2022年4月から不妊治療の保険適用がスタートし、経済面でのハードルが高かった不妊治療が以前より身近なものになりつつあります。恵愛生殖医療医院では、院内システムのアップデートや患者さん向けの詳細な説明資料の作成など、保険適用化へのスムーズな移行に向け準備を進めてきたといいます。今回は、同院院長の林博先生に、昨今の取り組みや患者さんの変化、今後の課題などについてお話を伺いました。
不妊治療によって子どもを持てる確率は30歳前後をピークに緩やかに下降し、30歳代後半からは年齢が上がるにつれ下降幅が大きくなります。一方、流産率は年齢とともに上昇していきます。そのため、不妊症を疑ったらなるべく早く治療を開始するのが望ましいといえます。
保険適用化により、治療費の本人負担が原則として3割に軽減され、これまで経済的理由から不妊治療をためらっていた若いカップルも治療を前向きに検討しやすくなったメリットは大きいと考えます。
また、保険適用になるのは、関係学会のガイドラインなどで有効性や安全性が確認された治療に限られます。どの医療施設でも標準化された治療を一定の金額で受けられるようになり、より安心感をもって受診していただけるようになったと考えています。
女性の体内から排卵直前の卵子を取り出し、体外で精子と受精させる体外受精については、新たな治療法が次々と生まれています。一方で、原則として保険診療と自費診療の併用(混合診療)は禁じられており、例外的に保険診療と併用できるのは、保険適用外の先進的な医療として認められた“先進医療”のみです。そのため、効果を期待できる治療法が開発されても、先進医療以外は新たに導入しづらくなる可能性があります。
また、これまで多くの医療施設で実施されていた重要な検査・治療のいくつかは保険適用になりませんでした。日本では混合診療は不可とされているため、保険適用外の検査・治療を希望する場合、そのほかの検査・治療を全て自費診療とする以外に方法がありません。
まだ保険適用の対象に至っていない検査・治療が、先進医療として認められ、保険診療と併用できるようになるには時間を要します。一方、妊娠・出産にはタイムリミットがあり、時間経過により子どもを持つ機会が失われる可能性もあります。不妊症に悩むカップルに有用な検査・治療を不足なく届けられる環境が早期に整うことが望まれます。
当院では保険適用化に向け、電子カルテシステムのアップデートをはじめ、保険点数の設定やレセプトへの対応など、各種準備を滞りなく進めてきました。また2022年3月までに、患者さんから「保険適用になるとどうなるのか」といったご質問を多くいただいていたため、ご説明用資料を作成し、4月以降も不安なく治療を開始、または継続いただけるよう努めてきました。実際に運用が開始されてしばらくの間は、患者さんの増加に加え、慣れない事務作業に手間取るなどして長時間お待たせしてしまうこともありましたが、ようやく落ち着いてきたところです。
2022年4月以降、当院にも保険適用を待ち望んでいた患者さんが来院されています。不妊治療は年齢との戦いと言っても過言ではなく、経済的に諦めざるを得なかった若いカップルが早期に治療を開始できるようになったのは大きな前進だと考えています。
人工授精を一定回数行っても妊娠に至らない場合、さらに継続しても妊娠できる可能性は極めて低いとされています。そのため、なるべく早く妊娠の可能性が高い次の治療法に進んだほうがよいと考えます。当院で以前から不妊治療をされてきた方の中にも、保険適用化により経済的な不安が和らぎ、人工授精から体外受精へのステップアップを早い段階で積極的に検討される方が増えています。保険適用化が次の治療への足掛かりとなり、多くのカップルが体外受精を前向きに考えられるようになったのは大変喜ばしいことです。当院としても、適切なタイミングで体外受精をご提案しやすくなったと感じています。
保険診療にあたっては治療計画書へのご夫婦双方の同意・署名が必要です。当院では、初診時はできる限りお二人そろって来院いただいて治療計画についてご説明し、同意書にサインをいただいています。どうしてもお二人での来院が難しい場合には、来院されたお一人にご説明して必要書類をお持ち帰りいただき、パートナーにも治療計画を十分ご理解いただいたうえで署名いただき、後日提出いただくといった対応もしています。
不妊治療を安心して受けられない理由として、経済的要因と社会的要因(仕事との両立が難しいなど)があるといわれてきました。私自身、長年診療に携わるなかで、より若いうちに治療を始めたほうが妊娠できる可能性が高いと実感しています。保険制度を最大限利用して、タイミングを逸することなく治療を開始できるよう、医師とよくご相談いただければと思います。
また一部、保険適用化により実施しづらくなってしまった検査・治療もあり、今後、治療を受けられる方に合った検査・治療を選択しやすい、よりよい制度になるよう望みます。
不妊治療が保険適用となり経済的負担が軽減されたことで、今後、仕事と治療の両立にも好影響を与え、社会的要因も改善されるよう期待します。そして、今できる治療をなるべく早期に開始し、より多くのカップルに子どもを持ちたいという希望をかなえていただきたいと心から願っています。
恵愛生殖医療医院 院長
恵愛生殖医療医院 院長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)
1997年に東京慈恵会医科大学卒業後、同大学病院にて生殖医学に関する臨床および研究に携わる。
2011年4月恵愛病院生殖医療センター開設。
2016年1月恵愛生殖医療クリニック志木開院。院長就任。
2018年1月同クリニックを和光市に移転し、恵愛生殖医療医院へ改称。
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医、日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医、日本周産期・新生児医学会認定 周産期(母体・胎児)専門医を持つ不妊治療のスペシャリストとして活躍。自らも体外受精・顕微授精や不育治療を経験しており、患者さま目線の治療を提供することをモットーとしている。
林 博 先生の所属医療機関
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