ハンチントン病という病気をご存知ですか? その名前を耳にしたことがあっても、いったい何の病気なのか知らないという方が多いのではないでしょうか。
ハンチントン病は、遺伝子の一部が変性することによって運動機能や認知機能に影響を及ぼす遺伝性の病気です。具体的にはどのような症状が現れ、どのような経過をたどるのでしょうか。国際医療福祉大学三田病院神経内科部長の後藤順先生にお話をお聞きしました。
ハンチントン病は、「常染色体優性遺伝形式」という遺伝形式を現す遺伝性の疾患です。その症状は「不随意運動」という自分の意志に反しない運動を行ったり、筋肉のひきつけを起こすなど、精神症状や性格変化が中心となります。急激に人が変わったようにみられるため、なかには最初、統合失調症などの異なる疾患と間違えられてしまう場合もあります。長期に渡って悪化し十数年後には全身が侵される可能性もあり、日本では厚生労働省の特定疾患に指定されている難病です。
また、男女差はほとんどありません。優性遺伝する疾患であるため、ハンチントン病患者さんの子どもは50%の確率で同じ病気を発症します。発症年齢は35~50歳の中年期であることが多いものの、まれではありますが、成人前に発症することもあります(20歳未満発症の若年型は5~6%、10歳未満は1~2%)。
不随意運動のなかの「舞踏運動」と呼ばれる症状が、舞踏会で踊っているかのような状態に見えるため、かつて「ハンチントン舞踏病」と呼ばれていたことがあります。たしかに、外見上目立つ症状は不随意運動です。しかし、この病名では不随意運動だけがハンチントン病の症状であるかのように誤解されハンチントン病の臨床像の全体を表していないので、1980年代からハンチントン病という名称で統一されるようになりました。
舞踏運動のような不随意運動(自分の意志に関わらず体が動いてしまう)や抑うつ・激昂などの精神症状、行動異常、認知機能障害などが主な症状です。気が付いたら発症していたというほど進行速度は非常にゆっくりとしており、十数年後には寝たきりになります。どこからハンチントン病なのか、という発症の境目はなかなか難しいとされます。
また、大人でハンチントン病を発症したときの症状と、子どもからハンチントン病を発症した時の症状は異なります。大人の典型的な症状は不随意運動ですが、子どもの主症状はパーキンソニズム(手足が筋強剛(固縮)してしまう)です。これは20歳以下の子どもは脳が未発達で、大脳基底下という部分の機能が成熟しておらず大人とは異なるためだと言われていますが、病理そのものは両者とも同じです。
これらの症状が起こる原因は、尾状核(大脳に存在する神経核)が変性してしまうためだと考えられています。また、ハンチントン病患者さんは第4染色体のなかにある「ハンチンチン(IT15)」と呼ばれる遺伝子に異常な変化が起こっていることもわかっています。
個々の患者さんによって症状が異なるうえ、進行性の病気であるため、ハンチントン病の経過を一概に述べることはできません。発症後どの程度病状が進行してから気づくかによっても違います。
薬によってその場の症状を和らげることはできますが(対症療法)、根本的な治療方法は見つかっていないのが現状です。早い段階で介護が必要になることも多く、10年以上にわたって進行を続けるとも言われており、長期に渡った闘病生活を強いられることにもなります。
なお、ハンチントン病は欧米人に多い(1万5千人に1人)ことで知られています。一方、日本におけるハンチントン病の有病率は15万人に1人と非常にまれな病気です。
国際医療福祉大学 医学部教授、国際医療福祉大学市川病院 脳神経内科
国際医療福祉大学 医学部教授、国際医療福祉大学市川病院 脳神経内科
日本神経学会 神経内科専門医・指導医日本内科学会 認定内科医日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会 臨床遺伝専門医・指導医
東京大学医学部を卒業後、同大学医学部付属病院神経内科・国立療養所東京病院神経内科・国家公務員共済組合連合会虎の門病院神経内科・マッギール大学留学を経て、国際医療福祉大学三田病院神経内科教授・部長。日本神経学会認定医の資格を所有し、日本神経学会の代議員も務めるなど、神経学分野において圧倒的なスペシャリティを持つ。執筆論文・執筆著書ともに数多く発表されており、神経疾患治療の発展に大きく貢献している。
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