大腿骨頚部骨折と診断された場合、第一選択の治療法は手術治療です。手術は骨接合術と人工骨頭置換術のいずれかから、患者さんごとに適した方法が選択されます。それでは、どのようなときにどちらの治療が用いられるのでしょう。また、それぞれの治療のメリットとデメリットは何でしょう。本記事では、医療法人横浜柏堤会よこすか浦賀病院の整形外科平出敦夫先生に大腿骨頚部骨折の診断と治療法についてお話を伺います。
※大腿骨頚部骨折の原因や症状、予防法については記事1『大腿骨頚部骨折とは?原因や症状、予防法について』をご覧ください。
大腿骨頚部骨折はほとんどの場合、問診や触診、視診により診断が可能です。診察を行う際には、転倒などの思い当たる要因がないかをお聞きし、痛みの程度や箇所を適切に判断します。
これらの診察で大腿骨頚部骨折であると強く疑われたら、確定診断のためにレントゲン検査を行います。レントゲン検査で多くの大腿骨頚部骨折は確定診断が可能ですが、診断が困難な場合にはMRI検査(磁気を使い、体の断面を写す検査)を用いることもあります。
大腿骨頚部骨折は、骨折の程度や転位(ずれ)の状態によってステージI〜Ⅳの4段階に分類されます。これを「Garden (ガーデン)分類」といいます。
<Garden分類>
・ステージⅠ…不完全骨折(骨にひびが入っている状態)でもっとも軽度
・ステージⅡ…完全骨折ではあるが、転位がない
・ステージⅢ…完全骨折で、転位がある
・ステージⅣ…完全骨折で、大きな転位がある
また、ステージⅠ・Ⅱは非転位型、ステージⅢ・Ⅳは転位型とよばれます。このGarden分類をもとに、レントゲン検査で骨折の程度を確認したうえで治療法を選択します。
大腿骨頚部骨折の治療は基本的に手術治療が第一選択です。特に高齢の患者さんの場合、受傷を契機に長期間ベッド上の生活になることで、寝たきりとなってしまう方も多くいます。そのため、高齢の患者さんにはできる限り早期に手術を行い、リハビリテーションを実施することが理想です。
大腿骨頚部骨折の手術治療は主に2種類の方法があります。
<大腿骨頚部骨折の手術治療>
・骨接合術…折れた骨を金属などの器具で固定する手術
・人工骨頭置換術…骨折部分を切除し、人工骨に置き換える手術
いずれかの方法から、治療を受ける患者さんの年齢や骨折部のずれの程度によって適切な方法を選択します。次項では、それぞれの治療法について解説します。
骨接合術とは、骨折している部分を金属などの部品で固定してつなぎ合わせる手術法です。固定する部品には、2〜3本のスクリュー(ネジ)やピンなどを用い、骨折の状態によって適切な固定法を選択します。
骨接合術のメリットは人工骨頭置換術と比べて患者さんの身体的負担が少ないことです。また、手術時間が短く輸血の必要性も少なくてすみます。
一方、骨接合術には偽関節(骨折部の骨が癒合しない状態)や骨頭壊死、遅発性骨頭陥没などの合併症リスクがデメリットです。
骨頭壊死は、大腿骨頭に栄養を供給している回旋動脈が骨折時に損傷を受け、大腿骨頭への血流が滞ることで発症します。さらに骨頭壊死が悪化すると遅発性骨頭陥没(骨頭がつぶれること)が起こることもあります。
人工骨頭置換術とは、骨折部の頚部から骨頭までを切除して、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工骨頭に置き換える手術方法です。
手術ではまず骨を切除したあとに、ステムとよばれる人工物を大腿骨髄腔内に挿入します。その後でステムに骨頭を装着して、関節の整復を行います。
人工骨頭置換術のメリットは、先ほどお話しした偽関節や骨頭壊死などの合併症がないことです。特に大腿骨頚部は、骨の癒合が得られにくい箇所でもあります。そのため、人工物に置換することでこれらの合併症を防ぐことができる点は大きなメリットといえます。
一方、人工骨頭置換術のデメリットとして術後の股関節脱臼が起こる可能性があることが挙げられます。脱臼が起きた場合には、早急に医療機関を受診して整形外科医による整復(はずれた関節をもとの状態に戻すこと)を受けていただく必要があります。
また、術後長期的にみた場合、人工骨頭のゆるみが生じるなど耐久性の問題についても考慮する必要があります。場合によっては新しい人工骨頭を再置換する手術を行うこともあります。
骨接合術か人工骨頭置換術か、術式の選択を行う際には患者さんの状態やご要望などを考慮したうえで、主に骨折部の転位(ずれ)の程度から判断します。
骨折部の転位が小さな場合には骨接合術、骨折部の転位が大きな場合には人工骨頭置換術が一般的です。
この理由は、骨接合術は転位が大きなものになると術後の骨癒合が得られにくく、先ほどお話しした偽関節や骨頭壊死を発症する可能性が高くなるためです。そのため、転位の大きな大腿骨頚部骨折に対しては、基本的に人工骨頭置換術を選択します。
医療法人 横浜未来ヘルスケアシステム よこすか浦賀病院 整形外科部長
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