概要
胚細胞腫瘍とは、胎児の発達の過程で見られる“原始胚細胞”と呼ばれる細胞が体内に残り、悪性化することによって生じるがんと考えられています。“原始胚細胞”はさまざまな組織や臓器のもとになる細胞であり、通常は発達の過程で消失していきます。しかし、何らかの原因で生まれた後も体内に残ると、この病気を発症する可能性があるといわれています。
胚細胞腫瘍は、精巣や卵巣などの生殖器にできるもの(性腺原発)と脳・胸・お腹の中などにできるもの(性腺外原発)の二つのタイプに分類されます。また、組織の違いによって悪性度(転移のしやすさや病状の進み方)が異なり、さらにさまざまなタイプに分類されます。
しかし、どのタイプも10~30歳代の若い世代に多く発症するのが特徴で、90%は20歳未満で発症します。さらに男児に多く発症し、欧米に比べ日本人の発症率が高いのも特徴です。
症状は発症した部位によって異なりますが、脳にできた場合は意識障害など重篤な症状を引き起こすことも少なくありません。しかし、胚細胞腫瘍は、進行して転移を起こした状態であっても適切な治療を行うことにより治ることもあるがんとされています。
原因
胚細胞腫瘍の原因は、現在のところ明確には解明されていません。
胚細胞腫瘍自体は、胎児の頃に見られるさまざまな組織や臓器のもととなる“原始胚細胞”が体内に残り、それががん化することによって発症すると考えられています。しかし、どのようなメカニズムで“原始胚細胞”が体内に残り、それががん化するのかは明らかになっていません。
一方で、現在では多くの研究により、胚細胞腫瘍を発症した人に高頻度で遺伝子や染色体の異常がある場合も報告されています。このため、胚細胞腫瘍は遺伝子や染色体変異により発生している考えもあり、精巣胚細胞腫瘍など一部の胚細胞腫瘍と関連する遺伝子・染色体の変異が報告されているものもあります。
症状
胚細胞腫瘍の症状は発生した部位によって大きく異なります。
精巣や卵巣に発生した場合は、それらの臓器に腫れが生じます。精巣の場合は痛みを伴わない睾丸の腫れやしこりが見られるため比較的早く発見することが可能ですが、卵巣は体の深くに位置するため症状が現れにくく、発見が遅れてしまうことも珍しくありません。しかし、進行すると下腹部痛や下腹部のしこりが生じるとされています。
一方で、性腺外原発の胚細胞腫瘍は体の中心部に発症しやすいのが特徴であり、縦隔(左右の肺に挟まれた空間)や仙骨部(お尻の辺り)、脳の中心部などに多く発生します。
縦隔に発生した場合は胸の痛み・咳・息切れなどを引き起こし、仙骨部に発生した場合はお尻にしこりが生じるほか、周囲を走行する排便・排尿を司る神経にダメージを与えて排便や排尿の異常を引き起こすことも少なくありません。
また、脳に発生した場合は、頭痛や嘔吐など頭蓋内圧上昇に伴う症状のほか、ホルモンの産生を生じる下垂体に発生したケースでは、視野の異常、ホルモン分泌異常による成長障害や食欲低下などを引き起こします。
検査・診断
胚細胞腫瘍に対しては次のような検査が行われます。
画像検査
腫瘍の大きさ、位置などを確認するため、発生が疑われる部位に合わせて超音波検査、CT検査、MRI検査などの画像検査が行われます。
また、転移の有無を確認するため、発生した部位だけでなく、全身のCT検査やPET検査が行われることもあります。
血液検査
胚細胞腫瘍を発症すると血液中の“AFP”や“HCG”と呼ばれる物質が増えることが分かっています。このように、特定のがんを発症すると血液中に増える物質のことを“腫瘍マーカー”と呼びますが、胚細胞腫瘍では“AFP”や“HCG”が腫瘍マーカーとして用いられます。
また、“AFP”や“HCG”の血中濃度は病状を反映することも分かっています。このため、診断を下す手掛かりとしてだけでなく、診断や治療後の経過観察を目的として調べられることも少なくありません。
病理検査
胚細胞腫瘍の確定診断のために必要な検査です。
腫瘍の組織の一部を採取して顕微鏡で詳しく観察します。腫瘍組織の特徴などを正確に調べることができるため、数多い胚細胞腫瘍のどのタイプのものであるか特定することが可能です。
組織を採取するために体表から針を刺したり、内視鏡を挿入したりする必要がありますが、治療方針を決めるうえでも大切な検査とされています。
治療
胚細胞腫瘍の治療では、手術・化学療法(抗がん剤)・放射線療法が行われます。
腫瘍の組織のタイプによって選択される治療法は異なりますが、精巣や卵巣に発生した場合、基本的には病変を取り除く手術を行います。一方、精巣や卵巣以外の部位に発生した場合、治療の主体は化学療法や手術となります。しかし、脳に発生した場合は抗がん剤が効きにくいため放射線療法を併用することも少なくありません。
このように、胚細胞腫瘍は発生した位置や大きさ、組織のタイプによって治療方法が異なります。治療方法については担当医とよく話し合って決めていくようにしましょう。
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