春期の患者さんが多いので、心身共にできる限り負担がかからないようなケアが重要です。当院では以下のような点に留意して治療を行っています。
装具療法で重要になるのは、装具が患者さんの体にいかに合っているかという点です。この出来栄えによって予防効果が異なってくるため、装具療法の場合は義肢装具士と医師、ご本人、親御さんの四者で相談し合いながら、患者さんにフィットする装具を作るようにしています。
患者さんの多くは女児ですので、将来的に首の後ろが見える和服や背中の開いたドレスなどを着る機会もあると思われます。その際、背中の傷がコンプレックスでおしゃれが楽しめないということにならないよう、やみくもに大きな傷を作らないよう、手術範囲をできる限り小さく収めることを心がけています。
「手術で背中にインプラントを入れる」、「背骨を矯正する」という説明をすると怖がるお子さんもいらっしゃいます。そのため術前の説明はおろそかにせず、手術が必要であることや手術への不安にもきちんと向き合って説明するようにしています。手術前に不安がっていても、実際に手術をして1週間も経過するとすっかり元気になっているお子さんを多く見かけます。
手術療法では出血を伴いますが、患者さんの多くはまだお子さんなので、他人の血液を輸血することはできる限り避けなければなりません。そのため自己血輸血といって、患者さん本人から事前に採血し、ためておいた血液を手術中、または手術後に使用しています。
成長期では側弯症が大きく進行することがあります。進行してコブ角が大きくなりすぎると、その分、手術で固定の必要な範囲が長くなってしまいます。固定範囲を適度にとどめ傷も小さく抑えるためには、きちんと進行状況を見定め、適切なタイミングで手術をすることが大切です。
そのためには発症から早い段階で医師の診察を受け、定期的に進行状況を確認する必要があります。側弯症に気付いたら、放置せず、整形外科医にご相談ください。
手術後はリハビリテーションが行われますが、思春期特発性側弯症の患者さんの場合、年齢が若いこともあり、回復に伴って自然に歩けるようになるので特別なプログラムは準備しておりません。手術直後に痛みがある場合には、適宜痛み止めの投薬を行っています。
個人差がありますが、術後は約1~2週間で退院が可能になります。当院の場合、退院後は患者さんの状態にもよりますが、大体2~3か月間は装具を装着していただきます。また、術後は3~6か月ぐらいの間をあけて定期的に通院いただき、術後から2年経てば、1年に1回受診いただき、経過観察を続けます。
藤田医科大学 整形外科学講座 教授
藤田医科大学 整形外科学講座 教授
日本整形外科学会 代議員日本脊椎脊髄病学会 評議員日本運動器科学会 評議員日本軟骨代謝学会 評議員最小侵襲脊椎治療(MIST)学会 理事日本側彎症学会 会員日本腰痛学会 会員日本脊髄障害医学会 会員日本骨代謝学会 会員日本結合組織学会 会員Orthopaedic Research Society(ORS) 会員International Society for the Study of the Lumbar Spine 会員Asia Pacific Spine Society 会員
2000年より整形外科医師としてキャリアをはじめる。2010年には米国Thomas Jefferson大学整形外科留学。帰国後、慶應義塾大学整形外科スタッフとして脊椎診療に従事し、2019年に藤田医科大学整形外科学講座教授就任。現在は、脊椎疾患を中心とした外来診療や手術治療などの臨床だけでなく、超高齢社会における運動器、特に脊椎疾患の臨床研究および基礎研究にも力を注ぐ。日本整形外科学会代議員。
藤田 順之 先生の所属医療機関
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