概要
アペール症候群とは、頭蓋骨や顔面骨の縫合が早期に癒合し、頭蓋や顔面の形成異常が引き起こされる疾患です。頭蓋骨はいくつかの骨から構成されており、それらのつなぎ目が縫合線と呼ばれます。脳が成長するにしたがって縫合部分も広がることで、頭蓋骨が拡大していきます。成人になるにつれて、縫合部分は自然に癒合していきます。
アペール症候群は、この縫合部分の癒合が早期に起こってしまう病気の1つです。クルーゾン症候群やファイファー症候群などと共に症候群性頭蓋縫合早期癒合症に分類され、類似の症状を示しますが、左右対称性に手や足の癒合が認められる合指(趾)症をともなうことが特徴として挙げられます。
発症頻度は100万人に6~15.5人と推定されており、性差はありません。日本においては、年間にして8例程度の発症数と予想されています。FGFR2遺伝子の異常が原因であり、常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性の疾患です。
しかし、そのほとんどがFGFR2遺伝子の突然変異による弧発例で、家族例の報告はそれほど多くありません。頭蓋や顔面が変形してしまうだけでなく、そのままでは脳の発達に影響を与えてしまう危険性もあるため、複数回にわたる外科的治療が必要であると考えられています。
原因
アペール症候群は10番染色体にある線維芽細胞増殖因子受容体2 (Fibroblast Growth Factor Receptor 2: FGFR2) 遺伝子の異常により引き起こされます。FGFR2遺伝子の変異は、同じく頭蓋骨縫合早期癒合症に分類されるファイファー症候群やクルーゾン症候群などでも認められます。
アペール症候群の場合、FGFR2遺伝子上の2種類の変異がその発症に関連することが報告されています。約2/3の患者さんで252番目のセリンがトリプトファン (Ser252Trp) に、約1/3の患者さんで253番目のプロリンがアルギニン (Pro253Arg) に置き換わる変異が認められます。
FGFRはFGF (線維芽細胞増殖因子) と結合し、骨の増殖や分化をコントロールする重要な役割を担っています。FGFR遺伝子の変異により、FGFRから持続的なシグナルが入るようになり、その結果、頭蓋や手足の早期癒合が引き起こされると考えられています。
常染色体優性遺伝形式をとりますが、家族例はまれで、突然変異により発症する弧発例がほどんどです。また、父親の年齢が高いほど変異が起こるリスクが高くなることが知られています。
症状
頭蓋骨が早期に癒合してしまうために、正常な形成がなされず頭蓋がゆがんだ形となります。具体的には、頭の前後径が幅に対して短くなる短頭蓋、後頭部の平坦化などが認められます。
アペール症候群では頭部だけでなく顔面の形成異常も認められるため、眼間開離 (眼と眼の間が広くなる) や眼球突出、斜視、くちばし状の鼻といった特徴的な顔貌を示すことも知られています。さらに、上顎骨の形成不全により口腔領域にも影響が及び、噛みあわせが不良になるといった歯学的な問題も起こります。
また、アペール症候群では手や足の指が左右対称性に癒合してしまう合指(趾)症をともなうことも特徴として挙げられます。肩や肘関節の形成不全や心疾患をともなう場合もあります。頭蓋骨の早期癒合は、頭蓋の形成異常だけでなく、脳の発達にも影響を及ぼすことが知られています。
患者さんによって程度はさまざまですが、精神運動発達遅滞が認められることもめずらしくありません。この他、水頭症、頭蓋内圧の上昇、頚部や気管の異常、伝音性難聴、多汗やoily skinといった皮膚症状などがみられることもあります。
検査・診断
頭蓋や特徴的顔貌、左右対称性の合指(趾)症といった所見からアペール症候群が疑われる場合には、単純頭部X線写真や3D-CTを用いて、頭蓋や顔面の骨の変形、頭蓋内圧亢進の有無、早期癒合による縫合線の消失などを確認します。
また、CTやMRIにより、水頭症といった合併症やその他の脳奇形がないかを確認します。アペール症候群はFGFR遺伝子の変異が原因となっていることがわかっているため、遺伝子検査が行われる場合があります。ほとんどの患者さんで、Ser252TrpまたはPro253Argのどちらかの変異が認められます。
治療
それぞれの症状に応じた外科的治療が必要になります。1度の手術で完治することは難しいため、乳幼児期から成人期にわたって複数回の手術が行われます。頭蓋の変形を放置すると脳の発達にも影響が及ぶ危険性があるため、頭蓋の変形を修正し、頭蓋容積を拡大する頭蓋形成術が実施されます。頭蓋形成術は1歳になる前に実施されることが多いです。
また、アペール症候群では顔面骨にも形成異常があるため、顔面形成術により眼球突出や咬合不全といった機能障害の改善が可能です。それに加えて、顔貌の著しい改善も期待できます。この他、合指(趾)症に対しても、発達段階などを考慮しながら、1歳以降に分離術が実施されます。
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