概要
マールブルグ病とは、マールブルグウイルスによって引き起こされるウイルス性出血熱の1つです。この病気は1967年にドイツのマールブルグで初めて確認され、アフリカから輸入されたアフリカミドリザルの解剖に関わった人々に感染が広がったことから名付けられました。主にアフリカ大陸のウガンダ、ケニア、ジンバブエ、コンゴ民主共和国、アンゴラなどで発生が確認されており、日本での発生は今のところ報告されていません。
自然界から人への感染経路は、完全には解明されていません。アフリカに生息するコウモリが宿主である可能性が指摘されています。人から人への感染は、感染者の血液や体液、排泄物に直接触れることによって起こります。
症状は、2〜21日間の潜伏期間*の後、突然の発熱、頭痛、筋肉痛、背中の痛みで始まります。重症例では、口や鼻、肛門など全身のさまざまな部位から出血が起こります。
治療では、症状を緩和することを目的とした対症療法として、輸液や輸血療法などが行われます。重症化すると致命的となる可能性が高いため、早期の発見と治療が極めて重要です。
*潜伏期間:ウイルスなどの病原体に感染してから最初に症状が現れるまでの期間。
原因
マールブルグ病は、フィロウイルス科に属するマールブルグウイルスによって引き起こされる感染症です。このウイルスは、エボラウイルス病の原因となるエボラウイルスと同じ種類であり、感染すると特徴的な出血症状が現れます。
感染源や感染経路の詳細については、いまだ不明な点が多いものの、フルーツ・コウモリが宿主として指摘されています。ウイルスを保有したコウモリが生息する鉱山や洞窟での滞在が人への感染のきっかけとなると考えられており、その後、人から人へと感染が拡大します。
人から人への感染は、主に患者の血液や体液との直接接触によって起こります。また、患者の血液や体液が付着した寝具や衣類に触れることで、皮膚の傷口や粘膜を通じて感染する可能性もあります。具体的には、患者との性的接触や同居、介護・看護などの状況下での感染例が報告されています。
症状
マールブルグ病はエボラウイルス病に類似した症状がみられます。ウイルス感染から発症までの潜伏期間は2〜21日間で、その後突然の発熱や頭痛、筋肉痛、背中の痛み、喉の痛みなどの初期症状が現れます。発症から数日後には激しい嘔吐が繰り返し起こり、下痢などの消化器症状が伴うこともあります。
発症から5日目以降は、皮膚に紫色の斑点状の発疹(紫斑)が現れます。これは出血症状の1つです。症状が進行すると、全身状態が悪化し、鼻や歯ぐき、肛門、性器など全身からの出血がみられるようになります。さらに、精神の錯乱や多臓器不全*などの重篤な合併症を引き起こします。全身のさまざまな部位からの出血により、重度の失血(血液が大量に失われた状態)やショック状態**を引き起こし、命に関わることもあります。
*多臓器不全:心臓、肺、肝臓、腎臓など体にとって重要な臓器が2つ以上同時に正常にはたらかなくなる状態。
**ショック状態:急激な血圧低下や臓器への血流不足により、生命が危険にさらされる状態。
検査・診断
マールブルグ病の診断は、渡航歴の確認から始まります。流行地域への渡航歴があり、患者の症状から感染の可能性が疑われる場合は、血液や咽頭ぬぐい液、尿などの検体を採取し、PCR検査などを行ってマールブルグウイルスの検出を行います。これらの検査は、感染症対策の設備が整った感染症指定医療機関などの特定施設において、厳格な安全管理体制のもとで実施されます。
治療
現在のところ、マールブルグ病に対する特効薬や確立された治療法は存在していません(2024年10月時点)。そのため、治療の中心は患者の症状を和らげる対症療法です。具体的には、重度の脱水を防ぐための点滴や、出血症状に対する輸血療法が実施されます。また、状況に応じて、痛みや発熱に対する解熱鎮痛薬の投与などの薬物療法も並行して行われます。
予防
マールブルグ病に対するワクチンは開発されていません。そのため、予防の基本は感染リスクの高い行動を避けることです。特に流行地域への渡航時には、ウイルスの自然宿主とされるコウモリが生息する鉱山や洞窟への立ち入りを控え、野生動物との接触を避けることが重要です。
医師の方へ
「マールブルグ病」を登録すると、新着の情報をお知らせします