概要
家族性化膿性汗腺炎とは、皮膚の毛包に慢性的な炎症が起こる病気です。毛包は、毛穴の奥にあり、毛を取り囲んで毛の産生に関与する袋状の組織です。この病気では、毛包の詰まり(毛包閉塞)をきっかけに持続的な炎症が生じ、赤みや痛みを伴うしこり、皮膚の下に膿が溜まる膿瘍などの症状が繰り返し現れます。以前は慢性膿皮症と呼ばれていた病気で、国内の患者数は明確になっていません。
症状は主に、腋の下やお尻、肛門や性器周辺などの特定の部位に現れやすく、改善と再発を繰り返すことが特徴です。この病気が進行すると、傷が治る過程で皮膚が厚くなり、傷あとが残る瘢痕が生じることがあります。また、膿瘍の内部にたまった膿の出口として皮膚の下に空洞ができる瘻孔が形成されることもあります。さらに病変の一部が悪性化して有棘細胞がんを発症するリスクもあるため、早期発見・診断と適切な治療が重要です。
治療では、抗炎症作用のある一部の抗菌薬や生物学的製剤などによる薬物療法が行われますが、重症例では病変部を外科的に切除する治療が必要となることもあります。
原因
家族性化膿性汗腺炎の原因は現在のところ不明ですが、遺伝的要因と環境的要因があると考えられています。遺伝的要因として、γセクレターゼ遺伝子の変異などが報告されています。 研究によると、欧米では約3分の1の患者に家族歴が認められるのに対し、日本で家族歴のある患者は2~3%と報告されており、ほかにも原因となる遺伝子が存在することが想定されています。
家族性化膿性汗腺炎を含む化膿性汗腺炎は、毛穴の閉塞をきっかけに発症するとされています。なぜ炎症が起こるのかはまだ詳しく分かっていませんが、毛包部位での自然免疫*の過剰な活性化が要因の1つと考えられています。
環境要因としては、喫煙と肥満が挙げられます。たばこに含まれるニコチンは毛包の閉塞を促進する作用や炎症を増強する作用があり、肥満は皮膚への物理的負荷を増大させ、さらに炎症を引き起こす物質の分泌を増加させることが報告されています。これらの遺伝的要因と環境的要因が互いに影響し合い、病気の発症や症状の重症化につながっていると考えられています。
*自然免疫:体内に侵入した病原体や異物に対して最初にはたらく生体防御システムのこと。生まれつき備わっている基本的な免疫機能で、病原体や異物を素早く認識し、攻撃して体外へ排除しようとするはたらきをもつ。
症状
家族性化膿性汗腺炎の初期症状として患部に赤みや痛みを伴うしこりが形成され、膿瘍へと進展します。膿瘍が破裂すると悪臭を伴う膿が排出されることがあります。これらの症状は、腋の下、お尻、肛門や性器周辺、乳房の下(女性のみ)などの部位に特徴的に現れます。
この病気の特徴として、症状の改善と再発を長期にわたって繰り返すことが挙げられます。複数の膿瘍が連なって大きくなり、広範囲に拡大することもあります。重症例では瘢痕や瘻孔が形成され、皮膚の下にトンネル状の空洞を形成することもあります。
これらの症状は患者の日常生活に大きな影響を及ぼします。患部の痛みによる動作の制限や、膿による衣服の汚れを気にして外出を控えるなど、生活の質が著しく低下することがあります。また、有棘細胞がんを発症するリスクもあるため、症状の重症化を防ぐためにも早期の治療が重要です。
検査・診断
家族性化膿性汗腺炎の診断は、主に視診と問診によって行われます。医師は腋の下やお尻、肛門や性器周辺、乳房の下などを観察し、繰り返し生じる赤みや痛みを伴うしこり、膿瘍、瘢痕、瘻孔の有無を確認します。これらの特徴的な症状が半年間に2回以上現れている場合には化膿性汗腺炎が疑われます。さらに、家族内で化膿性汗腺炎の方がいる場合には、家族性化膿性汗腺炎と診断されます。
補助的な検査として、病変部の皮膚を一部採取して毛包の閉塞や炎症などを顕微鏡で調べる病理組織学的検査や、遺伝子検査が実施されることもあります。
治療
家族性化膿性汗腺炎の治療は、主に薬物療法と外科的治療に分けられます。薬物療法では、抗菌薬や生物学的製剤が使用されます。抗菌薬にはクリンダマイシンの内服薬や外用薬、ドキシサイクリンの内服薬などがあり、これらにより症状の悪化を抑えます。症状が進行してこれらの薬剤で効果がみられない場合には、アダリムマブやビメキズマブなどの生物学的製剤を皮下注射で投与し、炎症を抑える治療を行います。症状が進行すると効果が低下するため、できるだけ早期に治療を開始することが重要です。また、病変部を清潔に保つことも大切です。
外科的治療では、膿瘍を切開して膿を排出する処置や、瘢痕や瘻孔そのものを切除する手術が行われます。病変が広範囲に及ぶ場合には、植皮や再建術が必要となることもあるため、早期の対応が望まれます。
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