スポーツ障害の1つである前十字靭帯損傷では、術後のリハビリテーションが早期復帰のために非常に重要です。戸塚共立第2病院では、実際にスポーツ現場で活動している理学療法士を中心に、患部以外の機能の低下を防ぐために、ストレングスコーチ*やアスレティックトレーナー**、公認スポーツ栄養士の食事管理のもと、「怪我する前よりハイパフォーマンスへ」を目標にスポーツ選手の復帰および日常生活でのスポーツの復帰に向けたトータル的なサポートを実施しています。
戸塚共立第2病院 整形外科統括診療部長であり、スポーツ整形外科を専門とする鈴木 英一先生に前十字靱帯損傷に対する術後のリハビリテーションについてお話を伺いました。
*ストレングスコーチ:認定ストレングス&コンディショニングスペシャリストというパーソナルトレーナーの資格。
**アスレティックトレーナー:スポーツ外傷・障害の予防や応急処置、アスレティックリハビリテーションやトレーニングなど、スポーツ選手の健康管理を全面的に行うトレーナーの資格。
当院では、前十字靱帯再建術後のリハビリテーションを大きく以下の4つの期間に分けて実施しています(前十字靱帯を単独で再建した場合*)。
*同時に半月板縫合を行った場合は期間が異なります。
リハビリテーションは、主に理学療法士(PT)のサポートのもとで行います。そのほか、当院では手術直後のリハビリテーションから患部外の筋力や心肺機能の低下を最大限に防ぐために、ストレングスコーチやアスレティックトレーナーも介入してトレーニングを実施しています。
また、栄養管理を公認スポーツ栄養士が行うなど、全面的なサポートを実践しています。
それでは、それぞれの時期に当院で行うリハビリテーションの内容や注意点について解説します。
術後2週目までは、膝に荷重をかけることができません。しかし、動かさないでいると筋力が低下してしまうため、理学療法士による可動域訓練(膝の曲げ伸ばし)や物理療法(EMSやマイクロカレント)を使って腫脹を軽減させたり、筋収縮を促したりするリハビリテーションを行います。
また、スポーツへのスムーズな復帰のためには、膝以外の筋力強化も同時に行う必要があります。そのため、当院ではリハビリテーションとは別に、患部外の筋力トレーニングも実施しています。
術後2週目を過ぎると、徐々に荷重をかける歩行訓練を開始します。4週目に向けて、膝に全荷重がかけられるようなリハビリテーションを行っていきます。
荷重は、患者さんの体重に対して3分の1から始まり徐々に荷重量をアップさせていきます。
歩行練習をするなかで、理学療法士が正しい歩き方ができているか、また荷重量のコントロールが適切であるかを確認しながらリハビリテーションを行います。
術後6週目からは、少しずつ運動を開始していきます。具体的には、KBW(膝曲げ歩き)や40cmの高さからの片脚立ち上がり動作を行い、可能ならば、3か月くらいからジョギングを開始していき、徐々にスピードを上げていきます。
その後、その場でジャンプをして、膝が内側を向いてつま先が外側を向く「Knee in-toe out」の肢位になっていないかなどを確認します。
術後5か月を迎えたら、全ての患者さんに対して上の写真の等速性筋力測定装置を使って、膝を伸ばす・曲げる筋力を測定します。このとき、健側(手術をしていない足)に対して、患側(手術をした足)の筋力が8割程度を目標に筋力測定を実施します。
ダッシュやターンなど、種目別の特殊な動きについては、術後5か月くらいから段階的な手順を踏んで実施していきます。競技への復帰のプロセスは、他人との接触がない部分合流から始まり、徐々に全体合流へ移行していきます。
8か月程度から実践的な動作を行いながら、再度筋力測定を実施します。筋力の回復が十分であれば、再建靱帯の成熟度を考慮し、術後10か月以降の復帰を目指します。
復帰後3か月は再断裂の危険性が高いため、随時フォームチェックや筋力測定を行う必要があります。
ただし、全身の筋力や体力の状況によっては、患者さんとよく相談のうえ、術後8か月以降で競技へ完全復帰となる場合もあります。
リハビリテーションの期間は、焦りや不安の気持ちでいっぱいになってしまうこともあるかもしれません。しかし、けがをしっかりと受け入れて、前向きにリハビリテーションに取り組んでいただきたいと思います。
リハビリテーションを、再発を防ぐための準備としてはもちろん、本来よりもパフォーマンスを向上させられるチャンスと捉えて、けがをうまくプラスに変えていただきたいと思います。
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戸塚共立第2病院 整形外科 統括診療部長、Jリーグ 湘南ベルマーレ チーフチームドクター
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