前の記事「嗅神経芽細胞腫とは-鼻腔内の神経から発生する腫瘍のひとつ」で、嗅神経芽細胞腫の症状についてご紹介しました。嗅神経芽細胞腫は患者数が少ないため治療法が確立されているとはいえません。また、現在の標準治療とされている手術も患者さんにかかる負担が大きいいため、今後新しい治療法が確立されることが期待されています。本記事では、嗅神経芽細胞腫の治療法や患者さんの負担軽減が期待される内視鏡下鼻内副鼻腔手術(ESS)について、国際福祉医療大学三田病院頭頸部腫瘍センター長の三浦弘規(みうら こうき)先生にお話をうかがいました。
嗅神経芽細胞腫の標準治療は、手術による完全切除と術後放射線治療とされています。また切除不能例、遠隔転移例に対する治療の中心は化学療法になります。現時点では定まった治療薬はありませんが、これまでの研究より、シスプラチンを中心とする薬物療法(シスプラチン+エトポシド や シスプラチン+イリノテカンなど)の肺がんに準じた化学療法が有効な患者さんがいます。ただし前項でも述べたように、患者数が非常に少ないため治療法が確立されていません。施設により、1回にかける放射線量を上げて行う定位放射線治療、あるいは粒子線などの新しい放射線治療、さまざまな化学療法を駆使した集学的治療が行われています。前項で記載したKadishのAあるいはBであれば、内視鏡下鼻内副鼻腔手術(ESS)行う施設が近年増えてきました。
嗅神経芽細胞腫の標準的な手術は、経頭蓋顔面腫瘍切除術(Craniofacial resection)と呼ばれる、頭を開けて顔面にも皮切を入れる大規模な手術です。脳梗塞、出血、髄膜炎、顔の変形や嗅覚障害など、手術後に大きな合併症をおこす危険と大きな後遺症を伴います。そのため手術がよい適応となるにもかかわらず、手術をためらう患者さんも少なくありません。
そこで近年、鼻内内視鏡による手術が行われるケースが増えています。頭を開けることなく顔面に皮切(皮膚を切ること)もはいりません。患者さんにかかる負担は今までの手術と比べ非常に小さくすみます。現在はKadish分類のA、Bの患者さんを中心に行われています。今後は鼻内内視鏡手術も標準治療のひとつの選択肢となり、患者さんへの負担が小さいさらに新しい手術方法へ進歩していくことが期待されています。
現在までの統計では、Kadish分類のCもふくめた嗅神経芽細胞腫の治療後5年生存率は60%ほどです。嗅神経芽細胞腫では長期的な経過観察が必要です。再発は最初の数年が最も多いのですが、治療から10年、20年以上経ってから再発する患者さんもいるからです。また、嗅神経芽細胞腫に対しての内視鏡下鼻内副鼻腔手術はまだ日が浅いため、今後10年、20年と厳重に経過をみていく必要があります。
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