概要
痙攣性発声障害は、声を出すときに無意識に声帯を動かす筋肉が痙攣してしまい、声の詰まりや途切れ・震えをきたす原因不明の疾患です。
痙攣性発声障害には、声帯の痙攣する方向により外転型、内転型、混合型の3つの病型があります。このうち約95%を占めるのが内転型で、国内では約4,500~9,000人の患者さんがいると推定され、特に20~40歳代の女性に多いとされています。
内転型痙攣性発声障害では、声を出すときに自分の意思とは無関係に声帯が内側に痙攣するように動いてしまい、声が途切れたり詰まったりします。そのため患者さんは日常生活において人と円滑に会話ができず、仕事や社会活動が制限され、QOL(生活の質)が低下します。他人との関りを避けたり家に引きこもったりするようになり、精神的に不安定になることもあります。
原因
詳しい原因はいまだ解明されていませんが、筋肉の緊張を調整する脳の部分(大脳基底核)の機能異常によって、発声に関わる内喉頭筋が緊張した結果として起こることが考えられています。
私たちの呼吸の通り道にある左右の声帯は、吸気時に開き(外転)、発声時に真ん中に移動(内転)します。この発声時には、左右の声帯が隙間少なく寄り添うこと、声帯の縁が滑らかで弾性があること、声帯の間を通り声帯を振動させる呼気の流れがあること、がよい声を出すために必要です。しかし内転型痙攣性発声障害では、内喉頭筋のうち声帯を内転させる甲状披裂筋や外側輪状披裂筋が緊張、痙攣することで、発声時に声帯の間が断続的にきつく閉じてしまいます。それにより声帯を振動させる息が通らなくなってしまい、声が詰まって出なくなるといった音声症状が現れます。
症状
内転型痙攣性発声障害を発症すると、声が途切れる、詰まる、震える、苦しく絞り出すような声になるなどの音声症状がみられます。このような症状は、通常「あ、い、う、え、お」の母音を発声するときに起こりますが、特に「ありがとうございます」「行ってきます」といった母音で始まる言葉で起きやすいといわれています。
また、高音での発声時や特定の声(笑い声・泣き声・裏声・歌声・ささやき声)を出したときに症状が軽減・消失する、発声時に特定の行動(喉に手をあてる、首を傾ける、ガムを噛むなど)によって一時的に症状が軽減する、電話で会話するときや大人数の前で話すなど緊張やストレスを感じる場面で症状が悪化するなどの特徴があります。
そのほか、意思とは関係なく口や下あご、首が動いたり、まぶたが痙攣したりすることがあります(メージュ症候群)。
検査・診断
内転型痙攣性発声障害の診断は、主に問診、音声所見(聴診、音声機能検査)、喉頭所見(内視鏡検査)の3つをもとに行います。音声所見として特徴的な声の詰まりや途切れを確認し、喉頭所見として発声時に断続的に声帯が強く内転しているか、ほかに声帯麻痺や腫瘍や瘢痕などの器質的な異常がないか、声帯以外に異常運動がないかなどを調べます。
このような検査から特徴的な症状や声帯の内転が確認でき、さらに以下の全ての条件を満たし、ほかの病気を全て除外できた場合に内転型痙攣性発声障害と診断します。
- 発声器官に炎症や腫瘍などの病変や運動麻痺がない
- 発声以外の喉頭機能(呼吸や嚥下など)に異常がない
- 発症前に明らかな身体的・心因的な原因がない
- 神経や筋肉の病気がない
- 症状が6か月以上続いている
痙攣性発声障害と似たような症状がみられる病気として、本態性音声振戦症、機能性発声障害(過緊張性)、心因性発声障害、吃音などがあります。痙攣性発声障害では音声治療の効果がほとんどないとされる一方で、とくに症状が類似する機能性発声障害(過緊張性)では音声治療で改善がみられる場合が多いため、鑑別を目的に音声治療を行うこともあります。
治療
内転型痙攣性発声障害に対する治療として、音声治療、ボツリヌス毒素の局所投与による薬物治療、外科的治療が行われています。
音声治療
音声治療は根本的な治療ではなく有効性が少ないという報告が多いですが、声を出すときの過緊張をとることにより症状を軽減できる場合があると考えられています。とくに軽症例では、満足度が高く、継続を希望する患者もみられます。具体的には発声と呼吸のパターンを整えてスムーズな発声を誘導するための腹式呼吸、過緊張を軽減するための、あくび・ため息法や、高音での発声、会話をゆっくりする、語音を伸ばすなどが行われます。
ボツリヌス毒素治療
内転型痙攣性発声障害の治療として、現在もっとも広く行われているのがボツリヌス毒素治療です。これまで保険適用外でしたが、2018年5月末に保険適用となりました。
この治療はボツリヌス菌が作り出す毒素を有効成分とする薬を責任筋である内喉頭筋に注射し、内喉頭筋を一時的に麻痺させ、症状の軽減や消失を図るものです。効果は注入してから1~2日後に現れますが、平均して12~14週持続します。そのため、症状の再出現にあわせて繰り返しの投与が必要です。
投与後に気息性嗄声(息がもれるような声)や誤嚥(唾液や食べ物などが誤って気管に入ってしまう状態)が起こる場合がありますが、通常1か月ほどでなくなります。
外科的治療
内転型痙攣性発声障害に対する外科的治療には、甲状披裂筋切除術と甲状軟骨形成術2型があります。
甲状披裂筋切除術は、全身麻酔で口から喉頭直達鏡を挿入し甲状披裂筋を切除します。首の皮膚を切開する必要がないため、傷跡を残さないことや特殊な器具を用いずに治療できる特長があります。その一方で手術中に声を確認できないことと、手術後の再調整が難しい短所があります。
甲状軟骨形成術2型は、局所麻酔でのど仏の近くのしわに沿って小さな皮膚切開をおき、声帯の外側の軟骨である甲状軟骨を縦に切開し、左右の声帯が前方で開くように軟骨の切開部を丁寧に左右に引きながら患者さんの声を確認します。患者さんが楽に声を出せる位置を確認しチタン製の専用器具で固定します。手術中に効果を確認することができ、声帯を損傷することなく、半永久的な効果の持続が期待できる特長があります。
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