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不妊治療の保険適用化について――自己負担はどのくらい抑えられる?

不妊治療の保険適用化について――自己負担はどのくらい抑えられる?
林 博 先生

恵愛生殖医療医院 院長

林 博 先生

目次
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2022年4月、不妊治療の保険適用がスタートしました。自費診療と比べると費用負担が軽くなり、これまで経済的理由により治療をためらっていたカップルには朗報といえるでしょう。保険適用化により不妊治療はどのように変わったのか、不妊治療を専門とする恵愛生殖医療医院院長の(はやし)ひろし)(先生にお話を伺いました。

晩婚化と出産年齢の上昇

近年、人々の働き方、生き方の多様化などを背景に晩婚化が進んでいます。2020年の人口動態統計によると、男性の平均初婚年齢は31.0歳、女性は29.4歳で、1995年と比べると男性で2.5歳、女性で3.1歳上がっています。また、同じ調査によれば、女性が1人目の子どもを出産する年齢は平均30.7歳で、1995年よりも3.2歳上昇しています。女性は年齢とともに妊孕性(にんようせい)妊娠するための力)が低下するとされており、初婚および出産年齢の上昇は少子化の一因になっていると考えられます。

不妊治療件数の増加

晩婚化や出産年齢の上昇などの背景もあり、不妊に悩む夫婦が増えています。国立社会保障・人口問題研究所が実施した2015年の調査(社会保障・人口問題基本調査)によると、不妊を心配したことがある夫婦は全体の35%で、2005年から約10%増加、検査や治療を受けた経験がある夫婦は18.2%で2005年から約5%増えています。

排卵直前の卵子を女性の体内から取り出し、体外で精子と受精させる体外受精をはじめとする生殖補助医療により生まれた新生児の数は、1999年の約1万2,000人から2019年には約6万人まで増加し、全出生数の7.0%を占めるまでになりました。

経済的要因が大きな障壁に

不妊治療は着実に普及してきたものの、希望すれば誰でも安心して治療を受けられる環境が整っているとは言い難い状況が続いてきました。その背景には、仕事との両立が困難であるという社会的要因のほか、経済的要因があります。保険適用外の高額な治療費などが大きな負担になっていたのです。

この状況を改善すべく、2004年から『不妊に悩む方への特定治療支援事業』(以下、助成制度)がスタートし、広く利用されてきました。この制度により不妊治療を受ける患者さんの負担は軽くなったものの、やはり経済的理由から治療を諦めるカップルは少なくありません。

こうした背景から、2020年の出生数は統計開始以来最少を記録しており、新型コロナウイルス感染症拡大の影響も加わって減少傾向に歯止めがかかりません。このような状況のなか、少子化対策の一環として打ち出された看板政策の1つ、『不妊治療の保険適用』が2022年4月にスタートし、前述の助成制度から移行したところです。

これまでの助成制度は、体外受精および顕微授精を受ける夫婦(事実婚を含む)を対象に1回30万円を給付するもので、女性の年齢が40歳未満なら1子につき通算6回まで、40歳以上43歳未満なら通算3回まで受給可能でした。もっとも多かった2015年には16万件以上の支給実績があります。

不妊治療はこれまで原則として自費診療であり、高額になりがちな受診者の費用負担を助成制度によりカバーしてきました。しかし、今回の保険適用化により、医療機関窓口で受診者が支払う額は原則として治療費の3割となり、残りの7割は健康保険によって負担されます。

不妊治療による妊娠率は年齢が上がるにつれ下降し、流産率は年齢とともに上昇します。このため、なるべく早期に治療を開始するのが望ましいといえます。保険適用化により、これまで経済的理由から不妊治療をためらっていた若いカップルが治療を早期に検討しやすくなったメリットは大きいでしょう。当院でも受診者は増加傾向にあります。

医療機関としては事務手続きが複雑になり、当院でも当初は患者さんを長くお待たせしてしまうことがありました。しかしスタッフも徐々に慣れ、スムーズに対応できるようになってきています。

PIXTA
提供:PIXTA

2022年4月から、有効性・安全性が確認された下記治療が保険適用されています。

  • 一般不妊治療

タイミング法、人工授精

  • 生殖補助医療(体外受精)

採卵・採精から体外受精・顕微授精、受精卵・胚培養、胚移植までの一連の流れとともに、胚凍結保存が対象になります。

また、これに加えて実施されるオプション治療の中にも保険適用されるものがあります。体外受精・顕微授精とともに行う卵子活性化、胚移植とともに行うアシステッドハッチング(胚を覆う透明帯からの胚の脱出を助けて着床率を上げる)などのオプション治療が保険適用となっています。

なお、原則として保険診療と自費診療の併用は認められませんが、自費診療の中には保険適用外の先進的な医療として認められた“先進医療”として保険診療と併用できるものがあります。不妊治療における先進医療は、今後、随時追加されると予想されます。

一方、初診時検査の一部などは保険適用外となる場合もあります。

対象となる年齢・回数の要件

体外受精には保険適用の対象となる年齢や回数の要件があり、前述の助成制度の要件とほぼ変わりありません。治療開始時の女性の年齢が40歳未満なら1子につき通算6回まで、40歳以上43歳未満なら通算3回までという制限が設けられています。

なお、保険適用前の助成制度を利用した体外受精の回数はここに含みません。また、2022年4月2日から9月30日までの間に40歳の誕生日を迎える方については、この期間中に治療を開始すれば6回まで保険適用による治療が可能、43歳の誕生日を迎える方については、1回に限り保険診療で治療を受けられるという経過措置があります。

回数の数え方

体外受精の回数は、採卵・採精から体外受精・顕微授精、受精卵・胚培養、胚移植までの一連の流れにおいて胚移植*までを行った回数で数えます。1度の採卵で移植可能な卵子を採取できず、胚移植に至らなければカウントされません。

*胚移植:体外受精後に培養した受精卵(胚)を子宮内に戻すこと。

不妊症妊娠そのものが困難な状態)のほか、妊娠・出産を望む夫婦の5%が不育症により子どもを持てずにいます。不育症は妊娠しても流産や死産を繰り返す病気で、3回以上連続する習慣流産も含みます。

不育症の検査・治療について、詳しくはこちらをご覧ください。

当院で実施している人工授精にかかる費用は、自費診療では2万2,000円(税込)ですが、保険診療なら自己負担額は5,460円です(年齢、回数制限なし)。体外受精については、採卵から胚盤胞と呼ばれる状態まで培養を行う場合、一例として自費診療では7万7,000円(税込)のところ、保険診療なら自己負担額は4万8,300円となります(採卵数が1個、胚盤胞に向けた管理を行った胚の数が1個の場合)。

なお、体外受精の費用は採卵個数や凍結個数、新鮮胚移植か凍結・融解胚移植かといった違いや、その他オプションの有無などにより異なります。

医療費の窓口負担の月額が上限額を超えると、その超えた金額が支給される高額療養費制度を利用できます。自己負担額の上限は年齢や所得により異なり、不妊治療を受ける世代の方なら年収約370~770万円の場合、ひと月の上限額は8万円程度です。この制度により負担がさらに軽減されますので、ご不明な点があれば遠慮なくご相談ください。

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    林 博 先生

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