概要
ラッサ熱とは、ラッサウイルスによって引き起こされるウイルス性出血熱の1つで、主に西アフリカで流行がみられます。ナイジェリアやガーナ、ベナン、ギニア、リベリア、シエラレオネ、マリなどで発生が確認されており、日本国内では1987年にシエラレオネから帰国した人に感染が確認されましたが、その後回復しています。
ラッサウイルスは、西アフリカ一帯に生息するマストミスという野ネズミの体内に存在し、このネズミが自然宿主*となっています。このマストミスとの接触や、その糞尿などの排泄物に汚染された食べ物・食器などに直接触れることで感染します。また、感染者の血液や体液、排泄物に触れることで人から人への感染も起こります。
感染すると、発熱や関節痛、頭痛、嘔吐などの症状がみられ、重症化すると口から血を吐いたり(吐血)、肛門から血が出たり(下血)するなどの深刻な出血症状を引き起こします。
治療には抗ウイルス薬の投与や症状を和らげる対症療法が行われます。ワクチンは存在しないため、流行地域での感染予防が重要です。
*自然宿主:自然界でウイルスを保有し続ける動物。
原因
ラッサウイルスへの感染が原因で発症します。主な感染経路として、ウイルスを保有するマストミスに触れたり、その糞尿で汚染された食べ物や食器に接触したり、ウイルスを含む粉塵を吸い込んだりすることが挙げられます。また、感染者の血液や体液との接触でも感染が広がることがあります。医療施設内では、汚染された医療器具を介した感染のリスクもあります。さらに、性交渉による感染も報告されています。
感染リスクが特に高いのは、ラッサウイルスを持つマストミスが生息する地域の住民です。また、衛生管理が不十分で人口密度の高い環境では、感染リスクが上昇します。適切な感染予防をせずに感染者の看護や治療を行う人も感染リスクが高くなります。
症状
ラッサウイルスに感染後、約1〜3週間の潜伏期間*を経てゆっくりと症状が現れます。発熱や全身の倦怠感、脱力感に始まり、頭痛や筋肉痛、喉の痛み、吐き気、嘔吐、下痢、胸痛、腹痛などが生じます。重症の場合には、肺の周りに水がたまったり(胸水貯留)、顔がむくんだりします。また、鼻・口からの出血や、消化管出血(吐血や下血)が起こることもあります。これらの症状によって体内の血液量が減少し、血圧が急激に下がることがあります。血圧が下がりすぎると、体に十分な血液が行き渡らなくなり、ショック状態に陥る可能性があります。このような状態になると、早急な医療処置が必要です。
そのほか、病気の回復後に耳の聞こえが悪くなる難聴が現れることもあります。特に妊婦は重症化しやすいため注意が必要です。
*潜伏期間:ウイルスなどの病原体に感染してから最初に症状が現れるまでの期間。
検査・診断
ラッサ熱の診断では、まず渡航歴の確認を行います。流行地への渡航歴があり、感染源との接触が疑われる場合、患者から咽頭ぬぐい液や尿、血液などの検体を採取し、原因ウイルスを特定するための検査を実施します。これらの検体からラッサウイルスが検出されれば、ラッサ熱と診断されます。感染拡大防止のため、検査は特定の医療施設でのみ行われます。
治療
ラッサ熱の治療では、抗ウイルス薬(リバビリン)の投与を行います。通常、静脈内に注射され、発症から6日以内に治療を開始することで高い効果が期待できます。抗ウイルス薬による治療に加え、患者の症状に応じた対症療法を行います。具体的には、脱水症状に対する輸液療法、出血に対する輸血、呼吸困難時の人工呼吸器装着など、患者の状態を改善し、苦痛を軽減するための対応が行われます。
予防
ラッサ熱には有効なワクチンが存在しないため、西アフリカの流行地域を訪れる際には、ウイルスの自然宿主であるマストミスとの接触を避けることが重要です。ネズミの侵入を防ぐ対策を行い、ネズミの糞尿で汚染された可能性のあるものに触れないようにしましょう。
医師の方へ
「ラッサ熱」を登録すると、新着の情報をお知らせします