概要
尿素サイクルとは体内で生成された有害なアンモニアを肝臓で無害な尿素へと変換する過程を指します。このサイクルに異常が生じると、アンモニアなどが体にたまり、さまざまな症状を呈します。ときに生命に関わるような状況に陥ることもあります。
尿素サイクルにはいくつかの酵素が存在し、この酵素のいずれかに先天的な異常があるものを尿素サイクル異常症と呼びます。尿素サイクル異常症はそれらの病気の総称であり、以下が含まれています。
- Nアセチルグルタミン酸合成酵素欠損症
- カルバミルリン酸合成酵素欠損症
- オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
- 古典型シトルリン血症
- アルギニノコハク酸尿症
- アルギニン血症
多くは乳幼児期に発症しますが、なかには成人になって初めて診断されることもあります。尿素サイクル異常症は、日本では8,000~44,000人に1人の頻度で発症し、難病に指定されています。
原因
尿素サイクル異常症は先天性疾患であり、遺伝性があります。オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症は性染色体の異常(X連鎖性)により発症しますが、その他の異常症はすべて常染色体劣性遺伝の遺伝形式をとります。
尿素サイクル異常症では、尿路サイクルの各段階の酵素などが正常に作用しなくなり、有毒なアンモニアが尿素に変換されずに体内に蓄積してさまざまな症状が引き起こされます。
症状
生後まもなくから体内にアンモニアが蓄積し、哺乳拒否や傾眠が生じます。昏睡や死亡に至ることもまれではありません。
酵素の異常が軽度な場合には、反復する嘔吐や片頭痛、気分不安定、慢性的な倦怠感や行動異常が生じるものの、長期にわたって診断されないケースもあります。
成人まで的確な診断がされないケースでは、高たんぱく質の食事を摂ることで急激な高アンモニア血症や急性肝不全を発症し、昏睡状態になることもあり、女性では出産後に症状が顕著に表れることが知られています。
また、アルギニノコハク酸尿症では極度な髪の毛のねじれ、アルギニン血症では進行する両側麻痺など、特有の症状が見られます。
検査・診断
尿素サイクル異常症の確定診断には、血液検査によるアンモニア濃度の計測が必須ですが、血中アンモニア濃度はさまざまな肝臓疾患で上昇します。そのため、血中や尿中のアミノ酸分析、尿有機酸分析などが行われ、必要に応じて遺伝子検査が行われることもあります。
また、アニオンギャップと血糖値が正常なのが特徴であり、臨床症状や家族歴が本症に合致し、長く続く高アンモニア血症があり、アニオンギャップと血糖値が正常な場合には本症を疑って、特殊な検査が行われるのが一般的です。
治療
基本的には薬物療法と食事療法によって血中のアンモニア濃度の低下を図ります。
特に症状がない場合には、タンパク質制限食とアルギニンやシトルリンの補充が行われます。高アンモニア血症によって昏睡などの症状が現れた場合には、フェニル酢酸と安息香酸の注射、アンモニア合成を阻害するための糖質と脂質の補給、インスリンの投与が行われます。これらの対処療法によっても症状が改善しない場合には血液透析が行われます。
また、脳浮腫が見られる場合には、脳圧低下作用のある薬物療法などの標準的な治療を行うこともあります。
さまざまな治療に対しても症状が改善しない重度な尿素サイクル異常症では、肝臓移植による根本的な治療が必要となります。
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