概要
奇形腫とは、胚細胞腫瘍と呼ばれる腫瘍の1つです。胎児期にさまざまな臓器に分化する能力を持つ“原始胚細胞”が腫瘍化したものと考えられています。精巣や卵巣などの生殖器に発生しやすいですが、後腹膜や仙骨部などお腹の中、松果体など脳の一部に発生することもあります。
奇形腫は“成熟奇形腫”、“未熟奇形腫”、“卵黄嚢腫瘍”の3つのタイプに分かれ、さらに未熟奇形腫は未分化な腫瘍が含まれる割合によってGrade1、2、3に分かれます。また、成熟奇形腫は良性の腫瘍ですが、未熟奇形腫は悪性腫瘍の一種と考えられています。卵黄嚢腫瘍はさらに悪性度の高い腫瘍で、進行が早いのが特徴です。
症状は発症する部位やタイプによって異なりますが、成熟奇形腫の場合は腫瘍の内部が髪の毛、皮膚、歯などの組織で満たされ、時間をかけて大きくなることで周囲の臓器を圧迫してさまざまな症状を引き起こします。一方、未熟奇形腫や卵黄嚢腫瘍の場合は大きくなるスピードが速く周囲の臓器にダメージを与えながら成長していくため、より重い症状が現れるのが特徴です。
治療では基本的に手術が必要になりますが、悪性の場合は抗がん剤や放射線治療を行うことも少なくありません。
原因
奇形腫は胎児期にさまざまな臓器に分化する能力を持つ“原始胚細胞”が増殖することによって腫瘍になることで発症する病気です。どのような原因で原始胚細胞が腫瘍になるのか明確なメカニズムは解明されていません。
症状
奇形腫の症状は、組織のタイプや発症した部位によって大きく異なります。
精巣や卵巣に発生した場合は、睾丸が肥大化する・下腹部にしこりを触れるといった症状が現れ、卵巣に発生した場合は腹痛や腰痛などを引き起こすことも少なくありません。また、腫瘍が大きくなると卵巣の根元が捻じれて血流が途絶える“付属器捻転”を引き起こし、突然の激しい腹痛とともに血圧低下などのショック状態に陥ることもあります。
また、奇形腫は後腹膜や仙骨部、胸、脳に発生することもあります。症状は発生する部位によって大きく異なりますが、後腹膜や仙骨部に発症した場合は背中の痛みなどが生じ、胸に発症した場合は胸痛や呼吸困難などが生じます。また、脳に発生した場合は麻痺や知的機能の低下、視野の異常、水頭症などの症状を引き起こし、ホルモン分泌異常が生じることも少なくありません。
上で述べたとおり、奇形腫には良性のものと悪性のものがあり、悪性のタイプは周辺の臓器にダメージを与えながら大きくなっていくため、発症部位によっては消化管や肺などが破れて重篤な状態になることもあります。
検査・診断
奇形腫が疑われるときは以下のような検査が行われます。
画像検査
腫瘍の大きさ、位置、周辺臓器への圧迫や浸潤の程度、転移の有無などを調べるためにCTやMRI、超音波などによる画像検査が必要です。
血液検査
確定診断を下すことはできませんが、診断の補助としてAFPやβ-HCGなどの腫瘍マーカーを調べることがあります。また、奇形腫に伴うホルモン異常や貧血、炎症の有無などを調べるのも一般的です。
なお、腫瘍マーカーの測定は診断のためだけではなく、治療経過や再発の有無を評価するために行うことがあります。
病理検査
奇形腫の確定診断や悪性度などを決定するには腫瘍の組織の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる病理検査が必要になります。手術で摘出した後に行うケースもありますが、治療方針を決定するために皮膚から腫瘍に針を刺して組織を採取したり、内視鏡などを用いて採取したりすることで検体を利用する生検が行われることもあります。
治療
奇形腫の治療方法は発生した部位や悪性度によって大きく異なります。
いずれのタイプの奇形腫も根本的に治すためには手術が必要です。良性の奇形腫の場合は手術のみで治すことが可能ですが、悪性の場合は再発することもあるため、抗がん剤治療や放射線治療を行うことがあります。また、脳に発生した場合も基本的には手術による摘出が行われますが、手術ができない部位に発生している場合や全て摘出できない場合には放射線治療が行われます。さらに、術後にホルモン分泌の異常が生じる場合は永続的にホルモンを補充する治療が必要になるケースも少なくありません。
予防
奇形腫は明確な発症メカニズムが解明されていないため、予防法も確立していないのが現状です。奇形腫の多くは良性腫瘍ですが悪性の場合もあるため、何らかの体調の変化を自覚した場合はできるだけ早く病院を受診して検査・治療を受けるようにしましょう。
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