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変形性股関節症とはどんな病気? 治療方法について

変形性股関節症とはどんな病気? 治療方法について
大嶋 浩文 先生

NTT東日本関東病院 整形外科 医長/人工関節センター長

大嶋 浩文 先生

目次
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股関節(こかんせつ)の軟骨がすり減って痛みが生じる“変形性股関節症”。股関節への負担を減らすことで痛みの軽減が期待でき、まずは運動療法を中心とした治療が行われます。日常生活に影響をきたしている場合は手術も選択肢に入るため、痛みがあるときは我慢せず医師に相談することが大切です。今回は変形性股関節症とはどのような病気であるのか述べるとともに、検査や治療方法について、NTT東日本関東病院 整形外科医長・人工関節センター長の大嶋 浩文(おおしま ひろふみ)先生に伺いました。

MN作成

股関節は、受け皿になる骨盤側の寛骨臼(かんこつきゅう)と、太もも側の大腿骨頭(だいたいこっとう)がかみ合ってできている球関節です。この大腿骨頭が寛骨臼にしっかりと被さることで体重が支えられています。

しかし、大腿骨頭の被り方(被覆(ひふく))が生まれつき浅い骨格の方は、健常な方と比べて体重のかかる面が少ないため、年齢を重ねるとともに股関節に負担が集中し、軟骨のすり減る割合が通常よりも多くなります。

軟骨自体は痛みを感じる組織ではありませんが、軟骨がすり減ると骨が表面に出てきてしまい、体重がかかったり動かしたりしたときに痛みを感じるようになります。この状態を変形性股関節症と呼びます。

変形性股関節症の1番の原因は、骨格の形状に異常があることです。主に大腿骨頭の寛骨臼への被り方が浅い骨格の方が発症します。健常な方の股関節は、たとえるならお椀の中にボールがすっぽりと入っているイメージですが、大腿骨頭の被り方が浅い方の股関節はお皿にボールが乗っているような不安定な状態です。つまり股関節の可動性(開く、曲がる、伸びる性質)が高いということになります。

こうした骨格は、ある一定の遺伝的要素により生じることが証明されています。身内に股関節の治療をしたことがある方や人工股関節を入れている方がいる場合には、変形性股関節症を発症する可能性があると考えられます。

20歳~30歳代の若い方が発症することもあれば、年齢とともに筋力や体力が低下して変形性股関節症に進行する方もいます。男女差でいうと、筋力の少ない女性に多い病気です。

また、スポーツ歴が原因で発症するかどうかは明らかになっていませんが、股関節の可動域の高さが有利になる新体操などのスポーツや、ダンス、バレエなどをしている方の中に、手術が必要になるくらい大腿骨頭の被り方が浅い方がみられることがあります。

変形性股関節症で痛みが出ることが多いのは、股関節のあたりや鼠径部です。ただ、人間の感じ方は大まかなもので、お尻、太ももの外側、膝、場合によっては(すね)が痛いという患者さんもいます。神経は脳から脊髄(せきずい)を通って枝分かれしていくため、股関節が痛いとその神経の支流にあたる太ももの外側、脛などに痛みを感じる方もいるのだと考えられます。中には、膝や腰の痛みが手術をしてもよくならず、よく調べてみたら変形性股関節症だったというケースもあります。

変形性股関節症の初期の症状としては、動き出したときや歩き始めるときなどに痛みを感じ、少し歩いていると調子がよくなってくることが特徴的です。

また、進行するほど痛みが強くなるわけではなく、X線検査、CT検査、MRI検査などの画像所見と自覚症状は必ずしも一致しません。画像では非常に悪く見えても痛みがない方もいれば、異常が軽度に見えても強い痛みを感じる方もいます。一般的には、変形性股関節症が過渡期にあるときは痛みが強くなるといわれています。

変形性股関節症が進行してくると、痛みだけではなく股関節が正常に使えなくなってくること(機能性)も問題となります。骨の形状が変わって関節の動き(可動性)が悪くなり、足の筋力も低下してくるのです。そのため、治療ではまず股関節の可動域と筋力を維持することが重要になります。

提供:PIXTA
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変形性股関節症を診断するためには画像検査が重要です。ただし、原因が股関節にあるのか、腰や膝など別のところにあるのかを区別するために、股関節を専門とする整形外科の医師が丁寧に診察することが大切だと考えています。ある程度高齢になると、股関節だけでなく腰や膝も調子が悪くなっていることは珍しくありません。患者さんの症状がどこからきているものなのかをしっかりと判断します。

股関節に痛みを感じたら医師に相談しましょう。また、足の左右差にも注目してください。たとえば右と左で足の開き方(可動性)が違っている、深く曲げたときに片方は引っかかるといった違和感があるかどうかを確認しましょう。

片足で立てるかどうかも、意外と大事なポイントです。先に述べたように変形性股関節症は悪化すると筋力が落ちてきます。たとえば右足で立つときだけふらつくといったことに気付いたら、どこかに異変があると考えてよいと思います。

変形性股関節症の治療の中でも特に大事なのが保存療法です。最初から手術を考えるのではなく、まずは運動療法によって可動域と筋力を維持するよう心がけましょう。

股関節は体重を支えている関節であるため、まずは体重を落として股関節にかかる負担を軽減します。痛みが楽になるとともに、進行を予防することができます。また歩行やジョギングの動作時には、股関節に対する負担が体重の3~5倍多くかかることが分かっているため、体重を落とした分以上の効果が期待できます。

体重管理と同様の考え方から、筋力の維持も大切です。股関節を下から支える筋力が付くと関節の負担を減らすことにつながります。

そのほか、杖などの補助具を使って筋力をカバーすることでも、股関節の負担を和らげられます。

どんな運動が効果的?

股関節に痛みがあるなかで運動をするのが難しい場合、おすすめはプールでの水中歩行(ウォーキング)などです。水の中では浮力によって股関節への負担が減り、痛みの出にくい状態で有酸素運動を行うことができます。さらに、水の抵抗によって効率よく足の筋力に効いてきます。

提供:PIXTA
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直接的な効果のある保存療法としては、薬物療法が挙げられます。ただし、現在使用できるのは外用薬、内服薬、坐薬などの痛み止めのみです(2021年10月現在)。基本的には痛み止めによる対症療法で効き目が出にくくなったら手術を検討します。

近年では、変形性股関節症の治療薬の研究開発が進められています。現在は保険適用外ですが、細胞を関節に注入して行う“PRP療法”や“幹細胞治療”という再生医療を行っている施設もあります。臨床の現場に登場するのはまだ先になりそうですが、変形性股関節症の内服薬(飲み薬)の研究も進められています。

変形性股関節症は、骨折などのように緊急の治療を要する病気ではありません。治療のタイミングに関しては、基本的に患者さんの希望に合わせて判断します。

具体的には、保存療法を行ったうえで痛みや症状に関してどれくらい日常生活で困っているかが、治療のタイミングを判断するポイントになります。私が診察するときは、患者さんに「手術が必要なくらい困っていますか」と率直にお聞きし判断するようにしています。

変形性股関節症が悪化すると可動域と筋力が低下してくるため、手術をしても可動域や筋力が元に戻らないことがあります。そうなる前に手術を受けられるよう、患者さんが「日常生活を送れているから大丈夫」「一人暮らしで手術は大変だ」といった理由でためらわれていても、医師側から手術をおすすめすることがあります。痛みがあるときは我慢せず、ぜひ専門の医師に相談してください。

インターネットやSNSでさまざまな情報が得られる時代になり、事前に変形性股関節症について調べてから受診される患者さんは増えています。しかし医師としては、情報が全て正しく患者さんに伝わっているわけではないと感じています。情報が多すぎて、かえって混乱したり疑問が増えたりしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

患者さんには、そういった情報を見て一喜一憂するのではなく、自分に合った治療方法や一人ひとり異なる経過があることを知っていただきたいと思っています。気になることがあれば、一度専門の医師による診察や検査を受けてみることをおすすめします。

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