概要
クルーゾン症候群とは、頭蓋骨や顔面骨の縫合が早期に癒合し、頭蓋や顔面の形成異常が引き起こされる病気です。
頭蓋骨はいくつかの骨から構成されており、それらのつなぎ目が縫合線と呼ばれます。脳が成長するにしたがって、縫合部分も広がることで頭蓋骨が拡大していきます。成人になるにつれて縫合部分は自然に癒合していきます。クルーゾン症候群は、この縫合部分の癒合が早期に起こってしまう病気のひとつです。また、アペール症候群やファイファー症候群などと共に症候群性頭蓋縫合早期癒合症に分類され、頭蓋骨だけでなく顔面骨の癒合も認められ、さまざまな症状を現します。
しかし、アペール症候群などとは違い、手足の先天異常は伴いません。日本においては、年間に20~30例程度の発症数であるといわれています。常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性の病気で、FGFR2もしくはFGFR3遺伝子が責任遺伝子として報告されています。
原因
クルーゾン症候群は線維芽細胞増殖因子受容体2(Fibroblast Growth Factor Receptor 2: FGFR2)遺伝子、もしくは線維芽細胞増殖因子受容体3(Fibroblast Growth Factor Receptor 3: FGFR3)遺伝子の異常により引き起こされます。
大部分の患者さんの場合、FGFR2遺伝子に変異が認められます。しかし、黒色表皮腫を伴ったクルーゾン症候群の場合には、全症例でFGFR3遺伝子のアラニンがグルタミン酸に置き換わる変異 (Ala391Glu) が認められます。
FGFRはFGF(線維芽細胞増殖因子)と結合し、骨の増殖や分化をコントロールする重要な役割を担っています。詳細なメカニズムは現在も研究がつづけられているところではありますが、FGFR遺伝子の変異により、FGFRから持続的なシグナルが入るようになる結果、頭蓋や顔面の早期癒合が引き起こされると考えられています。常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性の病気ではありますが、家族例だけではなく、突然変異により弧発性に発生する例もめずらしくありません。
症状
頭蓋骨が早期に癒合してしまうために、正常な形成がなされず、頭蓋が歪んだ形となります。早期癒合が起こった縫合線により頭蓋の形態は異なります。クルーゾン症候群の場合、症状には個人差があります。
早期癒合を起こした縫合線によって、短頭蓋、舟状頭蓋、三角頭蓋、クローバー葉頭蓋など、その形態はさまざまです。頭蓋の変形に伴い、頭蓋内圧亢進が認められることが多く、水頭症を合併する場合もあります。
また、クルーゾン症候群では頭部だけでなく顔面の形成異常も認められるため、眼間開離 (眼と眼の間が広くなる) や眼球突出、斜視、くちばし状の鼻といった特徴的な顔貌を示すことも知られています。
さらに、上顎骨の形成不全により、口腔領域にも影響が及び、噛み合わせが不良になるといった歯学的な問題も起こります。また、顔面の低形成による気管狭窄が伴う場合には呼吸障害がもたらされる場合もあります。
類似した症状を現すアペール症候群とは違い、手足の先天異常 (合指(趾)症) は認められません。頭蓋骨の早期癒合は、頭蓋の形成異常だけでなく、そのまま放置すると脳の発達にも影響をおよぼすことが知られています。しかし、クルーゾン症候群では精神発達遅滞が認められる例はまれです。また、一部の患者さんでは黒色表皮腫を伴うことが報告されています。
検査・診断
頭蓋や特徴的顔貌からクルーゾン症候群を含む症候群性早期癒合症が疑われる場合には、単純頭部X線写真や3D-CTを用いて、頭蓋や顔面の骨の変形、頭蓋内圧亢進の有無、早期癒合による縫合線の消失などを確認します。また、CTやMRIにより、水頭症といった合併症やそのほかの脳の形態異常がないかを確認します。
さらに、顔面の形成異常に伴い、視力や聴力、呼吸機能に影響が認められる場合も多いため、それぞれの症状に即した検査も実施されます。このほか、クルーゾン症候群はFGFR2遺伝子もしくはFGFR3遺伝子の変異が原因となっていることが分かっているため、遺伝子検査が行われる場合があります。
治療
それぞれの症状に応じた外科的治療が必要になります。1度の手術で完治することは難しいため、乳幼児期から成人期にわたって複数回の手術が段階的に行われます。
頭蓋の変形を放置すると脳の発達にも影響が及ぶ危険性があるため、頭蓋の変形を修正し、頭蓋容積を拡大する頭蓋形成術が実施されます。手術の行われる時期や状態によって、適用される手術法はさまざまです。
また、クルーゾン症候群では顔面骨にも形成異常があるため、眼球突出や咬合不全といった機能障害の改善を目的とした顔面形成術も必要となります。
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