インタビュー

クルーゾン症候群やアペール症候群など、症候群性頭蓋縫合早期癒合症の原因と症状

クルーゾン症候群やアペール症候群など、症候群性頭蓋縫合早期癒合症の原因と症状
小林 眞司 先生

神奈川県立こども医療センター 形成外科 部長

小林 眞司 先生

この記事の最終更新は2017年08月16日です。

頭蓋骨を構成する複数の骨のつなぎ目を縫合線といいます。この縫合線が、先天的な遺伝子の異常により胎児期あるいは生後早期に閉じてしまうと、頭部や顔面部の骨が大きくなっていかないため、眼球の突出や、頭痛、吐き気といった脳圧の上昇による症状が現れます。このような病気の大項目「症候群性頭蓋縫合早期癒合症」は、奇形症候群分野の難病に指定されており、厚生労働省における研究班により病態解明や治療の開発が進められています。研究班の代表を務める神奈川県立こども医療センター形成外科部長の小林眞司先生に、症候群性頭蓋縫合早期癒合症の代表的な4疾患(クルーゾン症候群アペール症候群ファイファー症候群、アントレー・ビクスラー症候群)の原因と症状について、ご解説いただきました。

頭蓋縫合早期癒合症は、非症候群性と症候群性に大別されます。非症候群性では頭部に病変が限局するのに対し、症候群性の頭蓋縫合早期癒合症では、頭部だけでなく顔面部にも病変が生じます。たとえば、上顎や気管などにも症状が生じます。本記事では、症候群性頭蓋縫合早期癒合症のうち、代表的な以下4疾患について解説します。

症候群性頭蓋縫合早期癒合症を理解するためには、まず頭部の骨がどのように大きくなっていくのかを知ることが大切です。

人間の頭蓋骨は複数の骨で構成されており、そのつなぎ目は縫合線(ほうごうせん)と呼ばれます。

頭蓋骨が成長・拡大する機序は主に2つあります。ひとつは骨が内側から吸収され、外側から添加されるという、いわゆるリモデリングという機序です。もうひとつが、縫合線です。頭蓋骨は縫合線部分の細胞が増えていくことで成長・拡大していきます。

そのため、縫合線が胎児期や生後間もない時期に癒合して閉じてしまうと、頭蓋骨は大きくなっていかず、脳圧は高まっていきます。頭蓋骨の成長に欠かせない縫合線が、健康な人よりも早期に癒合してしまう先天性疾患であるため、頭蓋縫合早期癒合症という名前がつけられているのです。

頭蓋縫合早期癒合症は先天性の疾患ですが進行速度はさまざまで、成長に伴い症状が生じることも多々あります。なお、縫合線の癒合の時期が早いほど、重症化する傾向があります。

冒頭で、症候群性頭蓋縫合早期癒合症では、顔面部にも病変が生じると述べました。ただし、この病気はあくまで骨のみに問題が起こる疾患であると本質を理解することが大切です。たとえば、顔の軟部組織や筋肉、眼球は、ほぼ正常に成長しています(一部例外はあります)。症候群性頭蓋縫合早期癒合症の患者さんは眼球が大きいわけではなく、眼球の器である骨が成長しないため、相対的に「大きくみえる」ということです。

縫合線が早期に癒合してしまい、脳の容器である頭蓋骨が成長していかないため、脳の正常な発達も阻害されます。

ただし、精神発達遅滞などは、すべての疾患で起こるわけではありません。

クルーゾン症候群ではまれに精神発達遅滞を伴うことがあり、アペール症候群はクルーゾン症候群に比べ、多くみられることで知られています。ファイアー症候群は病型により重症度や症状が異なるため、一概にいうことはできません。アントレー・ビクスラー症候群も精神発達遅滞をともなうことがあります。 

クルーゾン症候群アペール症候群ファイファー症候群は、常染色体優性遺伝の形式をとる遺伝疾患です。ただし、両親のどちらかが原因となる遺伝子変異を持っている場合、50%の確率で病気を発症します。

4つの疾患のうち、唯一アントレー・ビクスラー症候群のみは、常染色体劣性遺伝という遺伝形式をとります。

クルーゾン症候群は、FGFR2遺伝子という遺伝子の異常が原因で起こります。一部、FGFR3遺伝子の異常により起こることもあります。

ただし、なぜ縫合線が早期に癒合するのかといったメカニズムについては未解明です。

クルーゾン症候群の日本における年間発症数は、我々の経験から20~30人ではないかと推測しています。

クルーゾン症候群
クルーゾン症候群の症状 画像右は治療後 提供:小林眞司先生

 

クルーゾン症候群
クルーゾン症候群の症状2 画像右は治療後 提供:小林眞司先生

 

クルーゾン症候群
クルーゾン症候群の症状3 画像右は治療後 提供:小林眞司先生

 

クルーゾン症候群
クルーゾン症候群の症状4 画像右は治療後 提供:小林眞司先生

頭蓋骨が小さいために脳圧が上がり、頭痛や嘔吐、吐き気などが起こります。これらの頭蓋内圧亢進症状が生後間もなく生じる例は多くはなく、大半は成長に伴い現れ、診断に至ります。また、産生された髄液の出口が狭いことなどから、水頭症などを生じることもあります。

これらの症状は、頭蓋骨を拡大するための手術を生涯のうち複数回繰り返すことで、取り除くことができます。

手術法の詳細は、記事2『症候群性頭蓋縫合早期癒合症の低侵襲手術-2種類の固定器具を装着する骨延長法』をご覧ください。

FGFR2遺伝子の異常により起こります。脳の発達が阻害されることによる眼球の突出や、呼吸障害を主な症状としています。

また、手足の指の癒合という特徴的な症状もあり、肘を曲げることができないこともあります。

アペール症候群
アペール症候群の症状 画像右は治療後 提供:小林眞司先生
アペール症候群
アペール症候群の症状2 画像右は治療後 提供:小林眞司先生

アペール症候群の場合、軽症のクルーゾン症候群とは異なり出生後すぐに症状が現れることも多いため、大半は新生児期に診断に至ります。

神奈川県が行った大規模な先天異常モニタリング調査によると、アペール症候群の頻度は15万人に1人程度と報告されています。その結果、日本における年間の発症数は、8人前後ではないかと推測されます。

ファイファー症候群の症状 画像右は治療後 提供:小林眞司先生
ファイファー症候群の症状 画像右は治療後 提供:小林眞司先生

ファイファー症候群は、FGFR2遺伝子の異常が原因で起こります。軽症例ではFGFR1遺伝子の異常により起こることもあります。

眼球の突出や呼吸障害、手足の指の癒合などを主な症状としていますが、これらの重症度は病型により異なります。

クルーゾン症候群と比べてまれな疾患で、我々の経験から年間の発症数は6人前後ではないかと推測しています。

アントレー・ビクスラー症候群の原因は以下の3つあります。

  • PORという遺伝子の異常
  • FGFR2という遺伝子の異常
  • フルコナゾール(抗真菌薬)の過剰投与

患者数や年間発症数はわかっていない、まれな疾患です。

アントレー・ビクスラー症候群の症状には、頭蓋骨の早期癒合に起因する症状と、指が長く、肘関節が癒合により曲がらなくなるという症状を特徴としています。

また、ここまでに解説してきた3つの疾患とは異なり、ステロイドホルモンの不足も伴います。

アントレー・ビクスラー症候群の症状 画像右は治療後 提供:小林眞司先生

上記4疾患に対する手術は、いずれも顔面骨を正常な位置まで引き出す「骨延長法」という術式を用います。

次の記事『症候群性頭蓋縫合早期癒合症の低侵襲手術-2種類の固定器具を装着する骨延長法』では、骨延長法の具体的な方法についてご解説します。

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