概要
股関節脱臼とは、骨盤から太ももの骨(大腿骨)がずれたり外れたりしている状態です。出産時や発育過程、また外傷をきっかけに起こることがあります。
股関節は歩行や立ったり座ったりする際に重要な役割を担う関節であるため、脱臼するとうまく足を動かすことができません。また、脱臼したままの状態で時間が経過すると股関節に重大な変形を残す寛骨臼形成不全を起こす可能性があるため、原因や重症度に応じた適切な処置を受けることが大切です。
原因
赤ちゃんにみられる股関節脱臼は、出産時や生後しばらくしてからの発育過程で生じ、発育性股関節形成不全とよばれます。股関節脱臼を生じるリスクとして、以下が指摘されています。
また赤ちゃんは、股関節と両ひざをM字型に開脚した姿勢でよく足を動かしているのが自然な状態です。そのため、横抱きのスリングやおくるみを使用するなどして長時間両足が伸ばされた姿勢や足が内側に倒れた姿勢が続くと、股関節脱臼を引き起こす可能性があります。
成長してから生じる股関節脱臼は、主に外傷が原因で起こります。外傷による股関節脱臼は強い力が股関節に加わることで起こり、交通事故や接触を伴うスポーツ、転倒などがきっかけとなります。
症状
股関節脱臼の症状は、発育性股関節形成不全の場合と外傷の場合で異なります。
発育性股関節形成不全の場合
乳児期に以下のような症状がみられる場合は発育性股関節形成不全が疑われます。
- 左右の足の長さが違う
- 膝を曲げた状態で足を開くと音がする
- 股関節の開きが悪い、片方の足の動きが悪い
- 左右の太もものシワの数が異なるなど
多くの場合は、歩行開始前に発見されます。しかし、診断が遅れるなどして歩行開始後に股関節脱臼と診断されるケースもあります。その場合、歩行開始が遅れたり歩き方が不安定になったりするほか、脱臼の整復(元の関節の中に収めること)が困難になります。そのため、できるだけ早い段階で発見できるよう注意して観察することが重要です。
また、発育性股関節形成不全は、骨盤側の大腿骨を覆う部分の作りが浅くなる寛骨臼形成不全の原因となります。成人以降に骨盤と大腿骨の間にある軟骨がすり減って痛みなどが生じる変形性股関節症の発症につながることがあります。
外傷の場合
股関節を動かすことができなくなったり、歩くことができなくなったりするほどの強い痛みが生じます。受傷時に神経も傷つくと下肢にしびれが生じることもあります。
検査・診断
股関節脱臼では、足の開きを観察したり股関節の動きを触って確認したりする視診・触診や、X線検査や超音波検査などの画像検査によって、骨盤と大腿骨の位置関係を確認して診断します。
発育性股関節形成不全は、1か月健診や3~4か月健診で発見されるケースもあります。1か月健診、3~4か月健診は義務ではありませんが、早期発見・早期治療につながるため有用といえます。また、気になる点があれば整形外科の受診も検討しましょう。
治療
発育性股関節形成不全の場合
診断時の月齢などによって変わってきますが、もっとも多い生後3~6か月頃の場合には、まずリーメンビューゲルという装具を使って、自然整復(元の位置に戻ること)を試みます。リーメンビューゲルによる治療で改善しない場合には、全身麻酔下に医師が手で股関節を整復する徒手整復や、足を持続的に引っ張る下肢牽引療法で整復を試みます。それでも整復が困難な場合や、1歳以降に診断された場合は手術で整復を行います(観血的整復術)。
外傷による場合
骨盤と大腿骨の位置関係を元に戻すために整復を行います。股関節脱臼後に大腿骨頭(大腿骨の丸い部分)の血流が障害されると、大腿骨頭の骨の細胞が死滅する骨頭壊死が起こることがあります。整復が遅れると骨頭壊死のリスクが高まるため、早期治療が非常に重要です。骨盤壊死を起こした場合は、骨切り術という手術や人工股関節による治療が検討されます。
予防
赤ちゃんの股関節脱臼は、生活習慣が原因で生じることがあります。足を開いた状態で正面で抱っこする“コアラ抱っこ”をしたり、仰向けの際は足をM字に開いて寝かせたりするなどして、股関節脱臼につながらないように気をつけましょう。ほかにも布おむつを厚めにつける“厚おむつ”も有効です。新生児期におくるみなどで股関節を外からきつく圧迫すると股関節脱臼を生じることがあるため、両足を締め付けないようにすることも大切です。
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