概要
三尖弁閉鎖症とは、生まれつき心臓の三尖弁(右心房と右心室の間にある弁)が閉じている病気です。
心臓には、右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があり、それぞれの部屋の間にはドアのように開閉する“弁”があります。血液が流れるときは弁が開き、流れ終わったら閉じることで血液の逆流を防ぐ役割があります。三尖弁は右心房と右心室の間にあり、体を巡った血液が心臓に戻ると右心房に入って三尖弁を通り、右心室に入ります。その後、血液は右心室から肺動脈へ流れ、肺へと送られていきます。
三尖弁閉鎖症では生まれつき三尖弁が閉鎖しているため、右心房に入った血液が右心室へ流れず、心房の穴(心房中隔欠損や卵円孔)を通って左心房に流れ込み、左心房の血液と混合して、左心室に流れ込むという血液循環の異常が引き起こされます。
三尖弁閉鎖症を持って生まれると、生後間もない時期からチアノーゼ*や心不全などを引き起こし、適切な治療を行わないと命に関わるケースもあります。治療には手術が必要ですが、手術の方法は合併する心臓の構造異常や重症度などによって異なります。
*チアノーゼ:血液中の酸素が足りなくなることで皮膚が青や紫に変色する症状。

画像:PIXTA
原因
三尖弁閉鎖症は、胎児期に心臓の形態形成がうまくいかなかったことによって発症しますが、その原因ははっきり分かっていません。
一方で、三尖弁閉鎖症は遺伝性があるケースや染色体異常があるケースも報告されており、発症者のおよそ10~15%は心臓以外の生まれつきの病気を伴っているとされています。そのため、何らかの遺伝子変異が発症に関わっている場合もあるとの指摘もありますが、明確には解明されていないのが現状です。
症状
三尖弁閉鎖症では、三尖弁が閉じていることから血液循環の異常が起こります。
また、心臓の部屋同士を隔てている壁に穴が開いていたり、肺動脈が細くなっていたりするほかの構造異常を伴うケースが多いとされています。そのため、症状の現れ方は構造異常のタイプや程度によって異なります。
具体的には2つのタイプに分けることができ、1つは肺へ流れる血液の量が少なくなることから皮膚が青や紫に変色するチアノーゼが現れるタイプ(肺血流減少型)です。もう1つは肺へ流れる血液の量が多くなり、心臓や肺への負担が大きくなることで呼吸器症状や肝臓の腫大、また体重増加不良やむくみといった心不全の症状が目立つタイプ(肺血流増加型)です。どちらのタイプであるかなどによっても治療法が異なります。
検査・診断
三尖弁閉鎖症が疑われるときは、以下のような検査が行われます。
超音波検査
三尖弁の状態や心臓の血流を評価するため、心臓の超音波検査が行われます。また、この病気はほかの心臓の構造異常を伴うことも多く、それらの有無を確認するためにも超音波検査が有用です。
心臓カテーテル検査
医療用の細い管を血管から心臓に通して、心臓のいろいろな部位の圧力や酸素濃度を測定し、また造影剤を流すことで心臓の血流や心臓の形などを詳しく評価する検査です。心臓カテーテル検査は診断のためだけではなく、手術の方法などを決定するうえでも大切な検査といえます。
画像検査
三尖弁閉鎖症では、肺へ流れる血液の量に異常が生じ、チアノーゼや心不全を引き起こすことがあります。そのため、X線などの画像検査で心臓の大きさや肺の血流量などを評価する検査を行うのが一般的です。
治療
三尖弁閉鎖症の基本的な治療方法は、心臓の血液の流れを改善する手術です。手術の方法は三尖弁の閉鎖以外にどのような構造の異常があるかによっても異なりますが、チアノーゼや心不全を防ぐための手術となります。
具体的には、血液量が不足している場合はプロスタグランジンという薬を点滴で投与し、動脈管*を開存しておくことで血液を確保します。その後、生後間もない段階で肺への血流を維持するためのシャント手術**が行われます。
一方、肺への血流が多すぎる場合は、肺動脈絞扼術(肺動脈の周りをテープなどで締めて狭窄させる手術)が行われます。また、心不全の症状に対して利尿薬や血管拡張薬が用いられることもあります。
その後、乳児期を過ぎて手術の条件がそろった頃に、上大静脈と下大静脈***を肺動脈につなぐ“フォンタン手術”などが行われ、心臓に戻ってきた酸素の少ない血液が、左心房や左心室で交じり合わない循環を作り出します。フォンタン手術の前には、いくつかの段階的な手術が必要となることが多くあります。
*動脈管:胎児期に存在する大動脈と肺動脈の橋渡しをする血管のこと。通常、出生後には自然に閉鎖する。
**シャント手術:体動脈と肺動脈の間に人工の管を作成する手術。
***上大静脈と下大静脈:上大静脈は上半身の血液が戻る静脈のこと、下大静脈は下半身の血液が戻る静脈を指す。
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