概要
リッサウイルス感染症は、ラブドウイルス科リッサウイルス属に分類されるウイルスによって引き起こされる感染症です。リッサウイルスは狂犬病ウイルス、ドゥベンヘイグウイルス、モコラウイルスなどを含む7つの遺伝子型があることが報告されていますが、狂犬病ウイルスを除くリッサウイルスによって生じた感染症をリッサウイルス感染症といいます。
リッサウイルスに感染したコウモリに咬まれたり傷口を舐められたりすることなどによって感染します。日本における感染報告はないものの、アフリカ、東西ヨーロッパ、オーストラリアなどでは感染例が報告されています。
ウイルスの潜伏期間は20~90日といわれています。発症するとウイルスに感染した部位の痛みやかゆみとともに、頭痛や発熱、倦怠感などの症状が生じます。症状は急速に進行し、多くの場合、発症してから1か月前後で死に至ります。
現状では有効な治療法がないため、海外渡航時などは野生のコウモリとの接触を避けることが重要です。
原因
感染経路はリッサウイルスを有するコウモリに咬まれたり、傷口を舐められたりすることなどによる直接感染です。
狂犬病ウイルスを除くリッサウイルスは、アフリカ、東西ヨーロッパ、オーストラリアなどに生息するコウモリで確認されています。したがって、これらの地域に渡航する際には野生動物と接触しないように気を付ける必要があります。
日本ではリッサウイルスを保有するコウモリは発見されておらず、これまで国内においてリッサウイルス感染症に罹患した例は報告されていません。
症状
リッサウイルス感染症を発症すると、コウモリに咬まれた感染部位に痛みやかゆみなどの症状が現れます。それに加えて発熱、頭痛、倦怠感などの症状もみられます。
リッサウイルス感染症の原因ウイルスはさまざまな神経症状を引き起こすため、進行すると興奮状態や精神撹乱、呼吸困難などをきたします。病気の進行は速く、だんだんと神経症状が悪化して最終的には発症後1か月前後で呼吸停止から死に至ることがほとんどです。
人におけるリッサウイルス感染症のこれまでの報告例を見ると、ほとんどの場合コウモリに咬まれた後20〜90日間の潜伏期間を経て発症しています。症状が出現してからの臨床経過は狂犬病の症状と類似しているため、両者の区別は困難であるとされています。
検査・診断
リッサウイルス感染症が疑われるときは、リッサウイルスの抗原検出や遺伝子検出(RT-PCR法)などを行います。病原体の抗原検出には、ウイルス分離による方法と蛍光抗体法のいずれかを実施します。
用いられる検体は、角膜や皮膚、唾液、髄液などさまざまです。
治療
リッサウイルス感染症は生命予後が不良な感染症です。確実な治療方法はまだ確立されていません。そのため、基本的には症状に応じた対症療法を行います。
予防
予防の基本は、リッサウイルスを体内に取り込まないことです。多くはコウモリに咬まれることで発症するため、コウモリをはじめとする野生動物との接触を避けることが重要といえます。海外渡航、特にリッサウイルス感染症が確認されている地域を訪れる際は、コウモリを含む野生動物に近づかないようにしましょう。
もしコウモリに咬まれたり引っかかれたりしたら、すぐに患部を石鹸と流水で洗い、速やかに医療機関を受診する必要があります。
また、リッサウイルスの一部に対しては狂犬病ワクチンが効果を示す可能性があるとされています。しかし、全てのリッサウイルス感染症の遺伝子型に対して有効ではない点に注意が必要です。
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