概要
ウイルス性出血熱とは、特定のウイルスに感染することで、発熱や皮膚・内臓の出血症状などを引き起こす病気の総称です。代表的なものに、エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱、南米出血熱があります。これらの病気は、主にアフリカや南米で流行しており、日本国内での発症は極めてまれです。しかし、感染力が強く、重症化しやすいため、日本では1類感染症に指定されています。
感染経路としては、感染者や野生動物の血液や体液(唾液、尿など)を通じてウイルスが皮膚の傷や粘膜から体内に侵入します。
症状は発熱から始まり、頭痛や関節痛などが現れます。重症化すると、皮膚や内臓に出血症状が現れますが、初期には出血が見られないことも多くあります。
治療としては、抗ウイルス薬を使った薬物療法のほか、輸血や呼吸管理が行われます。
原因
ウイルス性出血熱の代表的な疾患は5つあり、それぞれ異なるウイルスが原因となっています。
エボラ出血熱
エボラウイルスが引き起こす感染症です。主に感染者の血液や体液との接触で感染します。アフリカ中央部(コンゴ民主共和国、ウガンダなど)や西部(ギニア、リベリア、シエラレオネなど)の流行地域では、サルやコウモリなどの野生動物がウイルスを保有していることがあり、これらとの接触も感染の原因となり得ます。
マールブルグ病
マールブルグウイルスによる感染症で、感染者の血液や体液との接触で感染します。一部の研究では、感染したコウモリとの接触による感染の可能性が指摘されていますが、動物からヒトへの感染経路は明確ではありません。主にサハラ以南アフリカ地域で流行が報告されています。
ラッサ熱
ラッサウイルスを保有するマストミス(ネズミの一種)の排泄物に汚染された物との接触や、マストミスに噛まれることで感染します。感染者の体液や飛沫との接触も感染源となります。主に西アフリカ地域で流行がみられます。
クリミア・コンゴ出血熱
クリミア・コンゴ出血熱ウイルスを保有するダニに噛まれたり、感染した動物の血液に接触したりすることで感染します。感染者の体液との接触も感染の原因となります。中東や中央アジアで定期的に報告されており、近年ではパキスタン、インド、スペインでも感染例が確認されています。
南米出血熱
アレナウイルス属のウイルスによって引き起こされる疾患群です。感染したネズミの体液や排泄物、または感染者の体液との接触で感染します。
南米出血熱に含まれる病気と原因ウイルスは以下の通りです。
- アルゼンチン出血熱……フニンウイルス
- ベネズエラ出血熱……ガナリトウイルス
- ブラジル出血熱……サビアウイルス
- ボリビア出血熱……マチュポウイルス
- チャパレ出血熱……チャパレウイルス
症状
ウイルス性出血熱は、発熱、頭痛、出血症状など多様な症状を引き起こします。各疾患の特徴的な症状は以下の通りです。
エボラ出血熱
初期症状として発熱、頭痛、喉の痛み、脱力感が現れ、その後に発疹や消化器症状(嘔吐、下痢)が続きます。重症化すると、意識障害や全身の出血症状(口から血を吐く吐血、肛門から血が出る下血など)が発生することがあります。発症後2〜3日で急激に悪化し、重篤化のリスクが高い病気です。
マールブルグ病
初期症状は発熱、頭痛、喉の痛み、筋肉痛、発疹などです。進行すると激しい嘔吐や水様性下痢、特徴的な赤く盛り上がった発疹が現れることがあります。重症例では神経症状、出血症状、ショック状態*に至ることもあります。
ラッサ熱
発熱、頭痛、喉の痛みなどの初期症状から始まります。症状が悪化すると、顔のむくみ、消化管や口、鼻からの出血症状が生じます。耳の聞こえが悪くなる難聴や手足の震えなどの症状が現れることもあります。
クリミア・コンゴ熱
発熱、頭痛に加え、関節痛、腰痛、筋肉痛などさまざまな症状が現れます。重症化すると、皮膚上で細かい点にみえる点状出血、胃や腸などから出血する消化管出血などの出血症状が生じることがあります。
南米出血熱
初期症状として発熱、悪寒、筋肉痛が現れ、その後衰弱、嘔吐、めまいなどが続きます。重症例では高熱、出血症状、ショック状態*に陥ることがあります。特徴的な症状として歯ぐきからの出血があり、進行すると粘膜や皮下の出血に発展します。神経症状として舌や手の震え、昏睡、けいれんがみられることもあります。
*ショック状態:血圧が著しく低下し、全身の臓器や組織に十分な血液が届かなくなる状態のこと。
検査・診断
38℃以上の発熱があり、アフリカや南米などの流行地域への渡航歴がある場合は、ウイルス性出血熱が疑われます。この際、血液検査が実施され、採取した血液を使ってPCR法などの検査を行い、原因となる病原体を特定します。
治療
ウイルス性出血熱の治療は、原因となるウイルスや症状の重症度によって異なります。
ラッサ熱、クリミア・コンゴ熱、南米出血熱に対しては、発症早期にリバビリンという抗ウイルス薬を投与することが有効とされています。この薬はウイルスの増殖を抑制する効果があります。
エボラ出血熱やマールブルグ病など、ほかのウイルス性出血熱に対しては、現在のところ特異的な治療法は確立されていません。そのため、主に対症療法が行われます。具体的には以下のような治療が実施されます。
- 脱水改善のための輸液療法
- 出血症状に対する輸血や血液製剤の投与
- 呼吸困難に対する人工呼吸器の使用
また、感染拡大を防ぐため、患者の隔離や医療従事者の感染防護服の着用など、厳重な感染対策も同時に実施されます。
予防
ウイルス性出血熱の予防には、流行地域への渡航を避け、現地の野生動物や感染者に直接触れないようにすることが重要です。
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