概要
四肢麻痺とは、四肢に麻痺があらわれ、体幹(からだの胴体のところ)のコントロールも難しい状態のことをいいます。
麻痺には、四肢麻痺のほかにもさまざまなものがあります。たとえば、四肢のうちどれかひとつに麻痺があらわれる「単麻痺」や、体の左側または右側の上肢下肢に麻痺があらわれる「片麻痺」、両方の下肢には麻痺があらわれているものの上肢は完全に正常な「対麻痺」などがあります。こうした麻痺のなかでも「四肢麻痺」は4本の手足(腕や大腿・下腿を含めた)に麻痺があらわれることから、体の動きが大きく制限される状態といえます。
四肢麻痺の原因としていくつかのものが挙げられますが、ここでは脊髄(頚髄)損傷*によっておこる四肢麻痺について説明します。
脊髄損傷:脊髄とよばれる「脳からの指令とからだからの情報が行き交う神経の幹」が損傷を受けること
頚髄損傷:頚髄とよばれる「脊髄のなかでも首のあたりに位置する部分」に損傷を受けること
原因
四肢麻痺の原因のひとつである脊髄(頚髄)損傷は、このような場合におきます。
- 交通事故
- 高い場所からの落下
- 転倒
など
多くの場合は、交通事故や、高い場所からの落下によって首のあたりを負傷することでおこります。一方で、高齢の方では転んだり、しりもちをついたりといった軽い衝撃で頚髄損傷をおこしてしまうこともあります。これは「非骨傷性頚髄損傷」とよばれ、高齢化が進む日本では増加傾向にあります。
こうした原因によって脊髄(頚髄)を傷つけてしまうと、四肢に麻痺があらわれる可能性があります。
脊髄は脳からつながって伸びる神経幹で、脳からおりてきた運動にかかわる指示は脊髄を通じて全身へ伝わっていきます。そのため脊髄のなかでも上のほうが傷つくか、下のほうが傷つくのかによって、麻痺のあらわれかたはことなります。
上のほう(首のあたり)に位置する脊髄である「頚髄」を受傷したときには、脊髄の上位のところに損傷を受けることになります。そのため下肢(あし)だけでなく上肢(手)にも麻痺があらわれ、四肢麻痺となる可能性が考えられるようになります。
症状
四肢麻痺ではこのような症状があらわれると考えられます。
- 四肢の麻痺
- 呼吸不全
- 無気肺(肺のなかの空気がなくなり、ちぢまった状態)
- 誤嚥(食べものが食道ではなく、気管支に誤って入ってしまうこと)
- 再発性の肺炎
- 気管支けいれん、気管支の炎症
- 睡眠時無呼吸症候群の発症
など
四肢麻痺では四肢の麻痺だけでなく、体の胴体のコントロールも難しくなります。そのため、呼吸をするための筋肉が十分に動かず、呼吸不全や無気肺をおこすことがあります。また食べ物を飲みこむ力が低下することで、誤嚥をおこしたり、その結果として肺炎を繰り返しおこしたりする可能性があります。また気管支にけいれんや炎症がおきたり、睡眠時に無呼吸になってしまったりすることがあります。
検査・診断
脊髄損傷の評価尺度として、このような指標が挙げられます。
- フランケル分類
- 改良フランケル分類
- ASIA機能評価尺度
- ASIAスコアニングシステム
- ASIA運動スコア
- 頸椎損傷高位評価表
- 総合せき損センターにおける麻痺予後の推移
「フランケル分類」は、脊髄損傷の麻痺を評価するときにつかわれるものです。このフランケル分類を改良して、その後の経過によって一部さらに細分化しているのが「改良フランケル分類」です。
「ASIA機能評価尺度」はASIA(アメリカ脊髄障害協会)によって定められた脊椎障害の評価指標です。また「ASIAスコアニングシステム」は脊髄損傷の神経学的分類を評価するときに、「ASIA運動スコア」は運動機能をスコア化して評価するときに使われるもので、同じくASIAによって定められた指標です。
「頸椎損傷高位評価表」は傷ついた脊髄の位置と筋力の程度から分類をおこなう指標で、総合せき損センターが発表しています。また「総合せき損センターにおける麻痺予後の推移」は総合せき損センターに搬送された患者さんの入退院時のデータから分析して得られた、脊髄損傷麻痺の予後を評価するものです。
こうした指標を使いながら、麻痺の程度、患者さんが持っている筋力などをあきらかにしていきます。
治療
四肢麻痺では患者さんの状態にあわせてこのような治療やリハビリテーションがおこなわれます。
など
脊髄に損傷を負い、重度と判断される患者さんには、まず気道の確保と人工呼吸器の使用が必要です。はじめは重度でなくとも、数日間は患者さんの呼吸のモニタリングに注意して、必要があれば人工呼吸器をつかうことを検討していきます。
四肢麻痺の患者さんでは、誤嚥をおこなさいよう、体や頭の向きを正したり、胃腸の働きをおさえてしまい吐き気の原因を引き起こす薬剤を使わないようにするといった処置が求められます。
また四肢麻痺の患者さんにとって、肺炎は一般的な合併症ですので注意が必要です。肺炎の予防と治療をおこなっていくことが必要になります。
そのほか、睡眠時無呼吸症候群も四肢麻痺の患者さんにおきやすい症状です。昼間にもかかわらず過度な眠気を訴える方などには、睡眠検査などをおこない、診断がついたときには陽圧呼吸治療(シーパップ[CPAP]治療など)をおこなう必要もあります。
また、患者さんの家庭復帰・社会復帰・復学には、リハビリテーションが大切になります。医師やリハビリテーションの専門家と相談しながら回復の計画を立てていきます。リハビリテーションにはご家族の方など周囲の人々の協力や支えがとても大切になります。
退院後は、生活する場所に、車いすが必要な場合にはそれに適した空間を確保できるような環境が必要になります。また入浴やシャワーなどの施設の整備なども求められることがあります。また人工呼吸器の配備なども必要に応じて整えることが大切です。
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