シェーグレン症候群は膠原病の一種で、目や口腔内の乾燥が主な症状です。これら乾燥症状が生命予後に影響することはあまり考えられませんが、シェーグレン症候群では目や口腔以外の臓器に障害を伴うことがあり、その場合には生命予後にも影響が生じます。
今回は、シェーグレン症候群の概要と、シェーグレン症候群が及ぼす呼吸器などへの影響やその治療について、長崎大学大学院 リウマチ・膠原病内科学分野 教授 川上 純先生にお話を伺いました。
シェーグレン症候群は国の指定難病で、膠原病に分類されます。膠原病は、何らかの原因によって免疫系が自分自身の体の成分に反応し攻撃をしてしまう病気を指し、自己免疫疾患とも呼ばれます。発症には遺伝要因や環境要因など、複数の要因が複雑に関係していると考えられていますが、いまだ原因がはっきりと判明していないのが現状です。
その一方で、この病気は女性に多いということが分かっており、その男女比は男性:女性=1:17程度といわれています。患者さんの年齢層のピークは50歳代ですが、子どもから高齢者まで、どの年代でも発症する可能性があります。また、ほかの膠原病を合併するか否かによって、合併が見られない場合には一次性(原発性)シェーグレン症候群、合併が見られる場合には二次性シェーグレン症候群と分類されます。二次性シェーグレン症候群においてもっとも合併することが多いのは関節リウマチです。
また、乾燥症状はないものの、口腔検査や眼科検査、血液検査で陽性所見を呈する(一定の数値以上の反応などが見られる)症例は、潜在型シェーグレン症候群といわれます。
シェーグレン症候群の主な症状は、眼(角膜)や口腔を主とする乾燥症状です。シェーグレン症候群の患者さんのうち6~7割程度の患者さんに見られる症状で、これを腺症状といいます。3~4割程度の患者さんには乾燥症状以外の腺外症状が現れます。腺症状はQOL(生活の質)の低下を招くことがありますが、生命予後に影響を及ぼすことは少ないです。一方、影響が生じるのは全身の臓器に病変が現れる腺外症状がある場合です。腺外症状は関節痛や筋痛、皮膚症状などのほか、呼吸器や消化器に病変が見られることもあります。
肺病変として多いのが間質性肺疾患と末梢気道(直径2mm未満の気管支)病変です。臨床的に有意な間質性肺疾患の合併率は約10%程度ではないかと推測され、男性であることや60歳以上であること、喫煙歴があることなどが発症の危険因子といわれています。また、シェーグレン症候群にかかっている期間が長いほど肺に病変が生じるリスクは高まる可能性があり、シェーグレン症候群の診断から1年目までに10%程度、5年目までに20%程度まで増加するという報告もあります。
間質性肺疾患を合併した場合の全体的な生命予後は良好です。しかし、潜在型シェーグレン症候群のほうが間質性肺疾患を合併した場合には重症であるとの報告もあります。生命予後を推測するにあたっては、低酸素血症や高二酸化炭素血症の有無、HRCT(高分解能CT)の画像上でみられる病変の広がりなどが手がかりとなります。
また、急激に症状が進行する急性増悪が起こると予後不良となるため注意が必要です。ただし、シェーグレン症候群に伴う間質性肺疾患において急性増悪が起こったのは6%程度という報告もあり、現在のところ、急性増悪が起こる頻度はそれほど高くないといえます。しかし、風邪などの感染症から急性増悪を引き起こすこともあるため、早期に間質性肺疾患を発見し日ごろから感染症予防などを心がけることで、より急性増悪のリスクを下げることができるのではないかといわれています。
加えて、慢性的に間質性肺疾患の状態が続くと、炎症によって傷ついた肺が徐々に硬くなる線維化が起こることがあります。線維化が進行すると呼吸機能の低下をもたらすうえに、一度線維化した肺は元通りにはならないため、早期発見と治療の開始が重要です。
シェーグレン症候群は2020年10月時点では、根本的な治療法が見つかっていません。そのため、治療の目的は乾燥症状を改善させることに重きを置くことが多いです。治療に用いる薬として、眼の乾燥に対する点眼薬や涙点プラグ*、口腔の乾燥に対して唾液の分泌を増やすセビメリン塩酸塩やヒロカルピン塩酸塩などが挙げられます。
腺外症状が現れている場合には、ステロイドや免疫抑制剤の使用が検討されます。これは、ステロイドや免疫抑制剤によって自身の免疫機能を抑え、自分自身への攻撃を弱めて症状を抑えることが目的です。しかし、ステロイドや免疫抑制剤は長期間服用すると感染症にかかりやすくなるなどの副作用もあるため、その点は日々の生活の中で注意が必要です。ステロイドや免疫抑制剤を用いても線維化の進行が止まらない場合、そのほかの薬剤が検討されることもあります。
*涙点プラグ:涙点(涙の排出口)に涙点プラグという栓をすることで涙の排出を止め、眼の表面の水分量を保つことを目的とした治療。
シェーグレン症候群において乾燥症状のみの場合には、生命予後に影響することは少ないです。しかし、腺外症状を伴った場合やほかの膠原病を発症した場合には生命予後に影響を及ぼす可能性があります。これらの腺外症状やほかの膠原病はシェーグレン症候群を発症した初期から現れるとは限らず、定期的な通院の過程で発見されることもあるのです。
シェーグレン症候群には根本的な治療法がないため、定期的な通院のなかでは対症療法としての薬の処方のみが目的と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、定期的に診察を行い、新たに合併症が発生していないか、もしくは合併が判明している場合であれば長期的な経過を見てどのように治療を行っていくかを検討することは非常に大切です。そのため、現在シェーグレン症候群の診断を受けて通院されている方には、自己判断で通院を止めないでいただきたいと思います。ただ、さまざまな事情により医療機関にかかれない時期もあるかと思います。そのような場合には、ぜひ医師に通院できない旨を伝えてみてください。
シェーグレン症候群は診断をされていない患者さんも含めると、指定難病の中でも比較的患者数が多いのではないかといわれており、日常診療の中で十分遭遇し得る病気だといえます。ぜひ皆さんには、乾燥症状を訴える患者さんに出会った際にシェーグレン症候群を思い浮かべていただければと思います。また、その場合にはリウマチ膠原病内科への紹介も検討してみてください。
また、定期的に通院をされているシェーグレン症候群の患者さんに対しては、間質性肺疾患などを早期発見するためにも、一定数、腺外症状が現れる方もいるということを念頭に置いておいてください。患者さんに対して、どのような症状が現れたららすぐに受診してもらいたいかということをお伝えしておくのもよいのではないでしょうか。
日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同委員会『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020』メディカルレビュー社,2020
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班『シェーグレン症候群診療ガイドライン 2017年版』診断と治療社, 2017
公益財団法人 難病医学研究財団 『難病情報センター』(https://www.nanbyou.or.jp)
長崎大学大学院 医歯薬学 総合研究科長、長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 先進予防医学共同専攻 リウマチ・膠原病内科学分野(第一内科) 教授
長崎大学大学院 医歯薬学 総合研究科長、長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 先進予防医学共同専攻 リウマチ・膠原病内科学分野(第一内科) 教授
日本内科学会 評議員・認定内科医日本リウマチ学会 リウマチ専門医・リウマチ指導医・理事・人工知能医療推進委員会 委員長・RA超音波標準化小委員会 委員長・国際委員会 副委員長・JCR国際育成セミナー小委員会 委員長・学会誌編集委員会 委員・学会誌編集委員会 transmitting editor日本シェーグレン症候群学会 理事日本臨床リウマチ学会 理事日本脊椎関節炎学会 理事日本臨床免疫学会 評議員日本炎症・再生医学会 評議員日本免疫学会 会員日本内分泌学会 会員日本骨代謝学会 会員日本糖尿病学会 会員American College of Rheumatology (ACR) 国際会員
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